- 日時: 2013/06/12 19:04
- 名前: しろ (ID: qiXQzgoO)
「ふむ……これはなかなかの獲物だな」
熊の死骸がギルド支部より来た者達の手により、台車に乗せられていた。 化け物の死骸は大体はその場で解剖し、使用できそうな部分と使用不可能な部分に分けられる。 ハンターや傭兵達の手により破壊、傷ものとなった部分を使用不能部分、それ以外を使用可能部分としている。 ギルドの支部はその使用可能な部分のみを傭兵から買い取り、ギルドの直属の兵の装備としているのだ。
「そうだろ? いくらで買い取る? 」
セズナより帰還したセーヤが得意げにギルド支部の男に聞く。 男は腰のポシェットから紙を取り出し、羽根筆にて何かを書き、セーヤへとそれを渡す。 その紙を覗いた瞬間、セーヤの瞳は輝いていた。
「おうっ!? いいのか!? こんなに!? 」 「構わん。いつもお前達には世話になってるからな」
男はニヤッとセーヤに笑みを返し、台車に熊を乗せた部下達に手で合図をする。 台車はゆっくりと台車を引く馬により動き出し、台車に男は乗り込んだ。 その台車を護衛する形で部下達が両脇を闊歩している。
「ではまたよろしく頼むぞ」 「おうよ、任された! 」
その場から去ってゆく馬車を見送るセーヤ。その後ろでレイは大きな欠伸をしていた。 そんな彼の横でセナは微笑む。
「疲れた? 」 「……ちょっと、ね」
レイは肩を竦めながら一息つく。 結果的には襲撃はなかったものの、やはり闇の中での警戒は気を張るものだった。 日が明け、セーヤとトールがギルド支部の者達を連れて帰還してきた時には安堵感からか腰が抜けてしまった。 そんな彼の姿を見ていたセナは「頑張ったね」と彼を誉める。
「頑張った? 」 「うん、君は頑張ったよ」
セナの頬笑みにレイは頬を赤く染める。 実際はセナに守られるしか術がなかった自分を褒めてくれる彼女の優しさに彼は嬉しくも情けなくもなった。 そんな二人のやり取りをニヤケ顔で眺めていたセーヤ。 その視線に気がついたレイは不快そうに顔を歪める。
「……なんだよ? 」 「別になーんにもございませんよ、坊ちゃん」 「……隊長 」
睨みつけるセナにおどけた様子でセーヤは手にもっていた紙で自身の顔を隠す。 それはギルド支部から来た男から渡された紙であり、紙面には3000zの文字とセズナギルド支部のスタンプが大きく押されていた。 3000zといえばレイの両親が行っていた野菜の行商の2〜3か月分である。 驚くレイに、紙面の横からぬっと顔を出したセーヤ。その顔は笑顔に満ち溢れていた。
「これなら少しの間、食い扶持には困らんぞ……諸君」 「そうだな、隊長」
セーヤの後ろで腕を組んだまま頷くトール。常に仏頂面である彼の顔にも笑みが浮かんでいた。 トールの笑顔なんて珍しいとセナの耳打ちにレイは苦笑する。 トールの笑顔ほど似合わないものもそうそうないだろうと彼は思った。
「なんだレイ? 人の顔をジロジロと……」
トールの地鳴りの様な低い声にレイは慌ててなんでもないと首を振る。 訝しがるトールを尻目に、セーヤは出発する旨をメンバーへと伝える。 遅くとも今日の夕方にはセズナに到着するだろうとの事だった。
「レイ、お前セズナは初めてだよな? 」 「うん、今まで村から一度も出たことないから……」 「ほほーん。じゃあ腰を抜かすなよ、セズナに着いたら」
セズナ……商業都市として栄え、狩猟稼業も繁栄している街。 話だけでしか知ることのなかった街へ向かい、これから新たに生活を送る事になる。 少年は高鳴る胸の鼓動を抑えることはできなかった――。
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