- 日時: 2013/06/12 22:01
- 名前: しろ (ID: qiXQzgoO)
「よう、久しいな」 「……」
セーヤの問いかけに応えない女性。 狐の様な目付きが特徴的なその顔はセーヤを見ても微動だにしない。 どこか怖そうな女性……それが彼女に対してのレイの第一印象だった。
レイ達は今セズナの『セズナギルド支部』を訪れていた。 ギルドの者から受け取った換金用の券をここで換金するためだ。 ギルド支部……ギルドの総轄する施設なのだから大層立派な建物だとレイは思い込んでいたが……現実は違った。 外観を見た時の印象は故郷の村にでもあったような小さな家。それも外装は年季が入っているのか、薄汚れ、壁は所々にヒビ。 内装は座れば壊れそうな木造の古びた椅子がいくつか並んでおり、小さな受付窓があるだけのシンプルな内装。 その受付に座る狐目の女性以外、ギルドの者と思しき人もいない。 ギルド支部のあまりの小ささに意味もなく落胆するレイの姿を見てセナは笑った。
「ほら、これを換金してくれや」
セーヤが差し出したギルドの換金券を女性は無言で受け取り、受付の後ろにある扉を開けて中へと消えていった。 セーヤは苦笑いをしながらレイへと視線を向ける。
「いつもあんな調子よ、あいつ。 声なんか聞いたこともねぇ」 「……確かにあの子の声聞いたことないかも」
相槌をうつセナ。その横でトールも静かにコクりと頷いた。 それほど無口な人なのだろうかとレイは思いつつも、扉が開く音に視線を向けた。 レイの視線の先には小さな袋を持った女の姿があった。
「……」
女は無言でその袋をセーヤへと差し出す。 金属が擦れる音がする……袋には金が入っているのだろう。 セーヤは女からそれを受け取ると、ニタニタ笑いながら女へと声をかけた。
「よぅ姉ちゃん。 こちとら客なんだからもちっと愛想良くできんのかい? 」 「……」 「ちょっと……隊長」
セナがセーヤの腕を掴み、ぐいっと後ろへ引っ張った。 その調子に足がもつれ勢い良く後ろへと倒れ込むセーヤ。 ゴツッと鈍い音が室内に響きわたる。
「いてぇなぁ! 何すんだ!? 」 「隊長が余計なこと言うからでしょ! 」 「……んだとぉ? 俺は正論を言ったまでで……」 「今言う事じゃないでしょ! 本人がいる前で! 」
言い争う二人をレイは宥めつようとしたが二人の言い争いは止まることなく加速してゆく。 よほど日頃の鬱憤が溜まっていたのか、日頃割と静かなセナがセーヤに負けず劣らずの罵りをセーヤへと浴びせる。
「だいたい隊長は人の気持ちを考えないでものを言い過ぎです!それでどれだけの人が傷ついてるか! 」 「あーんっ!? だーれが人を傷つけてるって!? 」 「あなたです! この前だって女の子泣かしてたでしょ!? 」 「ありゃぁ違うって! あれはあの女が……! 」 「またそうやって人のせいにする! だいたい隊長は……」
これは止めようがないと判断したレイはトールへと助けを求めた……が彼は笑っていた。 この人は止める気がないとレイが絶望したその時、女が無言でセーヤとセナの合間に割って入った。 その顔には狐ではなく鬼の形相が浮かんでいる。
「……」 「あ、あぁ……ご、ごめんなさい」 「お、おう。 俺も悪かった……うん」
無言の圧力おそるべし……といったところだろうか。 女はセーヤに一枚の紙と羽筆を手渡した。 どうやら金を受け取った事を証明する証明書への記入を求めているらしい。
「あぁ、これな。ほいほい」
セーヤは自身の名前を記入し終えると、紙を女へと返した。 その紙をサッと目を通した女は受付の引き出しを開け、中から小さな判子を取り出す。 判子をセーヤの名前の横に押し、その名前より下の部分を切り取りセーヤへと返す。 書類の控えなのだろう。
「ありがとよ、また来るわ」 「……」 すべての手続きを終えると、女は証明書を手に部屋から出ていった。 取り残された4人。無言で外へと出ていくトール。そのあとをセナとセーヤも続く。 最後に外へと出ようとしたレイの後ろからふと声がした。
「頑張って、新入さん」 「……えっ? 」
後ろを振り返る。だが誰もいない。 レイは怪訝に思いながらもゆっくりと扉をくぐり外へと足を踏み出す。 彼の後ろ姿を受付の後ろの扉の隙間からジッと覗いている狐目があった――。
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