- 日時: 2014/04/15 12:12
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 81kSujb4)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
二十七章
ふと、アストは自分の格好を確かめた。 クックシリーズを脱ぎ捨ててそのままだったので、インナーしか着込んでいなかった。 「ごめんっ、着替えるからちょっと待って」 アストは慌ててカーテンを閉めると、その中でインナーを脱ぎ捨てて私服に着替える。 マガレットは特に気にした様子もなく、アストを待っていた。 「ごめん、待たせた。それと、俺の方も申し遅れた。俺はアスト・アルナイル。言ってくれたように、ハンターやってる。俺のこと知ってるみたいだし、カトリアさんには会ったんだ?」 「はい。……その、それと」 マガレットはアストの顔をまじまじと見詰める。 アストは照れたように目を逸らした。 「……そんな特別美少年ってわけでもないかな?」 マガレットは口の中で何か呟いているようだが、アストにはそれが聞こえない。 「な、なに?俺の顔になんかある?」 彼女の真意が汲み取れず、アストはそれを確かめようとする。 「あ、いえ。でも、どことなく顔色が悪そうだったので、どうしたのかと……」 なるほど、さすがは医者というわけだ。 具合の良し悪しの判断は出きるようだ。 「あー、疲れてるし、それが顔に出ているみたいかな。特別どこか悪いわけでもないよ」 アスト自身、嘘をついているつもりはなかった。 「そうですか?もしどこか具合が悪くなりましたら、いつでもどうぞ。私はもう少しカトリアさんと話したいので、失礼します」 そう言って、マガレットは一礼するとアストの自室の馬車を後にして行った。 アストはその背中を見送った。 「いつでもどうぞ、って、まさか?」 しばらく考えてから、アストはマガレットの後を追うことにした。
自室の馬車を出て、坂を降りての作業場の側に、カトリアとマガレットと、壮年の男が話し合っていた。 何やら真面目な話らしく、アストはそこで介入せずに遠巻きに聞いていた。 「マガレット。君は、彼女達ミナーヴァと同行したい……その気持ちは変えないんだね?」 「はい。カトリアさん達は、世界を見て回りたいから旅をしていると言っていました。私も修行を積みながら一緒に世界を回って、その先々で怪我や病気で苦しむ人を少しでも助けたいです」 「そうか……カトリアさん。そちらが迷惑でなければ、彼女をお願いしたいのだが、構わないかね?」 「迷惑どころか、こちらとしては大歓迎です。私達ミナーヴァには医療人がいないので、もしもの時に助かります。もちろん、不当な扱いはしません。年の近い女の子も多いので、少しは馴染みやすいかと思います」 「うむ。では、彼女の輝かしい未来を、あなた方ミナーヴァに託す。マガレット、いいかね?」 「はい」 「分かりました。彼女は私達が責任を持って旅へお連れします」 あの壮年の男は、ナグリ村に来ている、ミナーヴァとは別のキャラバンの団長のようだ。 話の内容から、マガレットは元いたキャラバンからミナーヴァの方に来るようだ。 カトリアがそれを了承したように、壮年の団長と握手を交わしている。 「しかし、カトリアさんもそうだが、ミナーヴァの皆さんは本当に若者ばかりですな。それも女性ばかりとなると、少々の不便はあるのでは?」 「いえ、特に男女的な不便はありませんし、私達には期待のハンターがキャラバンを守ってくれるので安心です」 カトリアの言う「期待のハンター」とは、アストのことだろう。セージのことも指しているだろうか、世間一般的にはモンスターハンターであるアストのことになるだろう。 俺はそんな大それたハンターじゃないけどな、とアストは心で呟いた。 「期待のハンターか。ところでカトリアさん。ここ数年前まで伝われてきた、『四大女神』のことは知っているかね?」 四大女神。 アストも少なからずその名前を知っていた。 「……はい。いずれも女性で、古龍種、もしくは希少種の装備を纏う、この辺りで伝説的なハンターですね」 「おぉ、存じているか。若いのに感心だ」 「えぇ。確か、『轟天』『氷銀』『幻影』『猛焔』の二つ名を持っていると聞いています」 アストが知っていたのは四大女神の名前だけだったが、二つ名までは知らなかった。 「うむ。だが、つい最近ですっかりその名も聞かなくなったがね。噂だと、三人が死亡、一人が行方不明になっているとか」 「……そうだったんですか?」 何故か、カトリアの声のトーンが心なしか下がっているように聞こえるのは気のせいだろうか。 「いやすまない、話が過ぎたな。ではカトリアさん、マガレットを頼む」 「よろしくお願いします、カトリアさん」 「こちらこそお願いします、マガレットさん」 カトリアとマガレットは互いに頭を下げる。 何はともあれ、ミナーヴァに新たな仲間、マガレット・マカオンが入ってきたようだ。
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