- 日時: 2013/09/05 20:19
- 名前: しろ (ID: 06p9sCFB)
「ねぇねぇ、セナちゃんってさ……彼氏いるの? 」
この娘は何を言っているんだろうか?
「いませんよ」 「へぇー意外ッ! 美人さんだからてっきりモテモテなのかと思ったッ! 」
ジーナは大袈裟に驚く仕草をしながら、前を歩くセナの背中を叩く。 そんなジーナに兄のナイゼが呆れたように「静かにしろ」と声を潜めながらジーナを睨む。
「化け物がどこに潜んでいてもいい場所なんだぞ、少しは静かにしろ」 「はーい」
ジーナはニヤニヤと薄ら笑いをしながら、セナにそっと小声で語りかけた。
「お兄ちゃんね……セナちゃんの事狙ってるよ」 「ぶっ……、そ、そんな」
つい吹き出してしまったセナの様子を楽しげにからかう姿はまるで子供。 セナはもうジーナの声に耳を傾けないと心に誓った時、前を先導するトールが足をピタッとを止めた。
「んっ、どうしました? トールさん? 」 「待て……」
トールはそっと前方を指さす。 トールの指さすその先には深く抉られた地面と、そこに無残に飛び散る血肉であった。 それはまさしく、少女と化け物が遭遇した場所である。
「……何? 」
トールはゆっくりとその場所へ近寄り、そっとその血肉を指で触る。
「まだ生暖かい……それにこの布、服の切れ端か……」 「という事は……人間ですね」
サッと六人は円陣を組み、周囲を警戒する。 この死体がこうなるきっかけとなった何かが近くに潜んでいる可能性があるからだ。 弓を構えながらセナは軽く舌打ちをする。伸びきった草木で視界が悪い。
「隊長、ここで襲撃されたらちょっと……」 「そうだな……ここじゃ目も効かねぇし、沼に囲まれてるから動きづらい」 「すぐに移動をしたほうがいいですね」
ナイゼの提案に皆が頷き、陣形を組みつつゆっくりとその場を離脱してゆく。 とにかく自分たちの戦いやすい位置までの移動を最優先しなくてはならない。 戦士達の顔には、先程までの余裕の表情はなかった――。
彼は疲れていた。 いくら住み慣れた沼地とはいえ、小さな獲物を追い回したのだ。 その巨体にはいくらかの疲労が溜まっていた。 ゆっくりと沼の中を潜伏しつつ、己の住処へと向かう彼。 だが……。
――?
何かが動いた。 彼は沼の中から覗かせている小さな目を更に細める。 生い茂る草木、沼地に頭を覗かせている岩、途中から腐れ果て折れている木々――全てに意識を集中する。
――!
あの生物の姿を彼は草木ごしに確認した。 しかし数を把握することはできない。 ゆっくり、ゆっくりとその獲物の姿が見えた付近へと近づいてゆく。
――。 ――!
数は6匹。この程度の数ならつい近頃に殺した。 彼は音をたてないように沼の中へと身を潜める。 眼前の獲物を狩る為に。そして己のテリトリーを守るために――。
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