- 日時: 2013/08/10 21:03
- 名前: しろ (ID: YTScTlPs)
「くそ……どうしてこんなことに……ッ! 」
男の鋭い目つきが自分に向けられている事に少女は恐怖した。 いつ殺されてもおかしくない状況で、男がいつ自分に手を出すのかという恐怖――。 まだ幼い少女の心は今にも壊れそうな程に疲労しきっていた。
「お前の糞親父が要求通りに金だけを渡せば良かったのになぁ……そしたら今頃お互いに天国だったろうに」
男が手に持ったナイフで少女の頬を軽く叩きながら、にんまりと笑う。
「……」 「仲間は全員殺されて、残ったのは俺だけ……あーぁ」
両手は縄で縛られ、口元には猿轡、足のみが動かせるように少女は制限されていた。 常に男の目線の元に置かれているゆえ、逃げ出すこともままならない絶望――それにここがどこだかも分からない。 裕福な家庭の元で生まれ育った少女には、今自分がいる自分の背丈より高い草に覆われ、ぬかるんだ水の腐敗した臭いが漂うこの場所がまるで夢のようだった。 悪夢という名の夢だと――。
彼は深い眠りから目を覚ましていた。 新たな侵入者が自身の安眠の地へと踏み込んできたからだ。 それは何度も殺した事のある生物、一匹は大きく、もう一匹は小さい。 ゆっくりと泥の中から視認できたのでそれに間違いはない。 彼はゆっくりと新たな侵入者との距離を縮めてゆく。 姿を現さないのは臆病だからではない、確実に獲物を仕留めるため。 ゆっくり、ゆっくり――獲物の捕らえられる範囲へと近づいてゆく――。
少女はこちらを見ている男の背後に目を向けた。何かが動いたような気がしたからだ。 何が動いたのかは理解できない、だが確かに何かが動いたような気配がした。
「おい、どこに目を向けてんだ? 」
男がにやにやとした笑みを浮かべながら少女の顔を覗きこんでくる。 その不快な目に少女はふと目を逸らした。 男はそんな彼女の反応を楽しむかのように鼻で笑うと、再び手にしていたナイフを少女の顔先へと近づける。
「おい、お前の命は俺の気分次第でどうにでもなるんだ。あんまり俺の気分を害する様な態度をするな」
ナイフの切っ先が日の光で鈍く光る。 少女は恐怖に顔を蒼白にさせ、ただ水飲み鳥のように首を動かすしかなかった。 そんな彼女の様子を男は満足そうに眺め、ナイフを己の腰に付けている鞘へと収めた。
「さてさて……お前を取引にもう使うわけにもいかねえし、やっぱりどこかの親父にでも売り飛ばすのが正解か? 」
男の顔に卑しい笑みが浮かぶ。
「まぁまずはここを抜けるのが先か……ここにはとんでもない化けもんがいるらしいしな」
男は地面に座り込んでいる少女に「立て」と声をかける。 少女はただ男の指示をただ黙って受け入れるしかなかった。 彼女がゆっくりと腰をあげようとした時、彼女のメガふと男の後ろにあった岩に目を奪われた。
(……動いた? )
男の背後に広がる沼にひっそりと突き出ている岩が少し動いた気がしたのだ。 不審がる彼女の様子に男も気がつく。
「……どうした? 」
また動いた。今度ははっきりと動いたのを彼女は見た。 徐々にこちらに向けて動いてきている。ゆっくりと。 男は彼女の目線に気がつき、後ろを振り返った――その時、男の背後に広がる沼の水が爆音を上げて宙へと舞った。
「な……!? 」
薄汚れた水と共に飛び出してきたのはこの沼地の主。 その巨体はまたたくまに男の体を押しつぶし、少女の真横へと勢い良く転げでた。 突然の事に呆気にとられる少女であったが、男のいた場所に広がる肉塊と血だまりに彼女は現実へと引き戻された。
――化け物ッ!?
ゴロゴロと地面に転がり続けている化け物を尻目に、彼女はパッと弾かれたように動き出す。 体は恐怖で動かないかとも思われたが、そんな場合ではない。 無理にでも動かない体を動かさなければ死んでしまう状況――それが幼い彼女の体を無意識のうちに動かしたのだ。 駆け出したと同時に、なんとか動く両手で地面に転がるナイフを掴み、一気に駆け出す。 幸いに化け物はまだ動き出す気配がない、地面の上――いや沼の泥を体につけているのに夢中のようだ。 だが数m程離れたところで化け物の目線は少女を捉える。
――逃がさない。
動き出した化け物の巨体を尻目に、彼女は必死に駆ける。
――逃げないとッ……!
こうして幼き少女と、泥に塗れた化け物の鬼ごっこが始まった――。
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>>93 そう言ってくださると助かります(-_-;) 自分のペースで無理なく完結をできるように頑張りたい(笑) クッキングパパはあの顎のイメージしかないw 言いこと言いますね、さすがパパ(#^.^#)
>>94 まさかの続きが気になる(笑)
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