Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!トリップ付けるの推奨( No.740 )
  • 日時: 2014/03/30 09:37
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: lMzzIv5P)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 十章 静寂の夜

 ルピナスからの洗礼(?)を受けたアストは少し落ち着いてから、円卓を後にした。もちろん、ルピナスには次からはもう少し減らして欲しいと言ってから。
「あ、そういや依頼達成の手続きまだだったな」
 バルバレに帰還して、そのまま食事に移ったのでエリスへの報告がまだなのだ。
 アストは自室へ戻るついでに、エリスが座っている場所へ向かう。
 エリスはまだそこにいてくれた。
 辺りが暗いため、ランプの灯りを頼りに書類の整理などを行っているようだ。
「エリス、いいか?」
 アストの声にエリスは反応して向き直る。
「……はい、アストさん」
 彼女の瞼はパチパチと瞬きを繰り返し、あからさまに眠そうだ。
「眠そうな所悪いけど、依頼達成してるからその手続き頼むな」
「……はい」
 アストは受け取った依頼状をエリスに返す。
 エリスはそれを受けとると、依頼状の真ん中に「クエストクリア」の判を押した。
「……依頼達成、おめでとうございます。……ふぁ……」
 エリスは口回りを押さえて欠伸を漏らす。
「ごめんな、眠いのに」
「……いえ、受付嬢の務めです。眠いのは私のせいです」
 眠そうな顔でもやはり無表情なエリス。
 アストは軽く会釈すると、そのすぐ隣の自室の馬車に戻っていく。
 
 アストはハンターシリーズのポーチやポケットの中身を一度全て取り出して、丁寧に道具箱の中へ入れていく。
 その中で、ハンターメイルに目が向いた。
 ドスジャギィに一撃喰らわされた瞬間だ。鉄鉱石の装甲がへしゃげ、ひび割れている。
「あちゃー……結構イカれてるな……」
 これではまたもし何か攻撃を受けた時に、アスト本人が耐えられないかもしれない。
「金は張るけど、怪我するよりマシかな。……もうしてるけど」
 アストは道具箱から小さな袋と、そのハンターメイルを手にすると、自室を出る。先程から地味に響いている肋骨を押さえながら。

 ライラの加工房はまだ動いていた。
 カウンターの奥から熱気が漂っており、あの中でライラで金槌を打つ姿が容易に想像できた。
「ライラさん、いいですかぁ!」
 アストは少し大きな声を出してライラを呼ぶ。
「へいよっ、少々お待ちぃっ!」
 奥から気合いの入った声が返ってくる。
 少し待つと、大玉の汗をかきながらライラが駆けてくる。
「へいお待ち!っと、アストか。どうしたの?」
「ちょっと頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」
 アストはその持ってきたハンターメイルをカウンターに置いた。
 ライラはそれを手に取り、回して見る。
「ありゃ、若干壊れてんね。修復かな?」
「はい、お願いします」
 そう言うと、アストはその持ってきた小さな袋もライラに差し出す。
 袋を開けてみると、鈍い金属色をした手のひら大の鉄鉱石が幾つか入っていた。
 ライラはそれを確認して、ライラはニッコリと笑みを向ける。
「よっしゃ、任せときな。今から一晩で仕上げるから、金の用意しといてくれよ?」
「い、今から一晩ですかっ?そんな急がなくてもいいですよ。どっちにしろ、俺しばらく療養ですから」
 アストは肋骨を押さえながら逸るライラを止めようとするが、
「いーのいーの。アンタだって、自分の相棒は側にいた方がいいでしょ?だから、ここはお姉さんにお任せお任せっ!」
 ライラは半ば強引に話を進めると、ひったくるようにハンターメイルと鉄鉱石の入った袋を持って奥へ消えていく。
 アストは止めることも出来ずに、ライラの背中を見送ってしまっていた。
「ま、いっか」
 やると言っているのだ。それをムリに止める理由はない。
 アストはライラの加工房を後にした。
「さって、明日からしばらく療養かぁ。初っぱなから何してんだろうな、俺……」
 依頼は達成したとはいえ、キャラバンに入ったその日に怪我をしているのだ。
 それでも、ミナーヴァのメンバー達は怪我を心配してくれるし、それ以上に自分を歓迎してくれた。
 これなら、上手くやっていけそうな気がした。
 ただ、回りが女性ばかりなので、少々肩身が狭いが。

 真夜中。
 ほとんどのメンバーが寝室用の馬車で眠っている中で、カトリアは一人馬車の外で夜空を見上げていた。
 雲一つない夜空は、満天の星光が埋め尽くしていた。
「カトリア」
 彼女の名を呼ぶのは、セージ。
 カトリアは彼の声に耳を傾け、その方へ向く。
「セージ。起きてたんだ」
「ニャ。隣、失礼するニャ」
 カトリアの右隣にセージが座る。
 セージは彼女の隣に座ると、早速話を始める。 
「アストのことなんだがニャ……」
「……」
「お前も薄々と気付いていたニャ?あいつは……」
「分かってるよ」
 セージの言葉を、カトリアは言わせなかった。
 カトリアはセージを両手で抱き上げると、静かに胸に抱いた。
「だから、お願いセージ。アストくんに、『私と同じ』道だけは歩ませないで」
 カトリアの肩は小さく震えていた。寒さによるものではない。
「無論ニャ。あの日、お前を二度と悲しませニャいと誓ったことを偽るつもりはニャい。あのバカ二号は、オレが必ず守るニャ」
 セージは震えるカトリアの肩に肉きゅうを置いた。
「だから、いつも通りでいいのニャ。そうだニャ?」
 カトリアの肩からセージは離れた。
「バカ一号」

 アストのハンターメイルの修復を大方終えたライラは、気晴らしに外に出ていた所に、セージを抱くカトリアを見ていた。
「カトリア……」
 それを見て、ライラは踵を返すと自分の工房に戻る。
 工房の奥に入り、微かな灯りをつけて、古めかしい大きな箱を開ける。
 中には、金色と銀色の長柄のそれと、眩いばかりの銀色のそれが入っていた。
 それだけでなく、様々な武器や防具がその中詰まっていた。
「ごめんね。アタシはアンタ達にこうしてやることしか、出来ないから……」
 口の中でそれだけを呟くと、その古めかしい箱を閉じた。