- 日時: 2014/03/14 19:12
- 名前: ダブルサクライザー (ID: igjB83y.)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
序章 前途多難かつ行き当たりばったり
辺りに広がるは、一面の砂、砂、砂。 その砂を渡るは、一隻の砂上船。 砂上船の甲板に、一人の少年が船頭に立っていた。 無造作に短く切り揃えられた黒金のような髪は、砂風に揺られて僅かに前髪が逆立つ。 意志の強そうな鳶色、というよりは赤いその瞳は何かを見据えているわけではなかった。 この先にある目的地で、どんな生活が送るのだろう。最初は分からないことが多くて戸惑いは隠せないだろう。他人に迷惑を掛けることもあるだろう。 それでも、それ以上に自分の持っている力や知識がどこまで通じるのか、また、未知との遭遇はどれだけ自分に感銘を与えてくれるのだろう。 そう、『モンスターハンター』としての、自分にだ。 今にもはち切れそうな緊張と期待が、胸の奥に灯る焔に油を注ぐ。 そんな感情を、水平線(この場合は砂平線と言うべきか?)に向けて馳せていた。 だが、そんな一時の感情は一瞬にして消えてしまった。 途端、辺りに砂嵐が吹き荒れ始めたのだ。 「なっ、何だ!?」 声色もまた、少年のものを色濃く残っているそれが砂に巻かれて溶けて消えていく。 不意に、船室のドアが開かれ船員が顔を出す。 「おいアンタ!早く戻ってこい!」 船員は片手でドアを掴みながら、もう片方の手を少年に振る。 「『峯山龍』が近くに来てやがるぞぉっ!!」 『峯山龍』。 少年も、少なからずその名前を知っていた。 峯山龍ジエン・モーラン。 この船の目的地でもある、新大陸の砂漠都市『ロックラック』に年に一度現れるという超大型のモンスターだと聞いたことはある。 ただ、あまりにも巨大すぎるモンスターであり、詳しい生態もほとんど分からないため、分類上は『古龍種』と割り振られている。 「マッ、マジですか!?」 少年は驚きを隠せなかった。 無理もない。彼はまだ訓練所を卒業したばかりの、所謂ルーキーだ。 教科書だけの存在と言われている古龍が、近くにいるというのだ。 普通なら畏れのあまり逃げ出す所だが、少年の場合は別だった。 「峯山龍ジエン・モーランッ!さすがに狩れるわけないけどっ……」 少年はむしろメインマストをしっかり掴み、足を取られないように踏ん張っていた。 「お、おいっ!何してんだアンタッ!?」 「決まってるだろ!?」 船員は少年の行動に目を見開く。 「この目で見るんだよっ!そのジエン・モーランをっ!」 少年の瞳には畏れなどなかった。 その姿をこの目に焼き付ける、あわよくば素材の人かけらでも手に入れる。 そんな無謀とも言える蛮勇を宿していた。 「バカか!?死ぬぞっ!!」 船員は半ば怒鳴るように少年に叫ぶが、既に少年の耳には彼の言葉は届かなくなっていた。 徐々に砂海が激しく波打ち始め、砂上船がひどく揺れる。 「クソッ、もう知らんぞ!」 船員は船室のドアを乱暴に閉めた。 無論、少年はそんなことを気にしてなかった。 「さぁ、早く出てこいっ……」 今の少年の瞳は、その姿を探す役目しか果たさない。 しばらくした時だった。 広大な砂海のその一部が、大きく隆起した。 その隆起した砂が割れて、出てきたのは二つの巨塔だった。 そう思いきや、二つの巨塔がの下から、巨大な岩山が現れた。 ただの岩山ではない。 それ自体が生命を宿し、何かを取り入れ、排泄し、次の命を遺していくのだ。 少年はただただ、そのあまりにも巨大なそれに釘付けられていた。 「で、でけぇぇぇぇぇっ!?」 そう口に出来たのは、釘付けられてから何秒も経ってからだった。 これこそが、峯山龍ジエン・モーランなのだ。 不意に、ジエン・モーランはその巨大すぎる身体を震わせた。 それど同時に、人の身体以上の大きさの岩石が砂上船に降り注ぐ。 「うわっ…!」 少年は降り注ぐ岩石をどうにか回避する。 だが、岩石は少年を襲うだけでなく砂上船自体にも襲い掛かる。 ボディが歪みへしゃげ、メインマストの帆が破られる。 その途端、ガクンッと砂上船が大きく揺れた。 すると、再び船室のドアが開かれて、先程の船員が顔を出す。 「おいアンタッ、今の攻撃で船の制御がイカれた!こりゃロックラックまで保たねぇ!」 その言葉を、少年はどうにか聞き取る。 「えぇっ!?じゃあっ、この船どこで停まるんだよ!?」 最悪、この砂の海で溺れ死ぬかもしれない。 船員は諭すように話す。 「進路を変更して、バルバレに流れる!悪ぃが付き合ってくれ!」 「バ、バルバレ……?」 少年の記憶に、その名前は刻まれていなかった。 だが、質問に答えてくれそうな状況でもない。 船員は少年を呼び戻す余裕すらもなくなったのか、黙って船室のドアを閉めた。 「ここで踏ん張れってか!」 少年はメインマストにしがみつきながら叫ぶ。 船は急激に方向を変えて、ジエン・モーランから離れるように砂の波を乗り越えていく。 その度に船は呻き声を上げて激しく揺れる。 少年は振り落とされないように、必死に堪える。
やがて、砂嵐は晴れて砂の波は穏やかになる。 「な、何とか撒いたってとこか……」 少年は安堵してメインマストから崩れるように甲板に倒れ込んだ。 空は蒼く、白い雲がその蒼を彩っていた。 しばらく倒れていると、少年はゆっくりと起き上がった。 再び船頭に登り、その先を見る。 砂平線の向こうに、街が見える。 あれが、バルバレというらしい。 見えるということは、じきに船が港に停まる。 少年は船室に戻って降りる準備を始める。
廻る季節のように、またここから新たな狩人の物語が始まるーーーーー。
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