- 日時: 2014/04/19 19:30
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: hDqQOsOW)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
三十四章 一時帰還
ドスゲネポスの狩猟には成功したアスト達は、依頼そのものの達成と、ネルスキュラの出現をエリスと村長に報告した。 「……そう、ですか……あぁ、でも無事で……」 こうしてアストとセージとカトリアは帰還してきたのだ。ニーリンは巻き込まれただけだが。 普通なら無事を喜びたいのだろうか、村長はそれとは反して深刻そうな顔をする。 「ネルスキュラかぃ……」 「どうなされたニャ、村長」 セージは村長の深刻そうな表情の真意を問い掛けた。 「いやぁ、ちぃと前に似たようなことがあってよぉ。マグマが沈静化してる時の地底洞窟に、よくネルスキュラが出てくるんだけどよぉ、そのネルスキュラがマグマの活性化の季節の直前に、棲みやすいように糸で溶岩の流れを止めちまうっつうことがあんだよ。そうなっちまうと熱量の高い鉱物が採れねぇからよぉ、アンタらが造って欲しいって船も作れねぇんだ」 つまり、このままネルスキュラを地底洞窟に放置しているとネルスキュラが巣を作るために溶岩の流れを止めてしまい、紅蓮石や獄炎石と言ったより熱量の高い鉱物が採れず、ミナーヴァの目的である造船が進まないままなのである。 「それだけじゃないですよっ。商隊だって動けないし、色んな所で問題が出てくる!」 そこでアストが声を強くする。 「落ち着けと言っているだろう、少年」 ニーリンが躍起になるアストをたしなめる。 「俺は少年って名前じゃないですよっ、アスト・アルナイルってフルネームがあるんですっ!」 「おぉ、失礼した。アルナイルくん」 憤りをぶつけてくるアストを涼しい顔でスルーすると、ニーリンは村長に向き直る。 「私の方が申し遅れた、村長。ニーリン・ガーネットと申す。旅の途中、偶然の内に彼らの手助けをしたところだ」 「おぅ。しかしアンタと言い、アストと言い、最近のハンターは若もんばっかだなぁ」 若者? アストはふとニーリンを指す村長の言葉に耳を寄せた。 ニーリンは確かに若い。と言っても二十代前半と後半の境目くらいだろうか。 アストはためしに訊いてみた。 「ニーリンさんって、何歳なんですか?」 アストの言葉にニーリンは振り向く。 「ん?まぁ、今は17、今年で18だな」 「えっ……?俺より、一つだけ上!?」 アストは酷く驚愕した。 もっと離れていると思い込んでいたが、意外にも歳の差は一つしかなかった。 だとしても、アストとニーリンとでは、身長や装備の質もあるが、ニーリンの方が圧倒的に大人っぽく見える。 むしろ、彼女より年上のカトリアよりもだ。 「どうした?年齢など大した問題でもあるまい?」 「いや、まぁそうなんですけど……」 そう、ヒトの本質は年齢や見た目ではなく、内面や結果だ。 しかし第一印象というのもまた大切になる時もある。 それも、装備の質で実力を測られるハンターという職業ではなおさらだ。 「まぁ、とにかくだな。アルナイルくん達は休んだ方がいい。特に、アルナイルくんはネルスキュラの鋏角を喰らっている。毒などに詳しい者に診てもらえるなら吉だ」 「あ、そうか……」 アストはカトリアを庇って、ネルスキュラの毒の牙、鋏角と言っただろうか、それを直撃したのだ。クックシリーズも損傷しているのだ。 今は装備をライラに整備してもらい、毒などに詳しい者……マガレットがそうだろうか。彼女に相談してみた方がいいのだろう。 それに、カトリアのこともある。 そのカトリアは今、先程からずっとアストのクックシリーズを掴んでいた。 「あの、カトリアさん?もう村の中ですから、怖くないですよ?」 「…………」 カトリアは涙目でアストを上目遣いで見上げる。 「……」 そんな顔を見せられて何か物言いをする男がいるだろうか。 アストは諦めてカトリアを引き摺りながら、彼女を寝室用の馬車へ連れていく。 よほど怖かったのだろう。 セージはカトリアについて何も話さず、カトリアはこうしてアストにくっついているばかりだ。 故にアストはただ黙ってカトリアにくっつかれているしかなかった。
アストはマガレットの元に訪れていた。 マガレットの診療所の馬車も作られる予定だが、まだ日が浅く作られていないため、屋根と簡単な床を即興で作った質素なものだ。 「はい、口を大きく開けてください」 「ぁー……」 マガレットはアストの口内を覗きこみ、どこか異変がないか凝視する。 口内を見終えると、脈も確かめてみる。 「うん、大丈夫ですよ。ニーリンさんでしたっけ、その人の漢方薬はしっかり効いてますよ」 マガレットは頷くと、アストを解放する。 「ん、つまり異常なしってこと?」 「はい。毒に侵されてから、中和が不完全である場合は喉が腫れていたり、脈が正常じゃない時もあります。アストさん、今頭痛とかしませんよね?」 「まぁ、してないかな。ネルスキュラの毒を喰らって間もない時は、すっげぇ頭痛くて吐きそうだったけど」 アストは唾を飲み込んだ。 ネルスキュラのあの鋏角による攻撃は脅威だ。 解毒薬がなかったのは迂闊だった。 「でも、ハンターって人は本当に凄いんですね」 ふと、マガレットは姿勢をアストに向ける。 「鍛えてるって言うのもあるかもしれませんけど、身体機能の治癒力が普通の人とは桁違いですし、モンスターが分泌するような毒って、普通の人なら数秒もしない内に死に至るんですよ?それを何分も耐えれるし、人によっては自力で毒を中和する人もいますし」 「そ、そうなんだ?」 マガレットが今までハンターも診てきた経験だろう。 「私、小さい頃は身体が弱かったんですよ。その度にお医者様が力を尽くしてくれて、それを見るたびに私もこんな人になってみたい、うぅん、なるって思ってたんです」 嬉々として、夢を見る子供のように語るマガレット。 「それで頑張ってたら、今こうしてアストさんを診てるんです」 アストはただ黙って聞いていただけだったが、その内心は感心していた。 「マガレットはすごいな。医者なんて職業、なりたいだけでなれるもんでもないのに、小さい頃の夢を現実に出来たんだな」 「えへ、ちょっとだけ照れます」 マガレットはほんの少し頬を赤らめる。 まだ日は浅いかもしれないが、マガレットもミナーヴァの一員としてこうして頑張っている。 ハンターと医者、直接比べられることではないにしろ、アストはマガレットの姿を見て「負けられないな」と思うのだった。
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