- 日時: 2014/04/05 11:28
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: rEdQKmku)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
十六章 おかえりなさい
「「「「ご馳走さまでした」」」」 「はぁい、お粗末さまでしたぁ」 ミナーヴァでは、もう日も暮れて何時間も経った遅い夕食が今終わったところだった。 ただ、一人と一匹を除いて。 「アストくんにセージくん、なかなか帰って来ませんねぇ」 ルピナスは鍋に残しているシモフリトマトのトマトスープを見やりながら、一人と一匹の身を案じていた。 「大丈夫よ。アストがドジやっても、セージが何とかしてくれるっしょ」 ライラはつまようしで歯間をつつきながら軽くモノを言う。 「もしかしたら、二人して迷子になってるんじゃ……」 カトリアは未知の樹海で道に迷ってくたびれているアストとセージの姿を想像する。 「迷子ってねぇカトリア、アンタじゃないんだから」 「私はそんなにバカじゃありませんっ!」 ライラの茶々にカトリアはムッと怒る。 「でもでもっ、こんなに遅くなるなんて考えてなかったですよーっ。もしかしたらっ、マカライト鉱石欲しさにあちこち探し回ってるだけかもしれませんしっ」 食後のデザートの氷樹リンゴをかじりながら、シオンも一人と一匹の身を案ずる。 「そうですねぇ。一応ぉ、書き置きは残しておきましょうかぁ」 ルピナスは適当な紙にペンを走らせると、それに針金を差し、鍋の持ち手にくくりつけておく。 「…………」 エリスもまた、無言と無表情でありながらその内心はアストとセージのことでいっぱいだった。
眠らない街、ドンドルマでも灯りのほとんどが消えるような時間帯でも、活動を続ける者はいる。 一つはライラの工房。 彼女はこんな夜遅くでも作業を続けている。 「おっし、ざっとこんなモンかな」 ルピナスからの依頼で、アストのことを考えてもっと大きなフライパンが欲しい、とのことだ。 アストに納品してもらった鉄鉱石を用いて、いつもルピナスが使っているフライパンよりもひとまわり大きなフライパンが型どられる。 火から上げたばかりのそれは、特殊な手袋で覆っているライラの右手でも熱く感じる。 このまま一晩置いて冷ますのだ。 「今日もお疲れさんっと……」 彼女の身体もフライパンと同じように熱くなっており、身体を冷ますために外に出る。 砂漠の夜風は冷える。 それでも今のライラにとってはちょうどよい冷風に過ぎない。 ふと、彼女は工房の向かいを見やる。 そこには、僅かな灯りとともに座って本を読んでいるエリスの姿だった。 この砂漠の夜風の中何をしているのだろうと、ライラはエリスに近付いた。 「よっ。何してんの?」 ライラに声を掛けられ、エリスは薄く反応した。 「……ライラックさん」 本に冊子を挟んで閉じるエリス。 「さすがのカトリアも、もう寝てる頃さ。こんな遅くでも眠れないの?」 「……いえ、とっても眠いです」 エリスは目を擦ると、ルピナスが寝る前に淹れてもらったホットミルクを一口啜るが、既に冷めている。 そのエリスの眠そうな様子を見て、首を傾げるライラ。 「じゃ、何で寝ないのさ?」 「……待っているんです」 エリスな姿勢を正す。 「アストとセージを?」 「……はい」 眠そうな、それでもしっかりした眼でエリスは答える。 「……それが、私の役目です」 「へぇ」 ライラは半ば感心したような、あるいは呆れたように、声を洩らした。 そしてふと、ニヤニヤと口の端を歪ませた。 「愛しの彼を待つ……ロマンチックだねぇ〜」 「……い、いとっ……!?」 ライラの不意打ちに、エリスは頬を赤らめた。 すぐに頭を振ってそれを否定する。 「……ち、違います。そういうわけでは……」 「はいはいっ、そんじゃお邪魔虫はさっさと寝ますか。おやすみ〜アーンド、ごゆっくり〜」 ライラは意地悪く手を振ると、自分の工房へ戻っていく。 エリスは怨めしそうにライラの背中を睨んでいた。 「……本当に、そういうのじゃないのに」 そう、これは受付嬢としての務め。 自らの役目に私情を挟んではならない。いや、挟んではならない私情などない。 エリスはそう言い聞かせて、冷めたホットミルクを飲み干した。 そもそも、ライラの言うようなロマンチックと言う意味もよく分かっていないのだ。 ……ただ、何故だろうか。 依頼を達成して帰ってくる彼の笑顔は眩しくて、依頼を失敗した時は本当に申し訳ないような、逆にこっちが申し訳なくなるくらい謝ってくる。 彼はいつだってまっすぐだ。 彼が頑張っている姿を見ると、どことなく元気を貰えるような気がしている。 (……それがロマンチック?) 分からない。 自問自答を繰り返しても、答えは出ない。 頭を悩ませていると、ふと遠くから何かが歩いてくる足音が聞こえる。 暗闇の中から現れたのは、一頭のアプノトスとそれに繋がれた荷車。 セージがそのアプノトスを手綱を打って、足を止めさせる。 その荷車の中から、彼、アスト・アルナイルが現れた。 「ただいまーって、さすがにみんな寝てるもんな」 ふと、アストとエリスの目が合う。 もう見慣れた、彼の顔だ。 「……おかえりなさい」 ごく当たり前の挨拶。 今夜のエリスにとっては、その当たり前がどことなく特別に思えた。 |