- 日時: 2013/07/01 20:24
- 名前: しろ (ID: zrBnjmGg)
夜の帳が下り、セズナは闇の淵へと沈む。 次々と闇に飲みこまれてゆく中、ポツリポツリと小さな明かりが灯る。 街に住まう住人達の家に点く、暖かな淡い光だった。 そして狩猟居住地区にあるとある小さな一軒の建物にも暖かな光が灯った。 その建物の壁は独創的であった。 周囲の建物は普通に木造や石造りの壁であり、小奇麗である。 それに対しこの建物は木造の作りであるのには変わりはないのだが、所々に獣の皮を装飾として飾ってあった。 まるでそこに住まう者達の力を誇示しているようだ。 だが、その毛皮が飾られていない箇所には、ところどころに板で補修した跡が嫌でも目につく。 そこまで新しい建物ではないことが一目でわかる程に古い。 そして一番の注目すべきところは建物の入口と思われる扉の上に掲げられた木の看板に書かれた文字。 そこにはデカデカと『白銀の空』と汚い文字で書きなぐられており、その下には小さく『傭兵団』の文字。
「おらぁ!新入り!元気がねぇぞぉ!? 」
そこに住まう傭兵達の荒々しい声が補修された壁から外へと漏れ出ている。 その建物では新たな団員を祝うための『祝賀会』が催されているのだった――。
狭い室内では、何十人もの団員達が乱雑に置かれているテーブルに各々陣取り、酒を酌み交わしていた。 飲み散らかされた酒瓶が床にいくつも転がり、歩くのに苦労するほどである。 壁には『新入り歓迎』と乱雑に書かれた木の板が飾られ、その板の下に置かれた特別席に本日の主役がいた。
「セーヤ!酒臭いって!」 「酒臭くて結構!おらぁ!お前も飲まねえか! 」 「ちょ……臭いって!顔近いから! 」
そう、この宴はレイの入団を祝っての祝賀会であった。 右手に銀色の金属製のジョッキを掲げ、左手にブドウ酒の酒瓶を持ったセーヤが林檎のように頬を赤く染め、その主役のレイに絡んでいた。 顔を必要以上に自分へと接近させてくるセーヤの顔を両手で必死にレイは押さえ、顔を反対側へと向けぶはっと息を吐く。 セーヤが呼吸をするたびに、酒の臭いがレイの鼻腔を刺激していた。
「セーヤ!ちょっと離れて……」 「おぉう!恥ずかしがんなって! 」 「隊長!レイはまだ子供なんですよ! 止めてください! 」
あまりのセーヤの暴走にみかねたセナがセーヤをレイから引きはがした。
「なんだぁ……そんな固いこと言わないでもいいじゃねぇか。せっかくの飲みの場だってのに」 「だからといってしていい事と悪い事の区別はつけてください! 」
セーヤはセナの叱責に白けてしまったのか、口笛を吹きながらレイのテーブルから立つ。 半分ほど残っていたブドウ酒をそのままグビグビと飲み干し、ぷはぁっと大きく息をついた。
「おう、酒切れたな。新しいの誰か持ってこい! 」
セーヤは空になった酒瓶を宙へと放る。 それは綺麗な円を描きながら、飲みつぶれている団員達の頭上を越え、なだらかに重力に従い落ちてゆく。 その酒瓶をゆっくりと目で追うレイ。
「あっ」
何かに気がついたレイは椅子が倒れる程の勢いで立ち上がったが、時すでに遅し。 その酒瓶は、酒に酔い潰れて床に寝転がっていたトールの顔面へと吸い込まれるように落ちてゆく。 ゴツッと鈍い音が室内に響いたかと思うと、その数秒後には怒声が室内に響き渡ったのは言うまでもない――。
※本来はこれ以後も物語は続いているのですが、文字数の関係上分割せざるをえないため分割しています。
|