- 日時: 2014/03/18 19:06
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 7lr6FqFH)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
二章 受付嬢と加工屋
美少女、カトリア・イレーネがキャラバンの団長であることに酷く驚いたアストだったが、とにかく落ち着いて自分も名乗る。 「アスト・アルナイルです」 「うんうん、アストくんね」 カトリアは覚えたと言うように頷く。 「じゃあ、ハンター用の馬車に案内するから、ついてきて」 「はい」 カトリアの案内でアプノトスに繋がれた馬車に連れてこられる。 カトリアはその馬車の側にある、小さなクエストボードのすぐそばで腰掛けて本を読んでいる少女に声を掛ける。 「エリスちゃん、ちょっといい?」 カトリアがエリス、と呼んだ少女はその声に反応すると、本を閉じてカトリアに向き直る。 バルバレの受付嬢の『エコール』と呼ばれている制服に身を包んでおり、その色は白みの強い薄紫色をしている。 「……はい、カトリアさん」 蚊が鳴くような小さな声でエリスは応えた。 カトリアと比べても小柄な体躯であり、制服よりは濃い紫色の大きな瞳に、薄桃色のセミロングヘアは、いかにも少女然とした雰囲気を持たせていた。 「……そちらの方は?」 エリスはカトリアの隣にいるアストに目を向けていた。 カトリアはアストを指しながら答える。 「さっき、ハンターとして勧誘したの。アストくん、自己紹介お願いね」 カトリアに促され、アストはエリスに向かって一歩前に出る。 「俺は、アスト・アルナイル。まだルーキーだけどね」 「……」 エリスは珍しそうにアストを見つめていた。 しばらく見つめてから、ゆっくり頷いた。 「……はい。エリス・ナイアードです。よろしくお願いします」 受付嬢が持つだろう営業スマイルも見せず、ただ無表情に頷いただけだった。 アストはそれを見て、一瞬不安になった。 「あ、やっぱ俺じゃ頼りない?」 信用に値しないのか、と思い込んでしまうアスト。 その反応で、エリスも狼狽える。 「……え、いえ、その……」 お互いが不安になりそうになるが、そこでカトリアが割って入る。 「ごめんね。エリスちゃんはちょっと不器用なだけで、アストくんのこと嫌ってるわけじゃないからね?」 「あ、あぁ、そうなんですか……」 カトリアはこう言うが、アストの心には少なからず傷が入ってしまった。 「……ご、ごめんなさ……」 エリスは謝ろうと腰かけていた椅子から立ち上がって、エリスに近付こうとするが…… 「……きゃうっ!?」 足下に積んであった本に足を取られ、躓いて転んでしまう。 転んだ拍子に敷いてあったシートがずれて、それによって立て掛けてあったクエストボードが揺れて、そのまま転んだエリスに倒れ込んだ。 バタバタと依頼状が飛び散り、クエストボードの下にエリスが下敷きになってしまった。 「ちょっ、大丈夫!?」 アストは慌てて倒れたクエストボードを持ち上げると、エリスの無事を確かめる。 クエストボードの下には、後頭部を擦っているエリスがアストを見上げていた。 「……ごめんなさい」 「いや、謝られても……」 まさか、彼女にはドジッ娘の気があるのだろうか。 「大丈夫?エリスちゃん」 カトリアは特に心配してなさそうに、微笑みながらエリスを見下ろす。 どうも、エリスのドジは彼女にとって日常茶飯事らしい。
気を取り直して、ハンター用の馬車である。 中に入ってみると、少し狭いが生活に不十分はないだけの設備はそろっている。 アストは早速部屋の隅に持ってきた荷物や装備、道具を降ろしていく。 そのおかげで、一気に身体が軽く感じるようになる。 「もういいかな?」 馬車の外からカトリアが声を掛けてくる。 アストは荷物整理もそこそこに顔を出す。 「はい。いいですよ」 「アストくん。早速で悪いんだけど、私達のキャラバンのメンバーの挨拶回りについて来てもらえる?」 挨拶回りということは、このバルバレの各所で何かをしていると言うことだろう。 キャラバンの仲間入りになるのだから、顔合わせぐらいはするべきだ。 アストは頷くと、再びカトリアの隣を歩く。
最初に向かった所は、ちょうどハンター用の馬車と向かいにある加工房だった。 カウンターの向こう側に作業場があるようで、中から金槌の小気味良い音がテンポ良く聞こえてくる。 カトリアはその奥へ声を掛ける。 「ライラァー!ちょっといいぃー!?」 奥にいるのか、カトリアは大声で呼ぶ。 その奥から「はいよー!!」とさらに大きな声が返ってくる。 少し待つと、ドタドタと女性が駆けてくる。 「やー、お待たせお待たせ」 最初に目についたのは、その長身だった。 長身と言っても、アストより少しだけ高いくらいだが、女性の中でなら長身に当たる。 次に見えたのは、長く尖った耳だ。 人間よりも何千年の長寿を持ち、培ってきた知識や技術を人間に提供して共存してきた、竜人族の象徴だ。 長い銀髪は無造作に纏めており、勝ち気そうなオレンジ色の瞳はカトリアとアストを見比べていた。 常に高室温である工房内で過ごしているためか、その格好はかなりラフであり、その豊満な胸は大きさを主張するかのようにラインが顕著に現れている。 「隣の彼は……ははーん?カトリア、まさかの逆ナンってヤツ?」 「ぎゃっ、逆ナッ……!?」 彼女の意味深そうな言葉に、カトリアは顔を真っ赤にするが、すぐに落ち着きを取り戻す。 「あのねぇ、この人は私達のキャラバンに入ってくれるありがたい人なんだよ。ほらライラ、自己紹介してっ」 カトリアは早口で捲し立てるように彼女に自己紹介を強いる。 「はいはい。っと、あたしはライラック・エルミール。カトリアのキャラバン、ミナーヴァで加工屋をやらせてもらってるよ。ライラックが呼びにくいなら、気軽にライラでもいいよ」 ライラック、もといライラはアストに手を差し出す。 アストはそれを見て、自分も手を差し出すとライラの方からグッと掴んでくる。なかなか強い握力だ。 「初めまして、アスト・アルナイルです。今日からお世話になります。ライラさん」 「やだなぁ、堅苦しいってば。もっと気軽にタメ口でいいからさ」 エリスとは対照的に、ライラは開放的な性格のようだ。 この人となら気が合いそう、とアストは少し警戒を解いた。 「あ、そうそう、ウチのキャラバンってカワイイ女の子多いっしょ?特にカトリアとかね」 突然話を持ってこられ、アストはよく理解しないまま頷いた。 「もし手ぇ出したら、あんたの頭蓋骨、ボーンヘルムにしてやるからね?」 ニカッと笑いながら、さりげなく恐ろしいことを忠告してくるライラ。 「……は、はいっ」 本当にされかねないので、アストは肝に命じておいた。
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