- 日時: 2014/04/28 22:38
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 4qTux5SA)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
四十四章 足掛かり
波打ち際で、アイルー達は釣りをしていた。 のんびりと、慌てたりすることもなければ、魚が逃げても悔しがることもしない。 「ニャ?」 アイルーは竿を構えたまま、その前方を見た。 大きな大きな、軍艦のように見えた。 先程の嵐で流着したのだろう。 「あらァ、流れてきたのかしらねェ」 座布団に座っている竜人の老婆は、何の警戒心もなく膝で転がっているアイルーを撫でていた。 ワルキューレは手頃な位置に接岸すると、そこで錨を下ろした。 ライラは機関を停止させ、船室に戻る。 「カトリア、いい?」 カトリアの馬車に声を掛ける。 しばらくして、カトリアは怯えていたように出てきた。先程からすぐそばにモンスターがいたのだ。今のカトリアにとってはそれは恐怖だろう。 「もう、大丈夫……?」 「ん、ひとまずはね。でもここ、多分シナト村じゃないね」 ライラに諭され、カトリアは馬車を出て、ライラと共に艦の外に出る。 そこは、穏やかな小波が砂浜を打ち続け、熱帯植物が群生していた。 「カトリアさんっ……、ライラさんっ……」 二人の後に続いてくるのはアスト。 フルフルシリーズの少年は、一旦ニーリンを通じてマガレットに任せてある。 その彼の声に気付いて振り返り……彼を見て絶句した。 「「!?」」 「ど……どうしたんですか……?」 ライラはそんなアストを怒鳴った。 「どうしたんですかじゃない!アンタどうしたのその顔っ!?」 そう、今のアストの顔色は、気味の悪い暗い紫色が浮かび上がっていた。 「ア……アストくんっ……?へ、平気、なの……?」 カトリアは両手で口を隠しながら、膝を笑わせて困惑する。 「あー……そう言えばあの鱗粉吸ってから、なんか身体が……っごはっ!ゲッホゲホッ!?」 突然、アストは首を押さえて激しく咳き込んだ。 その咳き込んだアストの口から、顔色と同じ色をした、紫色をした唾が飛び出した。 「なっ……?」 アストは自分の唾を見て驚愕する。 「とにかく来な!」 ライラはアストを引っ張ると、船室に入っていく。
診療所に訪れたライラとアストは、早速マガレットにアストの状態を診てもらう。 「………」 マガレットはアストの状態を診て、ひどく険しい顔つきになる。 「もしかすると、狂竜ウイルスかもしれません」 「狂竜ウイルス?」 マガレットの出した答に疑問を挙げるアスト。ライラもしかりだ。 「ちゃんとした文献はほとんどなくて、断片的な資料によるものなんですけど……」 マガレットは本棚から比較的新しそうな紙の束を取り出す。 一枚目には、あの黒いモンスターを模した絵が描かれてある。 マガレットはぺらぺらとページをめくり、あるページで止めた。 「ありました、これです」 アストはそれに目を通してみた。
黒蝕竜ゴア・マガラ 分類…不明 近年になって神出鬼没的に目撃されたモンスター。 翼から飛び散る鱗粉は、他の生物の身体機能に悪影響を及ぼしており、主に抵抗力や細胞の壊死などにつながっている。 これだけしか書いていなかった。 「黒蝕竜ゴア・マガラ……それがあいつの名、ゲホッ……」 アストは神妙に呟きながら咳き込んだ。 「アストさんはきっと、そのモンスターの鱗粉を吸い込んでしまったんですね。それで恐らく、症状が進行してしまって今のような状態になってるんだと思います」 マガレットは資料をしまう。 「今の段階では、情報が少なすぎます。でもアストさんの場合は、移動や食事には支障はなさそうですし、今は水分はちゃんと摂って、ゆっくり休めば症状は回復するはずです」 「とにかく休めってことか。……そうだ、マガレット」 アストは診療所の奥の、カーテンを見やる。 「あの二人はどうなんだ?」 「えぇ、酷いのは一部の外傷だけで、完治も早いと思います。今は落ち着いたのか、眠っています」 「そっか」 アストは安堵した。 二人とも重傷そうには見えたが、それほど酷いものではなかったらしい。 「ありがとな」 それだけ言うと、アストは診療所を後にした。
診療所を後にしてからは、自室に戻っていた。 アストは自分のクックシリーズや、コマンドダガーを見下ろす。 コマンドダガーは刃こぼれが激しく、クックシリーズはかなり損傷している。 「あいつは、強い……今のままじゃ、絶対に勝てない……っ!」 悔しさに歯噛みしながら、アストは装備を外して、ベッドに潜り込んだ。
カトリアはセージと共に、この小さな島、チコ村の村長と対面していた。 「初めまして村長、キャラバン『ミナーヴァ』の団長を務めています、カトリア・イレーネです」 「セージニャ」 カトリアとセージは村長の前でそれぞれ名乗る。 「はいはいィ、キャラバンねェ。そういえばァ、この辺で見ない黒いモンスターとか見なかったかしらァ?」 いきなり核心的な言葉が飛んできた。 カトリアは一瞬ビクリと身体を震わせた。恐怖がまだ拭えてないのだろう。 代わりにセージが答える。 「見なかったも何も、オレ達はついさっきそいつと一戦交えたところニャ。何か知っているのかニャ?」 チコ村の村長はセージに頷く。 「えェそうよォ。あなた、若いアイルーなのに感心ねェ。ウチの子たちにも見習わせてあげたいわァ」 村長はけらけらと笑った。 カトリアは本題に戻す。 「そ、村長。そのモンスターは……?」 カトリアの声に、村長はカトリアに向き直る。 「何だったかしらねェ、確かァ、黒蝕竜ゴア・マガラ、とか言ってたかしらねェ。ウチの子達が躍起になって話してるのをよく聞くわねェ」 「……村長、その話を詳しく頼むニャ」 セージは目付きを変えて村長と対面する。
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