- 日時: 2014/04/29 01:14
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: Uv402U3f)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
四十五章 ドッキリ?真夜中の衝撃
ミナーヴァは、それぞれの馬車をワルキューレから下ろし、展開する。 ここ、チコ村は意外にも狩り場が近く、そのため訪れるハンターも多いらしい。 バルバレほど人が行き交うわけではないにしろ、ナグリ村と同じような形で営業は出来る。 各馬車の展開が終わる頃には、もう日が沈んでいた。 「あらぁ、アストくんはどうしましたかぁ?」 ルピナスはたてがみマグロの煮物を運びながら、このキャラバン唯一の男がいないことに気を止める。 「アストさんでしたら、眠っていると思いますよ?休んでくださいって言ったの私ですし」 マガレットがそれに答える。 「そうですかぁ?ちょっと残念ですぅ、せっかくアストくんやぁ、ニーリンさんが助けたお二人の分も用意してたんですよぉ?」 ルピナスはちょっとだけ落ち込むような表情を見せたように見えたが、いつもの笑顔と大差ない。 その日の真夜中。 もうライラも寝ようかと思うほどの時間帯に、アストは起きてしまった。 昼間から眠っていたのだから、必然と言えば必然だが。 「んんっ、ほんとだ。もう治ってる」 マガレットの言っていた、狂竜ウイルスと言っただろうか。アストの身体に害を及ぼしていたそれは、すっかり消えてなくなっていた。 寝れば治るものだ。 アストは大きく背伸びすると、入浴しに私服と普通の下着を持って馬車を出る。 ミナーヴァにおける入浴場は、火を多用するルピナスの食事場と繋けて展開している。火を焚くための薪や張るための水も、ここからなら近いからだ。 幸い、まだ湯船は温いのかカーテンの向こうから湯気が立っている。一瞬、まだライラが入っているのかと思ったが、外と脱衣場を繋ぐ扉の鍵は掛かっていない。 波打ち際が近い村だ。夜は意外にも冷える。 アストは身震いしながら、早く入ろうと足を急かせる。 鍵は掛かっていないので誰もいないだろう。それに、この真夜中だ。 まさか誰かが入っていた、などとは、アストでなくとも思わないだろう。普通なら、だ。 鍵の掛かっていない扉を開けた。 「えっ……?」 「へっ?」 扉を開けたアストは、誰もいないはずの脱衣場に人がいたことにまず驚いた。 そして、その目の前の光景。 腰まで伸びた艶やかな長い黒髪、あまりに整いすぎた輪郭、カトリアとはまた違う色彩を放つ、深い青色の瞳、色白い肌、細く華奢な体躯、たおやかな丸みを帯びた胸元。 カトリアと同じか、それ以上の美少女だ。 その美少女が、タオル一枚で、そこにいるのだ。 つまりこの状況は…… 「きっ、きゃあぁぁぁぁぁっ!!」 「うっ、わっ、ごっ、めんっ!?」 アストは謝りながら目を閉じながら全力で駆けながら、脱衣場を飛び出した。 脱衣場を飛び出し、あまりの慌てように足がもつれ、砂浜を転がるアスト。 心臓は壊れるのではないかと思うほどの激しく波打ち、息が詰まる。 「なっ、なっ、なっ……何っ?つか、誰っ?何でっ?」 アストは後ろ目で脱衣場の扉を見やる。 すると、アストが飛び開けた扉の向こうから、ちゃんと服を着た美少女が出てくる。 とにかく何をするべきか?アストは迷わずに美少女の方へ戻る。 美少女は、覗かれたことの怒りではなく、むしろどうしたらいいか分からないような困惑の表情を見せている。 どちらにしろ、アストのやることは一つだ。 美少女の前までやってくると、思い切り頭を下げた。 「ごめんっ、ほんっとーにっ、ごめんっ!そのっ、言い訳だけどっ、脱衣場の鍵が掛かってなくて、こんな夜中だからと思ってっ……ごめんっ!」 アストはこれでもかと美少女の前で謝罪の言葉と態度を表す。言い訳がましからろうが何だろうが、とにかくだ。 「えっ、えーっと、その、私もごめんなさい。いきなり悲鳴上げたりして……」 「悪かったっ!わざととかじゃないからっ!何だったら今ここで殺してくれてもいいからっ!」 「わわ、お、落ち着いてってば。殺したりしないから」 アストが平謝り、美少女がそれを止めさせようとすること、五分。 ようやく落ち着いたのか、アストと美少女はまずはちゃんと向き合って話す。 「え、えーっと、俺はこのキャラバン、ミナーヴァのハンターやってる、アスト・アルナイルって言うんだけど……」 アストの方はどうしても気まずいのか、目を逸らしてしまう。 全裸ではないにしろ、半裸に近い女性の身体を見てしまったのだ。ギルドに通報すれば、それは立派な犯罪だ。 一方の美少女も、やはり気まずいのか、アストと目が合わせられない。 「わ、私は、ユリ。ユリ・アヤセ。あの、船の上でモンスターから守ってくれた人だよね?」 船の上と聞いて、アストはハッとなる。 フルフルシリーズの少年が守ろうとしていた美少女なのだ。 「あ、多分そうだけど……怪我は大丈夫なのか?」 そう、彼女、ユリはあのモンスター、ゴア・マガラに襲われたのか、怪我をしていたはずだ。 マガレットが治療したとはいえ、昼間眠ったから回復するものではないだろう。 「うーん、大丈夫じゃないけど、お風呂は入りたかったから……」 なるほど、どうやらアストとおなじく、夜中に起きて、入浴したかったらしい。 その結果が、あのハプニングだったわけだが。 「そういや、あの、君の彼氏?のハンターは?」 アストは突然そんなことを発言する。 ユリはそれを聞いて顔を真っ赤にする。 「えっ!?ち、違うよ、私とツバキくんはそんな関係じゃないからっ。ツバキくんなら、眠ってると思うよ。起きたのは私だけだから」 「あ、付き合ってるんじゃないんだ?」 「それはもういいからぁっ」 ユリはぶんぶんと頭を降って否定する。元がかなりの美少女なので、そういった仕草が余計にアストの心を揺さぶる。 それを紛らわせようと、アストは話を持ってくる。 「なぁ。俺、風呂入っていいかな?」 砂浜を転がったために、身体が砂まみれだ。こんな状態で自室に戻りたくはない。 「あ、いいと思うよ」 「そっか。怪我とか完治してないんだし、気を付けてな」 「うん。それじゃ、お休み……アストくん」 ユリはそう言って足早に立ち去った。 命の恩人とはいえ男。肌を見られてしまったことは少なからず恥ずかしかったのだろう。 アストは今だけは彼女を忘れようと思って、服を脱いで風呂に入る。 湯船に浸かっての最初に思ったこと。 この湯船、ついさっきまでユリが浸かっていたのだ。 それと同時に、見てしまったユリのたおやかな丸みを帯びた胸元が脳内に再生される。 「ダメだダメだダメだっ、煩悩退散煩悩退散煩悩……」 煩悩、つまりは性欲…… 「だーーーーーっ!!」 アストは思い切り湯船の中に顔を沈めて叫んだ。 これから入浴する際は、煩悩と戦わなくてはならないようだ。 |