- 日時: 2014/04/16 17:49
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: O8Ptuxgc)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
三十一章 銀の太陽
アストは突然横から突き飛ばされた。 何が起きたのか分からないままアストは地面を転がった。 正気を取り戻し、状況を把握しようと辺りを見回す。 真っ先に見えたのは、銀色の鎧、赤茶けた長髪、それを結ぶ銀色のリボン。それはすなわち、『銀色の装備を纏ったカトリア』の姿だった。 「カ、カトリアさんっ……!?」 アストは目の前にいる存在と、その彼女を包む銀色の装備に目を見張った。 なぜ彼女がこんなところにいる?それとも他人の空似か? アストの中で疑問が絶えなかったが、今は状況に任せることにした。 「早くっ、逃げてっ……!」 彼女はアストを一瞥しながら行き絶え絶えな声でアストを逃げるように諭す。 何が何だかはよく分からない。 とにかく、アストはコマンドダガーを腰に納めると、蜘蛛の巣に足止めされているセージを取っ捕まえて蜘蛛の巣を取り払う。 「カトリアッ!なんでお前がここにいるニャッ!?お前はっ……」 セージがそう怒鳴るところ、やはりアストも知っているカトリア・イレーネその本人だ。 「いいからっ……!」 カトリアは膝を笑わせながら、泣きそうな声で訴える。 「ギャアァッ?ギャアシャァァァッ!!」 「ギョギョッ、ギギギギギッ」 ドスゲネポスとネルスキュラは新たな獲物を見つけて、二者二様の威嚇をカトリアに向けた。 「……っ!」 その威嚇で、カトリアは足をすくませた。 ドスゲネポスが先攻し、カトリアにその牙を剥ける。 「ゃっ……!」 カトリアは咄嗟に腕を頭の前に上げた。 結果、ドスゲネポスの牙はカトリアの両腕を捉えたが、鈍い音を立てただけで、ドスゲネポスはその銀色の装備に守られた両腕に噛み付いても千切れないことに首を傾げるが、構わずそのままカトリアを押し倒す。 「つっ……!」 カトリアは仰向けに押し倒される。 ドスゲネポスはその噛み付いている両腕から牙を離し、次は勢いを付けてカトリアの胸に当たる部位に攻撃する。 「んっ……!」 しかし、これも銀色の装備に阻まれてドスゲネポス得意の麻痺が通じない。 カトリアの身体は、その銀色の装備に守られて無傷だ。 だが、カトリアは小さく悲鳴を上げるばかりで反撃の体勢に移らない。 「なっ、何をやってるんですかカトリアさんっ!」 その一方的な有り様を見て、アストはカトリアに怒鳴った。 だが、カトリアは恐怖に顔を歪めてアストの声が耳に届いていない。 「ギャアァ?ギャァッ!」 ドスゲネポスは自分の攻撃ではこの獲物は仕留められないと悟ってか、自らカトリアから離れた。 が、諦めた分けではない。 すると、ドスゲネポスの出方を見ていて我関せずの態度を取っていたネルスキュラが動いた。 「キシャァッ」 ネルスキュラは四本の脚を垂直に立てると、腹から白い球状の塊を三発打ち出した。 その白い球状の塊は、カトリアを直撃すると瞬く間に弾け、彼女の銀色の装備に絡み付いた。 それは、蜘蛛の糸の塊だ。 「きゃっ……!」 カトリアの全身は糸によって地面に縛り付けられる。 「えぇいっ、お前はやっぱりバカニャッ!」 セージはアストから離れてカトリアを助けようと走るが、ドスゲネポスがそれを阻んでくる。 「どけニャァッ!お前と遊んでる場合じゃニャいんだニャァァァァァッ!!」 セージはラギアネコアンカーを抜き放ち、ドスゲネポスに飛び掛かった。 ラギアネコアンカーの切っ先はドスゲネポスの眼球をぶち抜き、その口の中にラギアネコアンカーを突っ込ませ、咽頭をズタズタにした。 「ガァギャァァァッ!アギャガャァァァァァァァ……!!」 ドスゲネポスは激痛の余り暴れまわり、血を吐き散らしながら崖の下へ落ちていった。 身体の内側から雷を浴びた上に崖から落ちたのだ。まず生きてはいられないだろう。よしんば生きたとしても、出血が酷くて長くは持たないだろう。 「ギギギョギヨッ」 そうこうしている内にネルスキュラは鉤爪を顔の前でクルクルと回していた。 それに伴い、カトリアの身体に絡み付く糸が短くなっていき、ギリギリとカトリアの四肢を締め上げていく。 「ぃやっ……!ぅんんっ……!」 簀巻きにされたカトリアはそのままネルスキュラの元へ引き摺られていく。 「カトリアァッ!」 セージはカトリアを助けようと駆けるが、既にカトリアはネルスキュラの目の前で格好のエサになっている。 「ギョオオオォォォッ!」 ネルスキュラは口の中から触手状の牙を剥き出しにする。 嫌な紫色の液体が滴っているところ、それは毒にまみれた牙だ。 「あ、あぁ……!?」 カトリアは抵抗すらも許されず、それが許されても恐怖のあまり動けない身体にあの牙が襲い掛かってくる状態を想像してしまう。 その瞬間、カトリアの前に誰かが立ち塞がった。 それはセージではなく、アストだった。 ネルスキュラの牙はカトリアではなく、アストを確実に捉えた。 「ぐぁっ……っあぁがぁぁぁぁぁぁっ!!」 クックシリーズは挟み潰されてメキメキと軋み、その隙間からアストの身体に毒液が浸入する。 「アッ、アスト、く……!?」 ネルスキュラはアストを振り払うと牙を口の中に戻した。 アストは受け身も取れずに、捨てられるゴミのように放られた。 その瞬間、カトリアの奥底の記憶がフラッシュバックした。 自分を守るために、仲間達は次々にモンスターに捻り潰されていく。 鮮血が飛び交い、悲鳴が耳にへばりつき、息も出来なくなるくらい喉が渇き、屍の姿でなお守ろうとする。 「ゃ、ぇ、て……」 やめて。 私を守ろうとしないで。 カトリアはそれすらも声に出来なかった。 ネルスキュラはゴミを見るようにアストを一瞥すると、再びカトリアに向き直る。 「っ!」 ネルスキュラの無機質な複眼が、カトリアを捕らえた。 「ギッギッギッ……」 鉤爪を擦り合わせ、まるで食事を楽しみにしているように見える。 アストとセージを助けるどころか、余計に危険に晒し、自分までもが死へ急いでいる。 「ローゼェ……リアァ……フリージィィ……助けてよぉ……」 今は亡き仲間に助けを求めても、無駄なのは分かっていた。 分かっていても、今のカトリアは何かにすがるしかなかった。 ネルスキュラは再び毒液まみれの牙を剥き出した。 それと同時に、何かがカトリアの頬を駆け抜けていった。 すると、突然ネルスキュラの顔面が爆発した。
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