- 日時: 2014/04/14 03:27
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 5AL6Pzi/)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
二十六章 狩りと殺しの違い
ナグリ村に帰還してテツカブラの狩猟成功を報告すると、村中が歓喜に満ちた。 まだ怪我が治っていないにも関わらず、土竜族達は殺到するように地底洞窟へ向かっていった。 常にどこかで槌を打ち鳴らす音が聞こえてなければ落ち着かないのだろう。本当に根っから村を愛しているのだとも汲み取れる。 「おうよ、さすがカトリアのとこのハンターだ。やってくれんじゃねぇかよぉ」 村長は愉快そうにアストに話し掛ける。 「ありがとうごさいます」 だが、アストは何の表情も見せずに会釈する。 「ぁんだ?疲れちまったのか?元気ねぇな?」 「そんなとこです」 アストはそう答えると、自室の馬車へ戻っていった。 セージはその背中を見送ると、村長に向き直る。 「思春期ニャ。考えるべきこと、考えたいことがたくさんえるのニャ、村長」 アストがあんな様子を見せている最もの理由を知っているセージだが、事をそのまま伝えようとはしなかった。 思春期なのかは微妙な所だが、考えるべきこと、考えたいことがあるのは確かだ。 アストは道具袋を投げ捨てて装備も脱ぎ捨てると、ベッドに転がった。 『今のお前は『モンスターハンター』じゃニャい……ただの殺戮者ニャ』 セージのその言葉を反芻していた。 モンスターを狩るのがモンスターハンターだ。 狩るということは、殺すこと、命を奪うことだ。 セージは今のアストをただの殺戮者だと言った。 しかし、テツカブラは『狩った』のだ。 おかげでナグリ村の人々は喜んでくれたし、得たものもある。 テツカブラを狩ることが出来た。 それは胸を張って言えばいいだろう。モンスターハンターにとって、それは誇るべきことなのだから。 だが、それまでの経緯はどうだったか? ただ激昂に身を委ねて、必要もない殺傷をすることがモンスターハンターの成すべきことだろうか? それは否だ。 訓練生時代だった時の教官の言葉をうろ覚えながら思い出す。 「本当の『モンスターハンター』とは、ただ名を馳せる狩りをするだけでなく、自然と協調し、敬意を示してそれらを狩ることだ」 あの時は、ただの教育的洗脳のような言葉だと思っていたが、今それを思い出すとその言葉に込められた意味が分かる気がする。 正直、テツカブラに対して二回目の乗り攻撃を成功させてからはもう意識がなくなっていた気がする。 我を忘れる……それはすなわち、自分自身を、心を忘れることと同義。 心をなくしたヒトが、自然に敬意を示すなどちゃんちゃらおかしいことだ。 心のなくしたヒト、つまりそんな人間に優しさはない。 ふと、セージが最初に言っていたことも思い出す。 「命を大事に出来ない奴はカトリアを悲しませる」 もし、カトリアがテツカブラ狩猟のあの瞬間を見ていたのなら、アストに対して何を思うだろう。 優しいカトリアなら、セージのようにハッキリと面と向かっては言わないだろう。 だが、きっと悲しむだろう。 セージの言う「命を大事に出来ない奴」とは、己の命だけのことではなく、相手の命のことも指しているのだろう。 あのテツカブラを狩った時、少しでも敬意を示せただろうか? そんなわけがない。 生を失った命に力を向けて、激情の捌け口のように扱ってしまった。 「……最低のハンターだな。いや、ハンターですらないかな」 それこそ、セージの言っていた、『殺戮者』だ。 ふと、ドアがノックされる。 「はい?」 アストはベッドから飛び起きると、ドアを開けた。 ドアの向こうには、医者の雛を自称する少女、マガレットが待っていた。 「初めまして。あの、ミナーヴァのハンターさんですよね?」 アストは彼女と初対面だ。 「そうだけど……君は?」 アストも彼女の素性を訊いてみる。 「あ、すみません。私は、マガレット・マカオンです。あちこちのキャラバンに同行させてもらいながら、医者としての修行を積んでいます」 マガレットは礼儀正しく自己紹介する。 「医者かぁ……って、君、じゃなくて、マガレット、さん?」 「マガレットで構いませんよ」 「じゃあ、マガレット。君、いくつ?」 「今年で16歳です。医療学校を卒業したのがつい最近ですから、まだまだ修行の最中です」 アストは絶句した。 自分と同い年なのに、医者という人の上に立つ職を手にしているのだ。モンスターハンターというありふれた自分の職業と比べるまでも無いほど位が違う。 「あの、ハンターさん?どうかしましたか?」 マガレットは小首を傾げて絶句するアストをみつめる。 絶句した理由はそれもあるが、もう一つ理由があった。 マガレットのその容姿だ。 爽やかな若葉のような翡翠色の短髪。それを木の葉とするなら、青紫色の瞳は果実だ。そしてあちこちを旅して日にさらしているのか、健康的に焼けた肌。 彼女を例えるのなら、実を付けたばかりの若々しい木だ。 アストからすると、彼からでなくても、かなり可愛らしい。 |