- 日時: 2013/07/25 21:36
- 名前: しろ (ID: eAtfVeS3)
セーヤが例のギルドの依頼を受託してから数日後。 まだ日も上がりきらない早朝に、白銀の空の扉を叩く者がいた。 その男は右肩にゆうに2m近くはあろうかという巨大な「ランス」を担ぎ、左肩にはそれに見合う程の大きさのある「盾」を担いでいる。 武器は重装であるが、身につけている防具はそれとは対照的に胸に付けている胸当てのみと軽装であった。
「……」
男は無言で扉を叩く。あまりの力の強さに扉がギシギシと悲鳴を上げている。 それから間もなく、ドタドタと建物の中より扉に駆け寄ってくる足音。それに合わせて怒声も響く。
「……誰だぁッ!? こんな朝早くからッ!? 」
男はその怒声に扉を叩く手を止め、一歩後ろへと下がった。
「申し訳ありません、このような早朝に。……ギルドよりあなた方を紹介された者なのですが……」 「あんッ? ちょっと待ちな」
扉がゆっくりと開かれ、中からトールが顔を覗かせた。 そんなトールに男は一枚の紙を手渡し、これをセーヤへと渡してほしいと告げた。 その紙はまさしくあの獣竜種と化け物の絵が描かれた紙である。 セーヤはそれを受け取り、中身を確認すると、男をその場で待たし中へと消えていった。 それからすぐに引き返してきたトールに男は中へと誘われる。
「うちの隊長が中で話を聞くとよ、入れ」 「……ありがとうございます」 「あとすまんがその担いでる武器は俺が預からしてもらう。悪いが、これもうちの規則なんでな」 「あぁ、構いませんよ」
男は肩から下ろしたランスと盾をトールへと預け、トールは外で待機し、男は中へと足を進める。 男が中へと入ると、すぐ目の前には不敵な笑みを浮かべたセーヤが腕を組みながら男を待ち構えていた。
「……おぉ、あなたがここの隊長様ですか? 」 「あぁ、そうだ。俺がここの一応頭首のセーヤ・ロハンドだ。あんたは? 」 「私はナイゼ・シルバーナ。セズナのハンターの一人としてギルドより派遣された者の一人です」
「ハンター」、ギルドよりその地域専属の対化け物用の人材として派遣される者達。 幼い頃よりハンターギルド内に存在する訓練所で様々な武具の取り扱いについての訓練、対化け物用の道具の取り扱いを学び、戦闘訓練を行ってきて者達である。 並大抵の者ではなることのできない特別な存在であり、使い捨て同然の傭兵達とは立場が違うのだ。 そんなハンターの顔をまじまじと見つめるセーヤに、ナイゼと名乗った男は言った。――「獣竜種」の討伐を開始すると。
「……また急な話だな。ギルドから事前になんらかの連絡がくるかと思ったが」
ナイゼはため息をつきながら、懐から討伐依頼とは別の紙を取り出し、セーヤへと渡す。 その紙には、女の子の似顔絵と、セズナ周辺の地図が記載され、その地図の下には大きく「誘拐」との文字が書かれていた。
「……なんだ、こりゃ? 」 「その子はこのセズナで一番の行商人である男の娘です。その娘が身代金目当てで誘拐されたのです」 「身代金目当てで……誘拐か、穏やかじゃねぇな」 「えぇ……そしてなんとか依頼を受けた傭兵達がその誘拐犯達のアジトを殲滅したのはいいのですが……一人だけ取り逃しました、その娘を連れて」 「ははぁん……さては逃げた場所がその例の沼地……ね」
ナイゼは頷き、深いため息をつく。
「そのため、ギルドにその商人の男が多額の金を提供する代わりに早急に探索隊を出してほしいとの事で、こうして私がここに来ました」 「なるほどね、了解した。すぐに出発するのか? 」
頷くナイゼにセーヤは苦笑いで返す。
「そちらの戦力は? こちらはすぐに動けるのは俺を含めて3人しかいないが……」 「こちらも私を含めて3人です。そうなると6人……戦力的には大丈夫でしょう」 「相手が噂に聞くほど凶暴じゃなければね」
笑うセーヤとナイゼ。 この男達の合間に何故それほどの余裕があるのかと、柱の陰から二人の様子を覗いていたトールは怪訝に思うのだった――。
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>>88 支援ありがとうございます('∀'*) なかなか暑さのせいでモチベが上がらず、遅くなりました(;´・ω・) 遅筆ながらも、頑張っていきます!
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