- 日時: 2014/03/21 21:31
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: hT4uaac9)
三章 コックと商人とオトモアイルー
ライラとの挨拶を終えて、カトリアとアストは次へ向かっていた。 そこは、小さいながらテーブルと椅子が置かれ、そのカウンターからいい香りが漂っている。 カウンターの向こう側は、一人の女性がのんびりと、しかしテキパキと調理していた。 「もしかして、コックですか?」 アストは目の前の状況から推測し、カトリアに訊いてみる。 「うん。私達のキャラバンの、皆のお母さんみたいな人かな」 カトリアはそう答えながら、カウンターの向こう側の女性に話し掛ける。 「ルピナスさん、良いですか?」 カトリアの言葉に、ルピナスという女性はゆっくりと向き直った。 水色のロングヘアは黒いリボンに纏められ、やや垂れ目な形の瞳は明るい碧眼をしている。 「あらぁ、カトリアさん。どうしましたかぁ?」 喋りが、遅い。その上に語尾が間延びしている。 アストからすれば慣れない口調だが、カトリアは団長だけあって既に慣れているのか、普通に話を続ける。 「この人が、私達のキャラバンの新しいハンターさんです」 これまでと同じ、アストはカトリアの一歩前に出て自己紹介をする。 「アスト・アルナイルです。今日からお世話になります」 「はぁい、アストくんですねぇ」 ルピナスは手に取っていたフライパンを一度置くと、静かに手を組んでアストと向き合う。 「私はぁ、ルピナス・クリティアと言いますぅ。皆さんのためにぃ、美味しいごはんを作ってますぅ。よろしくお願いしますねぇ」 警戒心の欠片も見当たらない様子で、ルピナスは笑顔で応えてくれる。 「アストくんはぁ、どれくらい食べますかぁ?」 ルピナスは質問をアストに向けてきた。 「え?えーと?普通よりはちょっとは多目には食べてます、かな?」 普段の食事量などあまり気にしていないので、アストは曖昧に答えた。 それを聞いて、ルピナスはゆっくり頷いた。 「分かりましたぁ。今日の晩ごはんからぁ、もう三合くらい、ごはんを炊きますねぇ」 「さっ、三合っ?」 そんなに食べられないですよ、とアストは言おうとするが 「さぁ、今日からまたごはんの時間が楽しくなりますよぉ」 ルピナスの張り切るような、嬉しそうな表情を見ると断れなくなってしまった。 頑張って食べないとな、と今晩を覚悟するのだった。
「最後は、私達のキャラバンのお財布担当かな。商人として頑張ってるの」 ルピナスとの挨拶を終えると、最後のメンバーの元へ向かう。 カトリアの案内の先には、受付嬢のエリスよりも幼さそうな少女がカウンターの向こうで、そろばんと格闘していた。 「シオンちゃん、忙しいところ大丈夫?」 カトリアが声を掛けると、そろばんと格闘していた少女はパッと振り返った。 赤みを帯びた、朱色に近い短い茶髪に、レモンのように黄色い瞳が、カトリアの蒼い瞳と合う。 「はい団長っ、大丈夫ですよーっ」 シオンちゃん、と呼ばれた少女は元気よく反応する。 「っと、そちらはどなたですかっ?」 シオンはアストの方を見て、カトリアに訊いてみる。 「この人が、私達のキャラバンの新しいハンターさんだよ」 カトリアのそれに合わせて、アストも自己紹介に出る。 「俺は、アスト・アルナイル。よろしくな」 「おぉーっ、ついに団長が認めたハンターさんですかっ!ということはっ、かなりの凄腕に違いな……」 シオンは勝手に話を進めていこうとしているので、アストは慌てて割り込んだ。 「いやっ、まだルーキーのルーキーだから、そんな凄腕とかじゃないって」 「えっ、そうなんですかっ?またまたぁ、謙遜してるんでしょうっ?」 「じゃあコレ、ギルドカード」 アストは人の話を聞かないシオンに、自分のギルドカードを見せてやる。 シオンはそれを手に取って内容を目に通していく。 「ありゃっ、まだ依頼を受けたことなかったんですかっ?」 「残念ながらね。だからルーキーのルーキーなんだ」 アストは軽くため息をつく。 シオンはギルドカードをアストに返すと、背筋を伸ばしてアストに向き直った。 「はじめましてっ!シオン・エーテナと申しますっ!不束な者ですがっ、拙い商売をやらせてもらってますっ!」 ビシッ、という擬音が聞こえてきそうなほど背筋を伸ばしながら、なぜか敬礼もしている。 「何かこれが欲しい、こういうものを取り寄せたいって言うときはいつでもどうぞっ!」 終始元気よく受け答えしてくれるシオン。 明るくて元気だと思う反面、こんな様子でキャラバンの財布を任せていていいのだろうか、とも思ったアストだった。
「うん、これで全員だね。以上が、私達のキャラバンのメンバー」 再びハンター用の馬車に戻ってきたアストとカトリア。 アストはまず率直な感想を答えた。 「俺を除いたら、みんな女の人でしたね」 カトリア、エリス、ライラ、ルピナス、シオン。 皆、女性である。 「そうね、何故か女の子ばっかりになってたの」 カトリアもそれは自覚していたようで、アストの率直な感想を肯定する。 「おいおいカトリア、オレを忘れたのニャ?」 不意に、どこからか声が聞こえてくる。語尾に「ニャ」がついている所、アイルーだろうか。 気が付けば、アストの背後に純白の毛並みを持った一匹のアイルーが立っていた。 「あ、ごめんねセージ。忘れてた」 カトリアは特に悪びれもせずに口だけでそのアイルーに謝る。 セージ、と呼ばれたアイルーは彼女の隣にいるアストに目を向ける。 「アンタが、オレ達のキャラバンの新しいハンターかニャ?」 セージの言葉に、アストは「おう」と頷いた。 そのセージは、じっとアストを睨むように見ていた。 「な、なんだよお前」 アストは反論するが、セージはすぐに答えた。 「やる気に満ちた目をしているニャ。だが、自信はまだニャいみたいだニャ?」 「よ、よく分かるな」 アスト自身、それは否定出来なかった。 「ま、その内嫌でも自信がつくニャ。とりあえず今はよろしくニャ」 セージは掌(肉きゅう)を差し出す。 アストもそれに合わせて、握手する。 「あのねセージ。ちょっとお願いがあるの」 握手を終えると、カトリアがセージに話し掛ける。 「何ニャ?」 「アストくんのハンターとしての指導、頼める?」 |