- 日時: 2013/07/10 21:42
- 名前: しろ (ID: oKBzY9wW)
「おっちゃん!これいくらぁ!? 」 「あぁ!? そりゃぁ5zだぞッ! 」
商業区は多くの行商人達とその客で賑わっていた。 様々な食材や日用品、果ては武具防具まで揃えている店も露天商として商売をしている。 人々が売買を行う中、団の食料の買い出しに出されたレイも客の中の一人としてその場にいた。
「このパン一斤でぇ!? 」 「あぁあっ!? 当たり前だろぉ! こっちも商売なんだよ、商売ッ! 」
売買を行う人々の声が飛び交うこの商業区では怒鳴るように言わないと、とてもじゃないが声が相手に届かない。 それほど人の数も多く、値切り合戦も多いという事だ。
「このパン一斤のやつ3つ買うからぁ! 12zぐらいにまけてくんないッ!? 」 「あぁ!?馬鹿言ってんじゃねぇぞ、クソガキッ!嫌なら買うなッ! 」
さすがに簡単に値引きに応じるほど甘くはないらしい。 それでもレイは諦めずに、食料を取り扱う商人に交渉する。
「じゃあ13zッ! 13zならどうよッ! 」 「あぁんッ!? 15zは15zで変わんないだよ、計算もできねぇのかッ!? 」
諦めずに交渉するレイとそれに反論する露天商。 熱い日差しが商業地区を包み込む中、二人の討論も白熱してゆく。
「あぁーじゃあ14zッ! こんぐらいならいいだろッ!? 」 「うっとおしい餓鬼だなッ! そろそろ消えねぇと痛い目みるぞッ!? 」
さすがに露天商の顔が赤く紅潮してきていたため、レイは諦めた。
「分かったよッ! じゃあ15zでいいからッ! 」 「最初から素直に払えばいいんだよッ、クソガキッ! 」
レイは軽く舌打ちをし、不本意ながらも露天商に15zと背負っていた籠を手渡した。 露天商はそれを受け取ると、パン一斤を3つ籠の中へと放り投げ、レイへと手渡す。
「まいどありッ! 」 「……糞親父」
レイはそうボソッと呟くと、次の食材を買うために他の露天へと移動しようと身を翻した際、後ろにいた男にぶつかった。
「うわッ!? 」 「おっと」
男は後ろへと倒れそうになったレイの腕を瞬間的に引っ張り、前へと引きもどす。 体勢を崩しつつも、なんとか転ばないで済んだレイは男に頭を下げる。
「ごめんなさい。気がつかなくて……」 「あぁ、いいよ。気にしないで」
男は頬笑みながらレイの肩を叩く。 女性の様な中性的な顔立ちに、レイは相手が男ながらも美しいと感じてしまった。 男がレイの横を通り過ぎようと、彼の横に足を踏み出した時、レイは男のベルトにぶらさがった人形に目が惹かれた。
「あっ」 「うんっ? 」
赤いドレスを身にまとった、ブロンド髪の長い髪をした女の子の人形。 ニッコリとした笑みを浮かべているその人形に、レイはどこかで見たような覚えがあったのだ。
「それ……」 「んっ? あぁ、これ? 知り合いの女の子が落としてたものでね、今からこれを返しに行こうと思ってたんだよ」
男は微笑みながらその人形を優しく撫でる。
「女の子? 」 「そう、女の子。酷い怪我をしてしまってね、それで見舞いも兼ねて返しに行こうかなって」
男はまぁ僕のせいだけどねと笑いながら頭をかく。 男の話を聞きながらもレイは必死にその人形をどこで見かけたのかを思い出していたが……どうしてもどこで見たのか思い出せない。 ジッと固まってしまったレイに、男は不思議そうに首をまげて尋ねる。
「どうかしたの? この人形が? 」 「あっ、いえなんでも」
レイは慌てて首を横に振り、男から目を逸らした。 男はじゃあねとレイに向けて声をかけると、人混みの中へと姿を消してしまった。 一人その場に取り残されたレイは、それから一時の間考え込んでいたが、答えが出ることはなかった。
「思いすごし……かな」
レイは頭の白い靄を振り払うと、買い出しのために外へと出されたのを思い出し、急いで次の露天へと駆けだすのだった――。
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