Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!トリップ付けるの推奨( No.616 )
  • 日時: 2014/03/17 00:41
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: lWem77f4)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 一章 私達のキャラバン 〜バルバレ編〜

 少年は船室から荷物を持って、タラップを降りる。
「バルバレ、ねぇ……」
 軽く溜め息をついた。
 当初の目的地はロックラックのはずだったのだが、不慮の事態によってなし崩し的にここに流れてしまったのだ。
 だが、溜め息による冷めた感情もそこそこにして、少年は前を向いた。
「ま、こういうこともあるってことだな。よしっ!」
 ここでハンター生活を始めてもいい、と思ったのだ。
 ロックラックや、シュレイド地方のドンドルマほどの便利さは無いだろうが、ハンターとして生活を送るに問題が無ければそれでいい。
 少年は世話になった船員達にここに残ると言って、礼の代わりに軽く握手を交わすと、港を後にする。
 まずは、このバルバレのハンターズギルドにハンター登録を行うことだ。
 少年はハンターズギルドが設立されているだろう集会所へ向かう。

 集会所に入った途端、香辛料の匂いや煙草、酒の臭いが一気に少年の鼻を刺激する。
 集会所と言っても、半ば酒場のようなものであり、昼間から呑んで騒ぐ者もいれば、一人静かに嗜む者もいる。
 少年はそれらを無視して、受付の方へ向かう。
 長いテーブルに三人の受付嬢、その一番左に竜人の老人が煙管を吸っては吐いていた。
 彼がギルドマスターだろうと判断した少年は、話し掛ける。
「すいません、ギルドマスターですか?」
 竜人の老人は少年の目と声に反応する。
「うむ、その通りだよ。何かな、ハンターの新規登録だね?」
「はい」
 少年と同じようなハンターを多く相手にしてきたのか、ギルドマスターは少年をここに来て日が浅いことを見抜いていたようだ。
「はーい、新米ハンターさんの登録ですね?それならこちらへどうぞっ」
 カウンターの方から、黄色の受付嬢がすでにペンと用紙を用意して待っていた。
 少年はそちらへ向かった。
「では、ここにお名前と年齢、HR (ハンターランク)の記入、それとギルドカードの提示をお願いしますね」
 受付嬢に従い、少年はペンを受け取り紙にインクをなぞらせる。
 アスト・アルナイル 十六歳 HR 1
 紙にそう書いて、少年、アストはギルドカードを提示する。
 受付嬢はそれを手に取ると目に通す。
「はいはい、アスト君ですね。ありがとうございます」
 受け取りはギルドカードを少年に返すと、棚から判を取り出してアストが書いた紙にそれを押した。
「はい、ハンター登録はこれで完了です。頑張ってくださいねっ」
 ハンター登録を完了させた受付嬢は営業スマイルで、アストに応じた。
 アストは会釈して、集会所を出た。

「はぁぁぁぁぁ…………」
 アストは、道のど真ん中で大きく溜め息をついた。
 それは、先程今日の宿を借りようと管理者の所へ向かったのだが、たった今部屋が全て埋まったというのだ。
 これでは身体を休めることも出来ない。
 やはりロックラックの方へ向かおうか。
 だが、少年を頭を振ってそんな考えを振り払う。
 ここに残ると決めたのだ。
 少し上手くいかなかっただけで諦めていては、モンスターなど、ましてや自然を相手に生きていくことなど出来はしない。
 そんなアストに声を掛ける人物がいた。
「ねぇ、そこの君。何をそんなに悩んでいるの?」
 女性の声だった。
 アストは悩ませている頭を一旦置いておいて、声に振り向いた。
 振り返った先にいたのは、見目麗しい美少女が、気遣うような目でアストを見ていた。
 サファイアのように鮮やかな蒼い瞳、背中まで伸びた赤茶けた茶髪は飾り気の控えた銀色の大きなリボンによって結ばれ、その容姿は年頃の男の子であるアストの心を揺さぶった。
 はっきり言えば、相当な美人だ。
 とは言え、今のアストには美少女を前に緊張する余裕すらも心には残っていなかった。
「何か用ですか?こんな宿無しハンターに」
 心が沈んでいたせいか、言動や態度も無意識に卑屈なものになってしまうアスト。
「宿無し……って、部屋が借りれなかったの?」
「空いてる部屋がない。ついてないですよ、ったく……」
「そっか……ハンターか……」
 美少女は何故か考えるような顔を見せた。
 アストはもう立ち去ろうとしていたが、美少女は「待って」と引き留める。
「もしよかったら、私達のキャラバンに入ってくれないかな?」
「……へっ?」
 美少女の突然の誘いに、アストは呆気を取られた。
「あっ、もちろんちゃんとハンター用の部屋はあるからね?」
 美少女は慌てて付け足すように宿があることを強調する。
「いや、そう言うことじゃなくて……いいんですか?俺なんかがキャラバンに入ったりして?」
 こんな美少女から声を掛けてもらえるなど、願ったりかなったりだが、アストは一応そこで遠慮がちに止まってみる。
 美少女はすぐに答えてくれた。
「私達のキャラバンはね、昨日今日結成したみたいなキャラバンだからね、人手が足りてないの。何人かハンターにも声を掛けてみても、小さなキャラバンに興味がないとか、そ、その、え、えっちなこと求めたりとか……」
 なるほど、名を上げたいハンターは小さな集まりではなくもっと大規模な猟団に身を寄せるだろうし、彼女ほどの美少女を付け狙う輩もいるだろう。
 そもそも、結成してから日が浅いとなると、声を掛けた人数もたかが知れているだろう。
 アストは少し考える。
 宿に困っているのは事実だ。
 それに、彼女のような美少女と同じキャラバンに所属出来るという邪な考えも無いわけではない。
 だとしても、アストが強く思っていることは、誰かの役に立てることが出来るということだ。
 小さなキャラバンでは、名を上げるのは難しいだろう。不便な面も我慢しなくてはならないだろう。それでも、アストの中では既に「彼女のキャラバンに入ろう」という思いが傾いていた。
「いいですよ。って言うか、俺からすればありがたいくらいですし」
 アストが了承をすると、美少女は目を輝かせた。
「本当に?入ってくれるの?」
 まさか、今さらここで嘘だとは言えない。
「でも俺、ほんとにルーキーの中のルーキーですよ?迷惑掛けることだってたくさんあるかも知れないですよ?」
 アストがそう自嘲的に言うが、美少女はそれでも頷く。
 その目は本当に嬉しそうだ。
「迷惑だなんて。むしろ、団長の私がみんなに迷惑掛けてるくらいだから大丈夫よ」
「だ、団長……?」
 美少女の「団長の私が」の部分に気を止めるアスト。
「あ、自己紹介が遅れちゃったね。私は、カトリア・イレーネ。私達のキャラバン『ミナーヴァ』の団長を努めてます」
 アストは暫し呆然としていた。
 キャラバンというのは、あちらこちらを旅する団体のことだ。商隊とも呼ばれるが、問題はそこではない。
 彼女のような美少女が団長を努めていると言うのだ。
「……えぇぇぇぇっ!?」
 一瞬の間を置いて、アストは酷く驚愕した。