- 日時: 2014/04/01 11:16
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: SaX8Rwkv)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
十一章 シオンの節約上手の術
砂平線の向こう側から、朝日が昇ってくる。 ハンター専用の馬車のベッドの中、アストはカーテンの隙間から漏れてくる光りに目を覚ました。 「ん……朝かぁ」 アストは大きな欠伸をしてから、慎重に身体を伸ばしてみる。 身体に痛みはない。どうやら肋骨は回復したようだ。 彼がミナーヴァに所属してから、早一週間。 本来はジャギィの討伐だった所、目撃情報のなかったドスジャギィも討伐したという、ルーキーハンターとは思えない活躍を見せたアスト(半分はセージのおかげだが) のおかげで、ミナーヴァの知名度は若干ながら急激に上がり、飛ぶように依頼が回ってきたのだ。 アストが怪我で療養ということで鳴りを潜めてはいたが、彼が回復したということは、また瞬く間に依頼が舞い込んで来るだろう。 「さって、今日から忙しいぞっと」 アストはカーテンをスライドさせて朝日を浴びる。 今日もいい天気だ。
ライラに修復してもらったハンターシリーズを身に纏い、アストは遺跡平原を歩いていた。 今回受けた依頼は、特産キノコの納品だ。 と言っても、アストは既に規定数の特産キノコを集めていながら、まだ狩り場にいる。 断崖絶壁の段が続く岩山の壁に、アストとセージはいた。 アストは紫色をしたその岩にボロピッケルを振るっていた。 カキィンッ、と小気味良い音共に、その岩から鉱石が顔を出してくる。 このような鉱脈は金属質を含むために、その部分だけが出っ張って光沢を持つらしい。ハンターはそれを目印に鉱脈を探すのだ。 アストは先日、ライラにハンターメイルを修復してもらうために鉄鉱石を使い果たしてしまったのだ。このままでは武器の強化が図れないため、こうして依頼の合間に途中に採掘をしているのだ。 何度かボロピッケルを鉱脈に振るっていると、不意にバギン、と何かが壊れたような音が鳴った。 「あーぁ、もう壊れたよ。ま、ボロだしな」 アストは切っ先の砕けたボロピッケルを見て溜め息をついた。 ボロピッケルは、なぞの骨に形の良い石ころを繋げただけのものだ。石ころと鉱脈の強度はほぼ同等、つまりぶつけていれば、壊れるのは必然だ。 鉄鉱石を切っ先に用いた通常のピッケルもいずれは壊れるが、ボロピッケルよりははるかに長持ちする。 しかし、功績ばかり良くてもアストがルーキーなのは変わりないため、懐もそれ相応の金額しかない。 安物のボロピッケルでどうにか凌いでいる程度だ。 「さっきので最後のボロピッケルニャ?」 「あぁ……。帰るか」 アストは鉱脈から散らばった鉱石をかき集めると、麻袋の中におさめていく。
特産キノコを無事に納品したアストとセージはバルバレに帰還すると、集めたそれを依頼者に引き渡してからエリスに報告し、報酬金を受け取る。 「六百ゼニー……この半分がボロピッケル代に飛ぶのかぁ……」 実のところ、まだ満足な鉄鉱石は集まっていない。 エリスから報酬金を受け取ったアストは、そのままシオンの営業所まで向かう。 シオンは忙しそうに紙にペンを躍らせていた。 アストが来ると、それを置いて彼に向き直る。 「はいはーいっ、いらっしゃいませーっ!あ、アストさんっ。おかえりなさーいっ!」 大きな声で元気よく、満面の笑顔で挨拶してくるシオン。 アストの表情はそれとは逆に暗いが。 「あれれっ、どうしたんですかアストさんっ?疲れたような顔してっ」 「シオン、ボロピッケル五本頼むな」 アストはそう言うと、受け取った報酬金の入った布袋から三百ゼニーをカウンターに差し出した。 シオンはそれを見て目を丸くした。 「ありゃっ?ボロピッケルなら、今朝も買いませんでしたかっ?」 そう、アストは今朝依頼を受ける前にシオンからボロピッケルを五本買って狩り場に持っていったのだ。五本とも壊れたが。 「うん。全部壊れた」 アストは大きく溜め息をつきながら答えた。 シオンは何故か首を傾げて「むぅーっ?」と考えるような顔付きになる。 「アストさん、今回の依頼で鉄鉱石って掘れませんでしたか?」 「いや。掘れたけど、ハンターナイフの強化にはまだ足りないんだよな」 ライラの話では、基準として手のひら大の鉄鉱石が五つほど必要なのだが、今回の依頼の中で入手出来た鉄鉱石は三つだけだ。 その上、素材だけあってもライラの方が商売にならないため、そのための費用も必要になってくるが、ボロピッケルが壊れる度に買っていたのでは浪費する一方だ。 「調合、しないんですかっ?」 「調合?」 シオンの言葉にアストは鸚鵡(おうむ) 返しに聞き返す。 「その掘ってきた鉄鉱石でピッケルを作るんですよっ。ボロじゃないやつですよっ?ピッケルならボロピッケルよりもずーっと丈夫ですからっ、鉄鉱石一つを犠牲にすれば、何倍もの鉄鉱石が返ってくるんですよっ!ついでにお金も節約っ!」 「あっ、そうか!」 アストはポン、と手を打った。 ボロピッケルで採掘した鉄鉱石を使うことで、さらに多くの鉄鉱石を集めるというのだ。 ピッケルの材料の一つであるなぞの骨なら、どこにでもあるようなものだ。 つまり、今回入手した鉄鉱石を狩り場に持ち込む。現地でなぞの骨を採取し、それと鉄鉱石を組み合わせてピッケルを作り、さらにピッケルで使った分以上の鉄鉱石を集めるのだ。 そのピッケルが壊れる頃には何倍もの鉄鉱石が集まっているはずた。そのうちの一つをまたピッケルにすることで、さらに多くの鉄鉱石が集まる。 これを繰り返せば、金を浪費するどころか依頼の達成で増えて、鉄鉱石がより多く集まるという正に理想的な計画だ。 「そうだよ!ありがとうな、シオン!」 アストは嬉しそうにシオンに礼を言うと、差し出したゼニーを回収してその場を駆け足で立ち去っていった。
それからまた数日が過ぎていった。 その日の昼間、アストはライラの工房へ向かっていた。 「ライラさん、こいつの強化をお願いします」 アストはライラと対面すると、自分のハンターナイフと、鉄鉱石の詰まった麻袋を差し出した。 ライラは麻袋から鉄鉱石を取りだし、使えるかどうかをチェックする。 「はいよっ、素材は出来てる……金の方は大丈夫ね?」 「もちろんですよ」 アストは今度はゼニーの詰まった布袋をカウンターに置いた。 それも確かめると、ライラはニッと笑った。 「よっしゃ、任せな。キッチリ仕上げてやるから、明日まで待っとくれよ」 「はい!」 そう言うと、ライラはそれらを持ってまた工房へ消えていった。
そんな様子を遠くから見ていたシオンは溜め息をついた。 「あーぁっ、私ったら商人失格かもねっ」 それでも、シオンの顔は何だか嬉しそうだ。
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