- 日時: 2014/04/29 16:28
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: HDekbeQ8)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
四十六章 歌姫と可愛いナイト
翌朝。 洗顔を終えて、いつものようにルピナスの食事場に来たアスト。 だが、いつもよりやたらと賑やかになっていた。 「お姉さん、紅蓮鯛のごった煮もう一つお願いしますニャ!」 「マタタビ酒の追加お願いするニャ!」 「ニャニャニャニャニャニャー!」 ミナーヴァのメンバーだけでなく、チコ村の住人とも言えるアイルー達も集まっているのだ。このチコ村と繋がっている、ぽかぽか島のアイルー達もやってきてはルピナスに食事を頼んでいるのだ。 「はいはぁいぃ。しばらくお待ちくださいねぇ」 それだけでなく、余所者のアイルーであるセージにも興味を示しており、特にモンニャン隊のニャンターを相手に、セージは半ばうんざりしながら受け答えしていた。 「その装備はなんだニャ?カッケェニャッ!」 「オトモ歴は何年だニャ?」 「メスはいるのニャ?」 「交尾は経験したのニャ?」 「えぇいっ、一辺に質問するニャアァッ!」 怒鳴り散らすセージ。何となく珍しい光景だ。 アストはとりあえず席に着く。 「おはようございます、カトリアさん」 「おはよう、アストくん。もう大丈夫なの?」 昨日のアストは気味の悪い顔色をして、気味の悪い色をした唾を吐いたのだ。 カトリアはそれを心配しているようだ。 「はい。マガレットに診てもらったら、とにかく休んでくださいって言われて、一晩寝たらこの調子ですよ」 実はその一晩の間にあんなことがあったとは言えない。 それを聞いて、カトリアは安堵する。 「良かった。それと、昨日助けた二人の方はどうなの?」 その質問はマガレットが答える。 「診たところ、酷いのは一部の外傷だけでしたよ。もし起きていたら、何か食事を用意したいんですけど……」 そう言いながら、マガレットは自分の診療所を見やる。 それと同時に、その診療所の方から角笛のような音が聞こえてくる。 「あ、ナースコールです。ちょっと失礼しますね」 マガレットは席を立つと、診療所の方へ向かう。 どうやら角笛をナースコールの代わりにしているようだ。 少し待っていると、診療所から三人の人影が出てきた。 一人はマガレット、もう一人はユリ、最後にフルフルシリーズの少年がやってくる。今の彼は防具ではなく、マガレットが用意したのだろう、簡素な服を着ている。 怪我としては彼の方が酷いのか、左右からマガレットとユリに支えられている。 それを見てアストは席を立って三人の元に駆け寄る。 「代わるぞ」 アストはユリの手をどけると、代わりに自分が彼の支えになる。 「あぁ、悪いな……」 少年は申し訳なさそうにアストに顔を向ける。 アストとマガレットはとりあえず少年をアストの席に座らせる。ユリはマガレットの席にだ。 その二人を見て迎えるミナーヴァのメンバー達。 ふと、カトリアはユリの方に目を向けた。 「もしかして、ユリちゃん?」 意外にも、まだ名乗っていないのにカトリアがユリの名前を知っていた。 「あれ、そういうあなたは、カトリアさん?」 ユリもしかりだった。 「久しぶりね、ユリちゃん。ちょっと見ない内に、またこんなに可愛くなっちゃって」 「や、やだぁ、カトリアさんだって大人っぽくなってるじゃないですかぁ」 どうやら、カトリアとユリは互いに知っていたようだ。それも、仲のよい関係だ。 「ユリ、そっちの人とは知り合いなのか?」 少年はユリとカトリアを見比べながらユリに訊いてみる。 「そうだよ、ツバキくん。あ、それより助けてもらった人達に、お礼言わなくちゃ」 「それもそうか」 少年、ツバキと言うらしい彼は頷くと、ユリと一緒に全員が見渡せる位置で並ぶ。 最初にユリが名乗り出る。 「昨日は本当にありがとうございました。ユリ・アヤセです。『暁の奏姫(かなでひめ)』って言う芸名で、歌を歌わせてもらってます」 ユリのその『暁の奏姫』を聞いて、アストとカトリアを除く、ミナーヴァのメンバーがざわついた。 「『暁の奏姫』って言ったら……」 「……弱冠十四歳で大陸一の歌姫になった、とは聞いています」 「あらぁ、そんなに有名人なんですねぇ」 ライラ、エリス、ルピナスは口々にその噂を口にする。 シオンは、というと…… 「サインくださいっ!」 どこから出したのか、色紙とインクのついたペンをユリに差し出している。 ユリはシオンに戸惑いながらも、色紙にペンを踊らせる。 「わはーっ、直筆のサインですよーっ!ヤバレアものですよーっ!」 シオンはその色紙を受け取ると、おおはしゃぎ。 アストは内心で感心するようにため息をついた。 (歌姫かぁ、どうりでこんなに可愛いわけだ……) そんな超有名人の半裸を見てしまったアストは、ある意味直筆のサインなどより貴重な物を見てしまったようなものだ。 続いて、ツバキと言うらしい少年が名乗る。 「彼女、ユリの護衛を任されている、ツバキ・セルジュです。昨日は本当に助かりました。俺からも、礼を言わせてください」 なるほど、ツバキはユリのボディーガードのようなハンターらしい。自分よりもユリを優先させようとしていたのも分かる。ボディーガードと言っても、ツバキが中性的な容姿であるために、護衛と言うよりは、姫とそのナイトのような感じだ。 そこから、ミナーヴァのメンバー達各自己紹介を終えてから、ツバキが話を持ってくる。 「俺とユリはギルドを通じて活動していて、この間ギルドの方から慰霊を頼まれていたんです。その航路で、あの黒いモンスターと出会してしまった。ユリにも怪我をさせてしまって、もうダメかと思った時に、あなた達ミナーヴァに助けてもらった。感謝しきれないんだが、問題が増えてしまったんです」 「問題が?」 カトリアがツバキの言葉をオウム返しに訊く。 「スポンサーが用意してくれた船や人を無くしてしまったんです。あの黒いモンスターによって。このままだと、俺とユリは帰るための方法も得られず、路頭に迷うことになる。そこで、厚かましいことは承知でお願いしたいことがあります……」 「私達のキャラバンに保護してほしい、かな?」 ツバキの頼みを先に答えるカトリア。 「私とユリちゃんの仲だもの、断る理由はないから。むしろ、ユリちゃんと一緒に旅が出来るって思うと、ちょっと楽しみだったから」 カトリアはユリとツバキを見比べる。 「もちろん、ツバキくんも保護の対象だよ。だから、安心してくれて構わないからね?」 ツバキはカトリアの顔を一度見ると、深く頭を下げた。 「かたじけない……では、ご厚意に甘えさせてもらいます」 「いいよいいよ、そんなに固くならなくても。普通でいいから」 カトリアはツバキの顔を上げさせる。 どうやら、またもミナーヴァにメンバーが増えるようだ。
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