- 日時: 2014/04/27 18:42
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: kdd0B4X0)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
四十三章 決死の救助作戦
アストは横目でニーリンを一瞥しながら早口で伝える。 「ニーリンッ、要救助者が二人だっ!俺とセージがこいつを押さえる!」 「うむ、言いたいことは察したぞ、アルナイルくん。では、しばし任せるぞ」 ニーリンは一旦その場を放棄し、船室に駆け戻る。 アストとセージは左右に展開して黒いモンスターに接近する。 黒いモンスターは、まずはアストに狙いをつけたのか、彼に向かってブレスを放った。 アストは冷静にそれを回避すると、回避と同時に黒いモンスターの後ろ足に取り付き、コマンドダガーを抜き放ち様に振るった。 まずはの一撃。 それほど硬くない肉質なのか、刃は通りやすい。 これが分かるだけでモチベーションはだいぶ変わってくる。 自分の武器が通じないとなると、絶望感しか覚えないが、これなら希望が見える。 セージも反対サイドからラギアネコアンカーを躍るように振るう。 「グォアァァァァッ」 黒いモンスターは再びアストに向き直りながら、今度は首を自身の右斜め前に持ってくる。 直後、黒いモンスターは凪ぎ払うようにブレスを放った。 先程の球状のそれではなく、放射状に何度も爆発するかのようにだ。 「!?」 アストは咄嗟に右側へ避けようと甲板を蹴った。 が、凪ぎ払うそれはアストを逃がさない。 アストの身体の左半分に、その爆発のようなブレスが襲いかかった。 「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」 熱いわけでもなく、冷たいわけでもない、純粋な物理的でない痛みがアストの肉体を破壊し、クックシリーズの、左のクックアームの一部が粉々に砕けた。 アストは吹き飛んだが、どうにか手摺を掴んで海に落とされることだけは避ける。 「アストッ!……ちぃっ!」 セージはアストの無事だけ確かめると、黒いモンスターをアストから遠ざけるように回り込み、攻撃を続ける。 ニーリンは船室からスロープを引っ張り出すと、ワルキューレとその船を繋ぐように敷いた。 すぐさまそれに乗り込み、隣の船に渡る。 要救助者二人はすぐに見つかった。 「やぁ、お姉さんが助けに来たぞ。立てるかね、お嬢さ、おっと少年か」 ニーリンはこの緊迫した状況でも余裕を見せている。 少年は激痛を堪えながらも、側にいる少女を担ぐ。 「こっ、こっちを先に頼むっ。俺は、自分で渡るっ……くぅっ……!」 「おいおい、無理は身体に毒だぞ少年?まぁ、そっちのお姫様を先に失礼するよ」 ニーリンは少年から少女を受け取ると、スロープを渡ってワルキューレの船室に入る。 少女を船室のマガレットの診療所に連れていく。 「おーいマカオンくん!急患一丁!」 「はっ、はい!」 急患と聞いて、マガレットは駆け足で出てくる。 ニーリンは診療所に入ると、少女をシートに寝かせる。 「もう一人急患がいる。頼むよ」 それだけ告げると、ニーリンは診療所を出て、またすぐに甲板に出る。
アストはまたも吹き飛び、メインマストに背中を叩き付けられる。 「かはっ…!」 足取りはおぼつかず、咳き込む度に吐血を繰り返す。 「くっそぉっ……こいつっ……」 アストはコマンドダガーを構え直す。 セージも必死に黒いモンスターを足止めしようとするが、まるで怯まない。 黒いモンスターがアストに止めを刺そうとブレスを放とうと上体を振り上げる。 その寸前、二つの鋼鉄の槍が黒いモンスターの前足に突き刺さる。 ワルキューレから、ニーリンがバリスタで援護射撃をしてくれている。 「グウゥゥゥゥッ……」 黒いモンスターは怨めしくワルキューレにいるニーリンを睨むと、その場から飛び立った。 その姿が水平線に消えていくところを見ると、諦めてくれたようだ。 「諦めてくれたかニャ」 セージは水平線を見送った。 不意に、船を揺れた。 バキバキと嫌な音を立てながら、船が沈んでいく。 「まずいっ、沈むニャッ!」 「なにっ……!?」 アストはコマンドダガーを納め、傾く船を見回す。 少しずつ、波が近付いてくる。 「ニーリンのスロープが届かなくニャるっ、急げニャ!」 セージは急いでスロープを渡ってワルキューレに脱出する。 しかし、アスト自身は酷く消耗しており、なおかつ、フルフルシリーズの少年もいる。 「よぉ、立てるか?」 アストは少年に問い掛ける。 「無理だ……俺はいいから、早く逃げてくれ……っ」 「言うと思ったよ。この自己中が」 アストは無理矢理少年を担ぎ上げた。意外なほど軽い。 「お、おい、何をっ…!?」 「あのなアンタ、死ぬって何か知ってるか?少なくとも、アンタが守ろうとしたあの女の子を悲しませると思うぜ?」 アストはそのままスロープに足を掛けて、渡ろうとする。 「……」 少年は何も言えなくなってしまった。その通りかもしれないからだ。 また不意に船が傾いた。 それと同時に、スロープが船から離されてしまった。 「あっ……!?」 当然、スロープに体重を任せていたアストと少年は振り落とされ、海面に落ちた。 「アルナイルくんっ!」 ニーリンが叫ぶが、もう海水が耳まで浸かってしまい、聞こえなくなってしまう。 アストは必死に少年を抱くように自分の方にしっかり寄せると、腕をかいて海面から顔を出そうとする。 だが、ワルキューレはどんどん遠ざかっていく。 波も激しくアストと少年を呑み込もうとする。 ここで溺れ死ぬのかな、と冷静にそんなことを考えた時だった。 突然、太いロープがアストと少年の右を通り過ぎた。 恐らく、ワルキューレの拘束用のバリスタ弾だ。 アストは空いている手でそのロープを掴む。 呼吸がしたくてたまらないが、必死に我慢する。 ロープは急激に回収され、アストと少年はワルキューレの甲板に引っ張り上げられる。 「うむ。水揚げされたのが水棲モンスターでなくて何よりだ」 ニーリンは水揚げされた二人を見て微笑んだ。 ふと、嵐が止み、暗い雲から蒼い空が顔を出した。 どうやら、通りすぎてくれたようだ。 嵐が明けると、何かが見えた。 それは、小さな島だった。
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