- 日時: 2014/04/13 15:52
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: pXyxjRoW)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
二十五章 炎上する激情、セージの静かな怒り
狙いは、テツカブラの二本の大牙だ。 「りゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 烈迫の勢いと共にアストはコマンドダガーを振り回す。 研磨したばかりの斬れ味は最高だ。 もがき苦しむテツカブラの頭に、一方的にコマンドダガーを叩き込んでいく。 牙はやはり硬いが、コマンドダガーの斬れ味ならば問題なく攻撃を通していく。 縦横無尽に斬撃を放ち、瞬く間にテツカブラの二本ある内の一本の牙を半ばから破壊する。 その牙が破壊されたと同時にテツカブラは起き上がる。 テツカブラの口からは唾液が漏れ、明らかに疲労していることを表している。 アストはテツカブラが起き上がるや否や、再びテツカブラの近くにある段差に足を掛け、再度上方からの攻撃を仕掛ける。 「ヴォアッ……!?」 またしてもテツカブラはその攻撃に体勢を崩してしまう。 アストは再びテツカブラの背中に飛び乗り、剥ぎ取り専用ナイフによる攻撃に出る。 疲労しているテツカブラはそのアストの攻撃に抵抗する余裕もなく、背中の随を傷つけられてまた地面を転げ回ってもがき苦しむ。 アストはそれを確認すると再びテツカブラの頭に攻撃を仕掛ける。 「かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 もはや、アストの目はテツカブラの牙しか見えず、四肢はコマンドダガーを振るうための役割しか果たさず、アストは『テツカブラの狩猟』ではなく『テツカブラの牙を破壊する』ことしか頭になかった。 「おいアスト、熱くなりす……」 「ぶぅっ潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 セージの言葉も耳に貸さず、アストはテツカブラを牙を二本とも破壊してもなお、テツカブラの頭にコマンドダガーを振り回しまくる。 テツカブラの眼球を貫き、舌を八つ裂き、脳髄を斬り刻んだ。 もうテツカブラは死んでいる。 それでもなお、アストはコマンドダガーを振り回している。 「……」 そんなアストを見て、セージは動いた。 ラギアネコアンカーを逆さに構えると、柄でアストの首筋を叩いた。 「ぎぇやぁぁぁぁ……っうっ!?」 アストは突然の痛みにコマンドダガーを手から落とした。 「はぁっ……はぁっ……俺は……何を……?」 目の前には、牙を二本とも折られて絶命したテツカブラ。 「熱くなりすぎて、周りが見えなくなっていたようだニャ」 セージはアストの正面に回る。 その瞳は怒りと、軽蔑を宿していた。 「アスト、ハッキリ言うニャ。今のお前は『モンスターハンター』じゃニャい……」 セージはおくびもせずにアストに言い放った。 「ただの殺戮者ニャ」 「さ、殺戮、者……?」 アストは今の自分を見てみる。 コマンドダガーやクックシリーズはおびただしく真っ赤に染まっている。 「熱くなりすぎる……それが若さだと言えなくもニャいが、もう殺した相手をなおも殺そうとする……アスト、お前は虐殺快楽者かなにかニャ?」 「ち、違うっ、俺、俺は……」 不意にセージはアストに飛び掛かり、アストを蹴り倒した。 「ぐっ!?」 アストは簡単にセージに押し倒された。 フッ、とアストの喉仏に何かが突き付けられる。 それは、セージのラギアネコアンカーだ。 「何が違うニャ?教えてみろニャ。それでオレを納得させてみろニャ」 セージはアストのクックメイルを踏みつける。 「…………」 アストは何も答えられなかった。 熱くなりすぎて周りが見えなくなるなど、少なくともそれは快楽者では無い。 しかし、アストは死んだテツカブラになおも攻撃を続けていたのだ。 端から見るその様子はどうか? バーサーカーか、もしくは本当に虐殺快楽者だろう。 「おい、どうしたニャ?オレの言う虐殺快楽者は違うのニャ?答えてみろニャ、おいっ!」 セージはラギアネコアンカーを降り下ろした。 首では無いが、へしゃげたクックメイルにラギアネコアンカーが捕らえた。 その瞬間、アストの全身に焼けつくような痛みが走った。 「ぐあっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」 アストはラギアネコアンカーによる雷を受けて苦しげに叫んだ。 セージはラギアネコアンカーを納めた。 「……まぁ、これはお仕置きみたいなものと思えニャ。だが、次にまた同じようなことがあれば……」 セージは肉きゅうをアストの首に当てると、一言ずつ句切って言い放つ。 「オレは、後ろから、お前を、殺す、ニャ」 「…………!?」 アストの背筋に戦慄が走った。 オトモアイルーに殺されるハンターなど有り得ない。 そして、セージの殺意を込めたその目は、冗談で言っているとは思えない。 「その方が、カトリアのためニャ」 セージはそれだけを言い残すと、アストから離れてエリア8を離れていった。 アストはしばらく茫然自失していた。 しばらくしてから、と言っても、テツカブラの屍がもう剥ぎ取れなくなるほど腐敗してからだった。
ベースキャンプでセージは待っていたが、何も言わない。 アストも無言で帰還の準備を始める。 依頼には成功した。 だが、アストの気持ちは、まるで失敗した上に大切な何かを失ったかのような気分だった。 |