- 日時: 2014/04/04 10:51
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: o/T0BRwV)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
十四章 倒せ!大怪鳥イャンクック【後編】
アストはひたすらイャンクックの足元に張り付いていた。 幾度も斬撃を繰り返す内に、イャンクックの肉質が分かってくる。 脚はやはり硬いが、クチバシと翼、特に翼莫は柔らかく、ソルジャーダガーの刃が易々とそれを斬り裂いていく。 イャンクックはアストを追い払おうとクチバシを降り下ろしたり、火炎液を吐き出したり、尻尾で凪ぎ払おうとするが、攻撃してはすぐに動いて反対側に避け、またすぐに攻撃しては動いて反対側に避けを繰り返すアストには掠りもしない。 無論、アストだけではない。セージもまたラギアネコアンカーを振るい、雷の斬撃を浴びせる。 それを繰り返す内に、イャンクックの挙動が変わった。 「クワアァァッ!クワックワックワックワッ!!」 突如、その場で何度も跳ねた。 肉眼で見えるほど呼吸は荒い。 「!怒ったのかっ……」 アストは一度イャンクックから離れて呼吸を整えようとするが、怒り狂ったイャンクックはそんな隙すらも与えない。 「クゥワアァァァァァ!」 イャンクックはデタラメに火炎液を吐き散らしながら、アストに突進する。 アストは一旦呼吸を止めて、その場から退避する。 呼吸をしたい衝動を押さえ、イャンクックの脚に跳ねられるその寸前に頭から突っ込むように地面に飛び込んだ。 おかげであの突進に巻き込まれずに済んだ。 すぐに起き上がり、イャンクックに向き直る。 すると、イャンクックは羽ばたいた。 瞬く間にこのエリアを離れ、別のエリアに移動していったようだ。 「……ふぅ」 アストは一息ついてその場で座り込む。 呼吸を整えながらも、砥石でソルジャーダガーを研いで次への戦闘体勢を立て直す。 携帯食料も腹に押し込み、立ち上がる。 ペイントの臭いから、そこそこ離れたエリアにいるようだ。 「どうニャ?」 ラギアネコアンカーを背中に納めながら、セージはアストに声をかける。 「どうもこうも……動きは見えてきた。後は持久戦かな」 「ニャ」 それだけを交わすと、アストとセージはイャンクックを追う。
三つ目のエリア。 先程のエリアとはうってかわって、狭く入り組んだ地形であり、大型モンスターは入れそうにない。 小型モンスターの姿も見られない、静かなエリアだ。 ペイントの臭いは近くなっている。恐らく、この先だ。 アストはさっさと先へ進もうとして、ふと足を止める。 「これは、タル爆弾?」 半ば地面に埋まったような箱の中から、大きなタルが顔を覗かせていた。 タル爆弾とは、タルの中に爆発性の物質を詰め込んで起爆させ、モンスターにダメージを与える道具だ。 アストが見つけたそれは、ギルドから提供される支給用大タル爆弾だ。 通常とは違う、特殊な爆薬を詰め込んでいるため、その威力は普通の大タル爆弾の約1.5倍はあるらしい。 大タル爆弾に、カクサンデメキンと言う、絶命時に身体が拡散するという魚を仕込むことで出来上がる、大タル爆弾Gも支給用大タル爆弾と同等の威力がある。 「……使えるなら、使う!」 アストはそれを慎重に担ぐと、狭い道を進む。
イャンクックはその先のエリアにいた。 アストは岩の陰に支給用大タル爆弾を置いておき、イャンクックに再度仕掛ける。 アストの気配を感じ取るや否やイャンクックは振り返り、敵を確かめる。 「クワアァァッ!」 またも火炎液を吐き散らしながら突撃してくる。 まだ怒りが収まってないのか、その挙動は速い。 とは言え、距離は十分に空いている。 アストは大きく側面へ避ける。 彼を通り過ぎたイャンクックはそのまま倒れるようにして突撃を止める。 すかさずアストは距離を詰めて、ソルジャーダガーを振るう。セージも岩の陰から現れ、ラギアネコアンカーを放つ。 翼、尻尾、腹を斬り裂き、見る内にイャンクックの鱗に傷が入り、甲殻を砕いていく。 「クオォッ」 イャンクックは起き上がると背後を一瞥し、振り向き様にクチバシを振り抜いた。 「まずっ……」 攻撃を続けていたアストは全くの無防備だ。 脇腹にクチバシをぶつけられた。 強化したハンターメイルとはいえ、見違えるほど強化された分けではない。しょせん気休め程度のものだ。 「がっ……!」 息が詰まり、アストはそこで尻餅をついてしまう。 その隙を逃すイャンクックではない。 立て続けに火炎液を吐き出してくる。 アストは辛うじてソルジャーダガーの盾を前に出し、その火炎液を受ける。 盾と火炎液がぶつかると、一瞬盾が焦げたような臭いと共に煙を噴き出した。 「あっつぅあぁっ!?」 盾越しにに熱が右腕に伝わり、アストは激しく右腕を振った。 イャンクックはさらにそこから連続啄みまで仕掛けてくる。 「ちっ、くしょうっ」 アストは痛む右腕をそのままに、そこから飛び下がってクチバシを避ける。 「落ち着けニャアストッ!慌てたら向こうの思うツボニャアッ!」 「分かってる!」 怒り狂ったイャンクックの猛攻はアストに余裕を与えない。 これではアストも落ち着くに落ち着けない。 「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ、はぁっ……!」 全身が深呼吸を求めている。 酸欠で立ち眩みがアストに襲い、彼の足を止めさせてしまう。 「クオォッ、クワアァァッ!」 イャンクックは好機とばかり突進の姿勢を取った。 アストは「回避しなくては」と頭では分かっていても、身体が言うことを聞かず、その場から動けなかった。 (やばい、死んだかも……) あの巨体に踏み潰される自分の姿が簡単に想像できた。 そんな考えたくもなかった想像が頭を過った時だった。 「うおぉぉぉぉぉニャアァァァァァァァァ!!」 セージが雄叫びを上げながらイャンクックに肉迫していた。 ラギアネコアンカーを無茶苦茶に振り回すかのように振るう。 「クアァァァァッ!?」 セージの全身全霊から怒気が放たれているかのような気迫を前に、イャンクックはたじろぎ、一方的に雷撃を受けていた。 「シャアァァァァァァァァッ!」 ラギアネコアンカーがイャンクックの脚を斬り裂くと、イャンクックはバランスを奪われ、その場で横倒しになってしまう。 「今ニャアストッ!」 「お、おう!」 アストは荒く呼吸を繰り返しながら、隠しておいた支給用大タル爆弾を取りに駆ける。 一抱えもあるそれを担ぎ上げ、イャンクックの頭の近くまで持ってくる。 しかし、それと同時にイャンクックも立ち上がろうとしていた。 今から離れて何かをぶつけて起爆するのでは間に合わない。 それを考えた時、アストは恐ろしい行動に出た。 アストは右手の盾をしっかり構えると、左手でソルジャーダガーを握り、そのソルジャーダガーの切っ先を支給用大タル爆弾に叩きつけた。 直後、凄まじい爆発が巻き起こり、爆風がアストとイャンクックを包み込んだ。
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