- 日時: 2014/03/27 12:42
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: aG2TwrMW)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
七章 駆け巡る遺跡平原
アストは右手に握った剥ぎ取り専用ナイフを振りかざすと、その切っ先をドスジャギィの背中に突き刺した。 一度ならず、二度、三度……突き刺しては引き抜くをひたすら繰り返す。 最初こそ硬い鱗と皮に阻まれて刃は通らないが、繰り返していくにつれて徐々にドスジャギィの血肉を守るそれに裂け、穴を穿つ。 「こいつでっ、どぉうだぁぁぁぁぁぁっ!!」 アストは剥ぎ取り専用ナイフを振り上げて、渾身の力でドスジャギィの背中にそれを捩じ込ませる。 「アギャァゥンッ!?」 不意にドスジャギィは悲鳴を上げてその場で横倒れた。同時にアストもドスジャギィの背中から飛び降りた。 脊髄か何処かを傷つけられて激痛が襲ったのか、ドスジャギィはその場でのたうち回っていた。 「よぉしっ、よくやったニャ!一気に攻めるニャッ!」 すかさずセージはラギアネコアンカーを握り直してドスジャギィに肉迫すると、その無防備な横腹に容赦ない斬撃を与えていく。 アストも体勢を立て直すと、剥ぎ取り専用ナイフをシースに納め、ハンターナイフを抜き放つ。 「うおぉぉおぉぉぉぉおぉぉっ!」 狙いは、ドスジャギィの頭だ。 アストはハンターナイフを力強く握ると、ドスジャギィの頭に取り付き、滅多斬りに振り回す。 滅多斬りと言っても、ただ闇雲にハンターナイフを振るっている分けではない。 腰を捻る所は捻り、重心を入れ替える所は入れ替え、踏み込む所は踏み込む。 たかが鉄鉱石の刃、しかし立派な力を持っているそれは、しっかりと扱えば威力は十二分発揮される。 ドスジャギィの頭は見る内に傷付き、なおのこと襲う激痛にその狡猾そうな顔面を歪ませる。 しかしドスジャギィもこのままむざむざ殺されるつもりはない。 どうにか起き上がると、自分を傷付けた人間を睨み付ける。 ドスジャギィの体勢が戻ったためにアストとセージは一度距離を取る。 「グォァッ!グォァッ!ガォァァァァァッ!!」 ドスジャギィは怒りの声を上げると、まっすぐにアストに突っ込んでくる。 アストはハンターナイフを構え直すが、わずかにその膝は震えていた。 先程は訓練の教えの通りにやって、偶然成功出来たに過ぎない。 ここからは、セージの言った通り、真っ向からドスジャギィの相手をするのだ。 「怯むニャアスト!まだ終わってないニャ!」 セージは膝の震えているアストを叱咤する。 その叱咤でアストはグッと足に力を込めた。 「俺は、やるっ!」 そう意気込むが、既にドスジャギィは目と鼻の先にいた。 棘の生えた樹木の幹のような尻尾が唸りを上げてアストを凪ぎ払わんと襲いかかる。 アストは咄嗟に右腕の盾でその尻尾を受けた。 直後、右腕に鈍痛が走り、それだけでは収まらずにアストのハンターグリーヴが一瞬地面から浮いた。 アストな歯を食い縛ってその鈍痛に堪える。 「片手剣の基本は……」 どうにか足を安定させながら、アストは自分に言い聞かせるように口の中で呟く。 セージはドスジャギィの尻尾を回避して僅かな隙にラギアネコアンカーを叩き込む。 「まず、動き回る!」 アストは鈍痛から後発的に来る恐怖を呑み込み、地面を蹴ってドスジャギィに接近する。 ドスジャギィは再びアストに振り向く。 アストはドスジャギィの目を直視して一瞬恐怖心が煽られたが、ゴクリと唾と共に恐怖を呑み込んだ。 「側面っ!」 アストはドスジャギィの目の前で前転すると、ちょうどドスジャギィの左後方をすり抜ける。 「グアォゥッ!」 ドスジャギィはアストを喰らおうと牙を降り下ろしたが、既に前転していたアストの背中を空振りした。 アストは素早く反転すると、ハンターナイフをセージの傷付けた横腹に突き刺し、抉り抜いた。 「グゥゥオォッ」 ドスジャギィは首だけを振り向かせ、アストの存在を確認すると、振り向き様に牙を振り抜いた。 「避けろニャッ!」 「!?」 セージの声でアストは咄嗟に後ろへ飛び下がる。 しかし、ダメージまでは防げなかったのか、ハンターメイルの鉄鉱石の装甲にドスジャギィが噛みつき、それをへしゃげさせた。 それでも直撃を避けられただけマシだろう。 「熱くなるニャッ、一度距離を置くんニャ!」 セージはラギアネコアンカーをドスジャギィの尻尾に突き刺し、気を引かせようとする。 そうだ、熱くなれば引き際を誤ってしまう。 「理性的に、理性的に……」 感情は少しは昂る方がいいが、冷静さまで失うのはナンセンスだ。 アストはセージの言う通り、一度ドスジャギィから離れる。 「せいニャッ!フンッ!喰らえニャ!」 セージはラギアネコアンカーを振るいながら、ドスジャギィの攻撃も受けていない。 アストは熱くなった血を冷ますと、もう一度ドスジャギィに接近する。 セージとの間にドスジャギィを挟むように立ち回り、回避に余裕を持つ気持ちでハンターナイフでドスジャギィを斬り付けていく。 一方のバルバレ。 カトリアはライラの加工房に立ち寄っていた。 ライラも今は作業を終えているのか、カウンター越しにカトリアと向き合っていた。 「あのさ、カトリア。あいつ、えーと……アストだっけ?」 ライラはカトリアに話し掛ける。 「うん。アストくんがどうしたの?」 カトリアは差し入れのお茶をライラに渡す。 ライラはカトリアのお茶を受けとると、一息で飲み干した。 「ん、エリスから聞いたんだけど、アストってば宿に困ってたんだって?」 カップをカウンターに置くと、ライラはカトリアと向き直る。 「うーん、泊まる場所に困るハンターって、そんなにいないと思うんだよね。ほんとに、極稀で……」 カトリアは首を捻って応えた。 「なんつーかさ、そんなところも似てない?」 ライラは意地悪そうな笑みを浮かべた。 「な、何よ……?」 カトリアは一瞬狼狽えたようにたじろいだ。 「アンタとアタシがまだあいつくらいの頃さ、泊まる場所がないーって泣いてたよねぇ。特にアンタが」 「!!」 カトリアは自分の恥ずかしい過去を暴露され、顔を真っ赤にした。 「も、もうっ!そんな昔の話はいいでしょおっ!?」 バタバタと手を振り回して慌てる姿は実に子供っぽい。こんな少女がキャラバンの団長を努めていると言うのだから、アストも驚きもする。 「……それに、ほんと、昔はもう昔だよ」 カトリアは不意にもの悲しい表情を曝した。 「あ、そうだったね……」 ライラも何かを察したのか、それ以上触れようとしなかった。 ふと、ライラは工房の奥を見通す。 「今でも残してるよ、いや、遺してる、の方が正しいかもね」 「うん……ほんとに、もし何かがあったら、私が皆を守らなきゃいけないから……」 カトリアも工房の奥に目を向ける。 「ローゼ、リア、フリージィ……」
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