- 日時: 2013/09/06 21:25
- 名前: しろ (ID: H5iPU0I/)
「……ッ!? 」 「ん、どうした? ケイト? 」 「いや……今何か動いたような気が……」
ケイトは腰に佩いた刀を、腰のベルトに括り止めていた紐ごと取り外し刀を鞘ごと地面に突き刺す。 ゆっくりと鞘から刀身を引き抜き、刀を斜め下へと構え、自身の前方に広がる沼地を睨みつける。 彼の眼前に広がるどす黒い沼地には、沼の中から鬱蒼と生い茂った草木と……岩。
「おい、さっきあんな岩なかったぞ」 「岩……? それは確かか? 」 「あぁ……確かにあんな岩はなかっ……」
ケイトの言葉は、彼らに降り注いだ突然の泥の雨によって遮られた。 大量の泥水が降り注ぐと共に泥の中から飛び出してきたのは巨大な岩……それは彼らの頭上を軽く飛び越え、地面へと転がり出た。 泥の雨と転がり出た岩が地面を転がった勢いで撒き散らされた砂のカーテンにハンター達は驚愕を隠しきれない。
「なッ、なんなんだッ!? 」 「ちっ、化け物に決まってんだろうがッ! 」 「仕方ありません、舞台はこちらに不利ですが……皆さん迎撃をッ! 」
ナイゼの言葉が終わらないうちに、セナの弓から放たれた一筋の矢。 それは宙に渦巻く砂の煙を打ち切り、真っ直ぐに岩が転げ落ちた箇所へと疾走する。 そしてすぐさま砂煙の中から鳴り響く矢尻が弾かれた金属音――矢の疾走は、強固な岩の前には無意味であった。
「弾かれたッ!? 」 「だったら……これはどう!? 」
続きざまにジーナの弩が爆音を鳴らし、一筋の弾道を描きながら獲物へと放たれる弾。 それはターゲットへの進路を突き進みながら、放たれた衝撃により自身の殻を打ち破り、内部より無数の鉄の破片を放出する。 無数の金属音が噴煙の中から鳴り響き、砂煙の中から何かのうめき声が漏れ出てきた。
「よし、奴に行動する機会を与えるなッ! 一気に殺せッ! 」
砂煙が徐々に薄まる中、一気に目標へと駆け寄ってゆくセーヤ。 それに続くように盾を眼前に掲げながら突撃するトールとナイゼ、そして刀を構えつつ躙り寄るケイト。
「隊長ッ! 」
セナの声が響くと同時に、先頭を駆けるセーヤに向けて、砂煙を切り裂くようにして降り下ろされる小さな岩。
「うおッ!? 」
瞬時に大剣を自身の頭の上にかざし、その一撃を弾く――が、その一撃でセーヤは勢い良く後ろへと弾き飛ばされた。 セーヤの体をなんなく弾き飛ばす力に目標に攻勢をかける構えを三人の男達は解き、一時後方へと下がり、体制を崩しているセーヤを庇うように前面に立つ。 すぐに立ち上がり大剣を構え直すセーヤ、その顔には怒りで額に青筋が浮だっていた。
「ちッ……あんにゃろぉ……流石に馬鹿力だな」 「怪我はありませんか? 」 「あぁ……大丈夫だ」
消え去った砂煙の中から姿を表したのは、ハンター達が手配書で見た化け物の姿と酷似していた。 その化け物は巨大な尻尾を悠々と己の頭の上で揺らし、不敵にハンター達を見下ろす。先ほどセーヤを弾き飛ばしたのも、あの尻尾であろう。 巨体にはジーナの放った攻撃による負傷の後は見て取れない――代わりに化け物の足元に無数の泥の塊が転がっていた。
「あの泥……あれでこちらの攻撃を防いだ……? 」 「そうだろうな、じゃなきゃ無傷で済むはずないからな」
再び各々の武器を構え体制を整えるハンター達に、化け物は鼓膜を切り裂かんばかりの咆哮をあげる。 「貴様らを生かして返さない」とでも言うかのごとく荒々しいその咆哮は、空気を振動し、セナが構えていた矢を弾き飛ばすほどである。
「くぅ!? うるせぇ! 」 「……セーヤさん、来ますよッ! 」
化け物の咆哮に怯むことなく動き出したナイゼに続き、トールも化け物の側面を取るべく右側へと駆け出した。 出遅れたセーヤとケイトもそれぞれ正面と左に別れ、化け物を包囲するように位置取りを行う。 それを後方からサポートする形となるセナとジーナ――だが、それらを迎え撃つ竜の顔にはどこかしら余裕の面影があった――。
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