- 日時: 2013/08/19 21:01
- 名前: しろ (ID: .2iOXHH/)
――どうしてこんな事に……。
少女は震える手でなんとか手にしていたナイフを地面に突き立て、手首を固定していた縄を切る。 両手首はきつく縛られていたからか、縄の跡が赤く残っている。 痛む手首に少女の涙腺が脆くなるが、今はそれでころではない。 口に巻かれている猿轡を外し、とりあえず自由になれた事に少女はまずは安心した。
「どこに……行ったのかしら」
あの巨大な化け物から身を隠す為に、必死に草木をくぐり抜け走ってきた。 なんとか逃げ切り、偶然に見つけた小さな天然の洞窟に身を潜めたが――死にもの狂いで走り抜けた結果、セズナの街への方角を完全に見失ってしまった。 この沼地にはあの化け物だけではなく、他の化け物もいるかもしれない。 早くこの沼地を脱出しなければ、自身の命がない事は明白であった。
「どうしよう……」
ここでじっとしていても助けがくるかは分からず、いずれはあの化け物に見つかるかもしれない。 とはいえこの手持ちのナイフ一本でこの沼地を脱げ出すことができるとは思えない。 どちらにせよ、自身の命の危険が身に迫っているのは変わりはない。
「お父様……」
もうお父様は私を助けるために搜索隊を結成してくれているだろうか? その搜索隊が搜索している箇所はこの沼地なのか……それとも未だに他の場所を探しているのだろうか? それとも……見つからずに探索を……?
少女の頭に巡る考えはどれも絶望的状況のものでしかなかった。 自分の居場所を探索隊が把握しているかも分からないのに、ここで救助を待っても……意味はない。 そうなると必然的に答えは一つになる。
「ここを……抜け出さなくちゃ」
あの化け物や他の化け物に見つからずに、沼地外へと抜け出る。 生存できる可能性は極めて低いが……少女は意を決した。 少女は「よし」と一息つくと、ナイフをギュッと握り締め、草木生い茂る沼地の中へと姿を消した――。
その頃、白銀の空へと居残る事となったレイは厨房にいた。 レイの右手には包丁、左手にはセズナの街海域で捕れる魚類。 レイは手際良く、魚の頭を包丁で落とし、腹を裂き、内蔵を取り出し、丁寧に塩水で洗い流す。 そして身を三枚へとおろしてゆく――その手馴れた捌き方を見て、レイの隣にいた女性の老人が驚嘆の声をあげた。
「レイッ……あんた、手際いいよッ」
この老人、普段は白銀の空にて食事を団員たちの食事を作っている白銀の空の一員である。 もう齢80をゆうに越しているだろうと噂であるが、その真意は定かではない。 その老人の顔にニンマリとした笑顔を返すレイ。実に得意げに鼻を摩る。
「料理とか小さい頃から母さんから教えてもらってたから」
両親とも出稼ぎにでるレイの家では、よくレイが家の炊事をしていた。 それゆえに彼は魚の捌き方も、調理の仕方も良く理解しているのだ。 捌いた魚に適度に塩を塗し、火が煌々と燃えている釜戸の中へと耐熱皿に魚を添えて入れ込む。
「そうかい、あんたが料理得意なら来た当初から手伝わせればよかったね」 「ごめん、なかなか言い出す機会なくてさ」 「いいさね……まぁそれにしても急に料理がしたいって言い出した時はわたしゃぁ驚いたよ」
老人はレイの肩を叩きながら笑う。
「いや……僕にできる事をしたいんだ、ちょっとでも役に立ちたいから」 「そうかい、それは感心なことだね」 「……あの人たちに僕の料理を食べてほしいしね」
セーヤ、トール……そしてセナ。自分には彼らのようにまだ戦う力はない。 今も彼らは化け物との戦いに出向いている。自分と同じ頃の子供を救うために。 自分も戦いたい。一匹でも多くの化け物をこの手で殺したいけど……ついて行った所で足でまといになるのは目に見えている。 なら今は彼らを少しでもサポートして、今は自分の代わりに多くの化け物を殺してもらうんだ。
腰に佩いている短剣にそっとレイは手を添え、目を瞑る。 その目には、今もなお鮮明に映るあの飛竜の姿が写っていた――。
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>>112 応援ありがとうございます! 執筆には基本的にメモ帳で行なっております。 わたしにはちょっとwordは見づらくて(;´Д`) アドバイス、ありがとうございますm(_ _)m
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