- 日時: 2014/04/12 11:53
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: ufbSDF3U)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
二十三章 力の限り猛ろ叫べ
セージの言う通り、正面から突っ込めばあの二本の大牙の餌食になるのは明白だ。 アストは正面からやや左斜めの軌道を描きながらテツカブラに接近する。セージはその逆に右斜めで動く。 テツカブラは左右に展開する敵に目移りさせる。 一瞬の思考の元、テツカブラはセージに狙いを付けた。 「ヴォオッ」 セージに向かってそのくわえた巨岩を持ち上げると、顎に力を込めてその巨岩を粉々に砕いた。正確には、その砕いた巨岩の破片をぶつけるつもりなのだろうが、セージは既にテツカブラの懐に潜り込んでいる。 「当たらニャければそのパワーも形無しだニャ」」 ラギアネコアンカーを横凪ぎに振るい、テツカブラの後ろ脚を削る。 一方で、アストもテツカブラの後ろ脚に取り付いていた。 「おぉりゃあぁぁぁっ!」 鍛えられたばかりのコマンドダガーは遺憾無くその切れ味と攻撃力を発揮し、テツカブラの後ろ脚を次々に斬り裂いていく。 後ろ脚の肉質はそこそこ柔らかい。背中は硬そうだが、その内側の腹は柔らかそうだ。 「ヴォアァァッ」 自分の腹回りに敵が取り付いているのか、テツカブラは身体の右半分を持ち上げた。 押し潰すつもりか、とアストは直感で判断し、そこで攻撃を止めてテツカブラの後ろに回るように回避する。 アストの直感通り、アストのすぐ背中でテツカブラが持ち上げた右脚で地面を踏みつけた。 セージはやはりテツカブラの左脚でラギアネコアンカーを躍るように振るい続けていた。 左から右へ凪ぎ払い、そこで一回転してまた左から右へ凪ぎ払い、腰を右にひねって回転を止めて溜めをつくり、右下から左上へ斬り上げ、斬り上げと同時に自身も飛び上がり、落下の勢いをつけながら叩き付ける。 その度にラギアネコアンカーから放たれる蒼光が、躍るセージを鮮やかに彩る。 「ヴオォッ!?」 立て続けに攻撃を与えられ、テツカブラは一瞬だけでも怯んだ。 テツカブラはセージに向き直ると、一歩引いてその二本の大牙を地面に突き刺した。 固い地盤がバターのようにくり貫かれ、テツカブラよりも大きな巨岩が立ち上げられる。 ふと、後ろに回り込んでいたアストはそのテツカブラの異変に気付いた。 「尻尾が変わったっ……?」 後ろに回り込んだ時のテツカブラの尻尾は、甲殻と同じ赤色に、小さな棘が無数に生えていたような外見だった。 だが、今アストが見ている尻尾は白く柔らかそうな筋肉が露になっていた。 人間が力を込めると筋肉が隆起するように、テツカブラの尻尾も巨岩を持ち上げるほどの力を込めると、このように筋肉が隆起するのかもしれない。 アストは踏み込みながらその尻尾にコマンドダガーを振り抜いた。 すると、コマンドダガーの刃がいとも簡単に通り、テツカブラの尻尾から鮮血を撒き散らした。 「行ける!」 アストはこの状態の尻尾がテツカブラの弱点だと見立て、そのままコマンドダガーを振るって連撃に繋げていく。その度にテツカブラの尻尾からおびただしいほどの血が溢れ、返り血がアストのクックシリーズを赤黒い水玉模様を描く。 「っしゃあぁぁぁぁぁっ!!」 連撃の最後に身体を回転させつつ、遠心力を乗せた踏み込みと共にコマンドダガーを横一文字に放った。 「ヴゥオォォォォォォォォォ!!」 突如テツカブラの挙動が変わり、テツカブラは咆哮を上げた。 遭遇直後の咆哮とは違う、はっきりとした「怒り」の感情を持ったそれは大音響と共にアストとセージを縛り付ける。 このような咆哮はそのまま耳にすると鼓膜が破れかねない上に、人間の心底の感情、「恐怖」を本能的に感じてしまうため、耳栓という特殊な性能がなければこのような咆哮はどうあがいても意味はない。 テツカブラはアストを向きながら後方へ下がる。 すると、テツカブラは頭を持ち上げると、口の中から気味の悪い色をした液体を吐き出した。 咆哮に足を止められていたアストはその液体をまともに浴びた。 「うっ!?」 硫黄か何かだろうか、嫌な臭いが鼻を刺激される。 それと同時に全身の力を抜かれたような脱力感が襲った。 「あ、あれ……?」 アストはその場で膝を付いてしまう。 「ヴォウゥアァァッ!」 その液体を浴びたアストが動けないと悟ったのか、テツカブラはアストに飛び掛かった。 まずいと感じても、身体が思うように言うことを聞かない。 どうにかコマンドダガーの盾を構えるものの、ろくに受けも踏ん張りも効かないその防御は、意味をなさずにテツカブラの飛び掛かりがアストを吹き飛ばした。 「まずいニャッ……!」 セージはこのテツカブラのパターンを知っていた。 テツカブラは吹き飛んだアストに向かってさらに飛び掛かって距離を詰めると、地面を這いずる突進でまたアストを撥ね飛ばす。 「があぁぁぁっ……!」 立て続けに強力な一撃を受け続けてしまう。 クックシリーズの高い防御力がアストの身体を守るが、テツカブラの重い一撃はクックシリーズをへしゃげさせ、その衝撃でアストは内臓のどこかを損傷したのか、口から血を吐き出した。 受け身を取る余裕もなく、アストは地面に叩き付けられる。 「がはっ……げほっ……!」 アストは咳の度に吐血し、クックメイルがテツカブラの返り血と混ざる。 もしもハンターシリーズのままだったら体幹の骨中の骨を砕かれて死んでいたかもしれなかった。 このクックシリーズを作ってくれたライラに感謝しながら、アストはどうにか立ち上がる。 幸い、テツカブラはセージの方に注意を向けており、アストへの注意は疎かになっているようだ。 アストはポーチから回復薬グレートを取り出して、それを飲み干した。回復薬本来の即効性の体力回復と、ハチミツに含まれている成分によって、アストの体力が大きく回復する。 「やるじゃないか、この野郎」 回復薬グレートの空き容器をポーチに戻すと、再びコマンドダガーを抜き放った。
|