- 日時: 2014/06/19 16:17
- 名前: 片手拳 ◆EBwplS/Cbs (ID: awRhgtfW)
〜第二十二話「地図に載らない街」〜
飛行船が少しずつ降下していっているらしい。
「そろそろ着きますよ、準備して下さい」 ナィが私に準備を促す。
私は食べかけだったパンの残りを一気に口に放り込み、水筒の水を流し込んだ。
「食べてないで、早く!」 「そんなに急かさないで下さい〜。腹が減っては戦はできぬ、って言いますよね?」 「……まあ、それもそうだが」
などという話をしていたら、荷車が止まった。 「着きましたね」 ナィが頷く。
飛行船を降りると、潮の匂いがした。 目の前には、白い砂浜と、青く澄んだ大海原が広がっている。 ここに来るのは初めてだが、どこか私の生まれ育った村と似た雰囲気だ。実に懐かしい。 私は大きく深呼吸をした。 「ふぅぅぅぅ……」
「ここに臨時の港があるんだそうだ。フォンロンと貿易をやっているらしい」 フォンロンというのは、今回の上位昇格試験の相手、幻獣キリンの棲むといわれる大陸。 中でも、塔と呼ばれるエリアで多く目撃されているらしい。
「限定10冊!『狩人に生きる』最新刊が入荷しました!」 「ヘイ、ニャっしゃい!ニャっしゃい!新鮮な魚はいかが!」 振り返ると、そこには活気溢れる市場が。 人間、竜人、獣人など、様々な種族が商売をしている。
ここは、地図に載らない街、バルバレ。 数年に一度、街が丸ごと移動するのだそうだ。 この街がかつて遺跡平原と大砂漠との境目にあった頃、活躍していたといわれるキャラバン『我らの団』は知らない人はいないほど有名だ。 今でも、かつてこのキャラバンに在籍していた武具職人の竜人は現役なのだとか。
因みに、現在のバルバレは大砂漠に位置しているが、当時の反対側、海沿いにある。 そして、当時のバルバレのあった位置の少し内陸側にあるのが、現在のスぺリナだ。
まあ、説明はこの程度にして……、と。
「船の出航は明日ですよね。今日、どこに泊まるんですか?」 私はナィに質問した。 「あの宿なんてどうだ?」 ナィは少し先に見える看板を指差した。
『一泊10z 二人一部屋、食事なし、風呂・トイレあり』
「……」 私は絶句した。 「ナナミ、どうした?」
「あのねぇ……、まさか、一緒の部屋に泊まるって訳じゃないよね……」 「……?」 ナィは首を傾げた。 (……素で言ってるのかな?)
ナィの顎に私の渾身の右フックが炸裂した。 「……ぐはっ!ちょ、何すんだ!」
どうやらナィは素で分かっていないようなので……。 「女の子と知り合った初日に同じ部屋で寝ようなんて、ナィさん、どんな神経してるんですか……!」
「そういえばそうだな、じゃ、二部屋でいいか。金は十分あるし」
ふう、助かった。 ナィがその気でなくても、大問題だ。私は、他人の気配がすると、よく眠れない体質なのだ。 訓練所の初日に、宿舎のドアの鍵を掛け忘れ、寝ている間に、同期の変態に服を剥がれ、全身を撫で回されて以来である。 ……ちなみにその変態は寝ぼけた私の左ストレートを喰らって歯が数本折れ、ハンターになるのを諦めた、と聞いている。
因みに、ハンターになるのに歯はかなり大事だ。 歯が悪いと、歯を食いしばれないので、力が歯の正常な人に比べて出ないのだとか。
まあ、そんな事はどうでもいい。 とりあえず、今夜の宿が見つかったのだ。それを喜ぼう。
〜第二十三話につづく〜 |