- 日時: 2014/04/17 11:16
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: WFDqsm9O)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
三十二章 スナイパー
「ギョオワァァアッ!?」 突如顔面が爆発したネルスキュラは驚いてのたうち回った。 爆発は一度に限らず、二度三度と爆発する。 「拡散弾っ!?一体誰がニャッ……!」 セージはその爆発の正体を瞬時に見抜いた。 拡散弾とは、ボウガンナーの攻撃手段の一つであり、着弾と同時に爆薬を撒き散らすというガンナーの中でも一、二位を争う破壊力を秘めている。 しかし、誰がそれを撃ったのか? 簀巻きにされているカトリアでは無理、だからと言ってアストは片手剣士だ。 故に、この二人ではない第三者によるものだ。 何者かを確かめたい衝動をおさえ、セージはネルスキュラがのたうち回っている内に、カトリアを縛り上げる蜘蛛の糸をラギアネコアンカーで焼き切る。 カトリアのその顔は、恐怖に顔を歪めて全身を震わせていた。 しかし怪我という怪我は無いようだ。 一方のアストはさすがと言うべきか、既に起き上がっている。 だが、顔は真っ青であからさまに身体に異常が出ていることは如実に証明していた。 ネルスキュラのあの毒液まみれの牙だ。あれを直撃したなら、今アストの身体中の細胞が急速に壊死を始めているはずだ。 「アストォォォォォッ!」 セージの呼び声で、アストは瞬時に反応する。 「カトリアをっ、頼むニャッ……!」 「……?……!」 アストは声は出さずにうなずきで応えた。 そして、のたうち回っているネルスキュラにもう一発拡散弾が放たれた。 やはりそれはネルスキュラの顔面を捕らえると、顔回りに爆撃が走る。 「ギギッギョッ、ギィシャアァァァァァッ!」 ネルスキュラは二度も顔面を爆破され、さすがに癪に触ったのか怒りを露にして、その爆撃が飛んできた方を睨み付ける。 その方向は、アストとセージが入ってきたエリア1への出入り口だ。その出入り口の陰から、緑色の何かが見え隠れしていた。 「もう気付いたか?意外と早かったな」 陰から、それは姿を現した。 深い緑色、深緑の装甲を纏った、ヘビィボウガンを構えた女性ハンターだ。 だが、それにしてはその距離だ。 そのエリア1と4の境目から、エリア4のほぼ中央にいるネルスキュラとの距離はかなり空いている。 「あの距離から……」 セージはあの深緑のガンナーの腕に舌を巻いた。 深緑のガンナーは構えていたヘビィボウガンを折り畳んで背中に納めると、ポーチから拳大の何かを取りだし、それを持ってネルスキュラに接近して投げ付けた。 ネルスキュラにぶつかったそれは弾けると、いかにも臭そうな茶色い煙を撒き散らした。 「ギョッギギッ?ギッギッ……」 それを喰らったネルスキュラは不意に明後日の方向を向いて、エリア5の方へ消えていった。 辺りは静けさに包まれた。 セージはその深緑のガンナーに話し掛ける。 「誰かは存じニャいが、助かったニャ。礼を言わせてもらうニャ」 ネルスキュラを見送っていた深緑のガンナーは、セージに振り向いた。 が、セージとは目が合わなかった。 むしろ目が合ったのはアストの方だった。 「そっちの君、これを飲め。でないと死ぬぞ?」 深緑の女性はアストに近寄ると、ポーチから白い袋に包まれたそれを彼に手渡した。 「……?」 アストは真っ青な顔でそれを受け取った。 「漢方薬ニャ、早く飲むんだニャアスト」 セージに促され、アストはそれを口にした。 かなり苦い味がしたが、我慢して飲み込んだ。 すると、見る内にアストの顔色に活気が戻り、瞳にいつもの赤い輝きが宿る。 「ぷはっ……にっがぁ……でも、スッキリだ」 アストは大きく息を吐くと、目の前にいる深緑のガンナーとむきあった。 まず目に付いたのは、その髪だ。 炎のように赤い長髪は後頭部でしっかり纏められて、ポニーテールになっている。 ルピナスのそれよりも爽やかな、どちらかと言えばマガレットの髪の色に近い碧眼。 整えられた輪郭、まともに睨まれたら間違いなく怖いだろう、鋭い切れ長の眼光。 次に、その高い身長だ。恐らくはライラよりも高い。 その高身長の身体を包むは、先程から目についている深緑の装甲。 刺々しくも、凛とした麗しい空気を纏わせるその防具。 アストでも、いや、ハンターを志す者なら誰でも知っているレギュラーな、だが入手は困難なその防具は…… 「レ、レイア、シリーズ……?」 アストは大きく目を見開いた。 レイアシリーズとは、陸の女王リオレイアという大型の飛竜種の素材をつぎ込んで作られる、モンスターハンターなら誰しも憧れを抱く装備だ。 空の王者リオレウスと対を成す、陸の女王の名は大袈裟でもなく、縄張りに侵入する愚者にはその強靭な脚力を持って徹底的に叩き潰す、ハッキリ言えばこの世界の食物連鎖でも頂点に君臨する存在だ。 そんな強力な飛竜の素材を用いた防具を纏う、つまりはそのモンスターを狩れるほどの実力はあるということだ。 「積もる話は後にしないか?君やオトモくんはいいかも知れないが……」 深緑のガンナーはアストの隣で震えている、カトリアに目を向ける。 「そっちの彼女は……心が大丈夫じゃなさげだが?」 「…………」 彼女の言うことは確かだ。 アストとセージは一度話を切ると、カトリアを連れてベースキャンプまで下がることにした。 |