- 日時: 2014/03/30 09:37
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: lMzzIv5P)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
十章 静寂の夜
ルピナスからの洗礼(?)を受けたアストは少し落ち着いてから、円卓を後にした。もちろん、ルピナスには次からはもう少し減らして欲しいと言ってから。 「あ、そういや依頼達成の手続きまだだったな」 バルバレに帰還して、そのまま食事に移ったのでエリスへの報告がまだなのだ。 アストは自室へ戻るついでに、エリスが座っている場所へ向かう。 エリスはまだそこにいてくれた。 辺りが暗いため、ランプの灯りを頼りに書類の整理などを行っているようだ。 「エリス、いいか?」 アストの声にエリスは反応して向き直る。 「……はい、アストさん」 彼女の瞼はパチパチと瞬きを繰り返し、あからさまに眠そうだ。 「眠そうな所悪いけど、依頼達成してるからその手続き頼むな」 「……はい」 アストは受け取った依頼状をエリスに返す。 エリスはそれを受けとると、依頼状の真ん中に「クエストクリア」の判を押した。 「……依頼達成、おめでとうございます。……ふぁ……」 エリスは口回りを押さえて欠伸を漏らす。 「ごめんな、眠いのに」 「……いえ、受付嬢の務めです。眠いのは私のせいです」 眠そうな顔でもやはり無表情なエリス。 アストは軽く会釈すると、そのすぐ隣の自室の馬車に戻っていく。 アストはハンターシリーズのポーチやポケットの中身を一度全て取り出して、丁寧に道具箱の中へ入れていく。 その中で、ハンターメイルに目が向いた。 ドスジャギィに一撃喰らわされた瞬間だ。鉄鉱石の装甲がへしゃげ、ひび割れている。 「あちゃー……結構イカれてるな……」 これではまたもし何か攻撃を受けた時に、アスト本人が耐えられないかもしれない。 「金は張るけど、怪我するよりマシかな。……もうしてるけど」 アストは道具箱から小さな袋と、そのハンターメイルを手にすると、自室を出る。先程から地味に響いている肋骨を押さえながら。
ライラの加工房はまだ動いていた。 カウンターの奥から熱気が漂っており、あの中でライラで金槌を打つ姿が容易に想像できた。 「ライラさん、いいですかぁ!」 アストは少し大きな声を出してライラを呼ぶ。 「へいよっ、少々お待ちぃっ!」 奥から気合いの入った声が返ってくる。 少し待つと、大玉の汗をかきながらライラが駆けてくる。 「へいお待ち!っと、アストか。どうしたの?」 「ちょっと頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」 アストはその持ってきたハンターメイルをカウンターに置いた。 ライラはそれを手に取り、回して見る。 「ありゃ、若干壊れてんね。修復かな?」 「はい、お願いします」 そう言うと、アストはその持ってきた小さな袋もライラに差し出す。 袋を開けてみると、鈍い金属色をした手のひら大の鉄鉱石が幾つか入っていた。 ライラはそれを確認して、ライラはニッコリと笑みを向ける。 「よっしゃ、任せときな。今から一晩で仕上げるから、金の用意しといてくれよ?」 「い、今から一晩ですかっ?そんな急がなくてもいいですよ。どっちにしろ、俺しばらく療養ですから」 アストは肋骨を押さえながら逸るライラを止めようとするが、 「いーのいーの。アンタだって、自分の相棒は側にいた方がいいでしょ?だから、ここはお姉さんにお任せお任せっ!」 ライラは半ば強引に話を進めると、ひったくるようにハンターメイルと鉄鉱石の入った袋を持って奥へ消えていく。 アストは止めることも出来ずに、ライラの背中を見送ってしまっていた。 「ま、いっか」 やると言っているのだ。それをムリに止める理由はない。 アストはライラの加工房を後にした。 「さって、明日からしばらく療養かぁ。初っぱなから何してんだろうな、俺……」 依頼は達成したとはいえ、キャラバンに入ったその日に怪我をしているのだ。 それでも、ミナーヴァのメンバー達は怪我を心配してくれるし、それ以上に自分を歓迎してくれた。 これなら、上手くやっていけそうな気がした。 ただ、回りが女性ばかりなので、少々肩身が狭いが。
真夜中。 ほとんどのメンバーが寝室用の馬車で眠っている中で、カトリアは一人馬車の外で夜空を見上げていた。 雲一つない夜空は、満天の星光が埋め尽くしていた。 「カトリア」 彼女の名を呼ぶのは、セージ。 カトリアは彼の声に耳を傾け、その方へ向く。 「セージ。起きてたんだ」 「ニャ。隣、失礼するニャ」 カトリアの右隣にセージが座る。 セージは彼女の隣に座ると、早速話を始める。 「アストのことなんだがニャ……」 「……」 「お前も薄々と気付いていたニャ?あいつは……」 「分かってるよ」 セージの言葉を、カトリアは言わせなかった。 カトリアはセージを両手で抱き上げると、静かに胸に抱いた。 「だから、お願いセージ。アストくんに、『私と同じ』道だけは歩ませないで」 カトリアの肩は小さく震えていた。寒さによるものではない。 「無論ニャ。あの日、お前を二度と悲しませニャいと誓ったことを偽るつもりはニャい。あのバカ二号は、オレが必ず守るニャ」 セージは震えるカトリアの肩に肉きゅうを置いた。 「だから、いつも通りでいいのニャ。そうだニャ?」 カトリアの肩からセージは離れた。 「バカ一号」
アストのハンターメイルの修復を大方終えたライラは、気晴らしに外に出ていた所に、セージを抱くカトリアを見ていた。 「カトリア……」 それを見て、ライラは踵を返すと自分の工房に戻る。 工房の奥に入り、微かな灯りをつけて、古めかしい大きな箱を開ける。 中には、金色と銀色の長柄のそれと、眩いばかりの銀色のそれが入っていた。 それだけでなく、様々な武器や防具がその中詰まっていた。 「ごめんね。アタシはアンタ達にこうしてやることしか、出来ないから……」 口の中でそれだけを呟くと、その古めかしい箱を閉じた。
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