- 日時: 2014/05/05 14:13
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: cO738JC6)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
四十九章 安らぎの一時
ワルキューレがチコ村より出航して、一晩が明ける。 ここからバルバレ周辺の港へは遠回りになるため、三日を要する。 その三日間でも、アストは己を休めたりしなかった。 その手には剣と盾を持ち、一心不乱に振るっていた。 それは、いつもの片手剣ではなく、チャージアックス、精鋭隊討伐盾斧だ。 「もっと肩を使えニャ、足腰もしっかり踏み込まんと、重量に身体を持っていかれるニャ」 チャージアックスの使用を指導するセージと、精鋭隊討伐盾斧を振るうアスト。 ゴア・マガラとの戦いは近い。 それまでに、少しでもチャージアックスという武器を身体に覚えさせなくてはならないのだ。 「今はモンスターを相手に出来んがニャ、本番はチャージによるアックスモードも使うんだニャ。せめてソードモードだけでも完璧になれニャ」 「おう!」 「精が出るな、アスト」 それを遠くから見ているのはツバキ。 それに触発されてか、彼とは反対側の甲板で斬破刀を素振りする。 「ふっ……はっ……!」 アストの荒々しい素振りとは対照的に、ツバキの太刀筋はあくまで滑らかでしなやかだ。 太刀という武器は大剣と似た武器ではあるものの、大剣は質量を活かして叩き潰すような斬撃に対して、太刀は研ぎ澄まされた刃による斬り裂くような斬撃を持つ。 繊細な武器であるが故にその重量は軽く、素早く立ち回ることが出来るのも太刀の長所のひとつだ。
「二人とも、頑張ってますね」 「そうですねぇ。お邪魔するのも何ですしぃ、ここでいただきましょうかぁ」 「……お腹空きました」 ユリ、ルピナス、エリスの三人は訓練をするアストとセージ、ツバキを見守っていた。 今日の昼食は、ココットライスによるおにぎりだ。 カトリアは今後の予定のために、ライラはアストのためのチャージアックスを作っており、シオンはユリとツバキのために必要な費用を算段し、ニーリンはライラの代わりに操舵に移っており、マガレットは診療所で待機している。 見守るように甲板に座る三人。 だが、セージがそれに気付いてかアストを制止させ、ツバキにも呼び掛けると、揃ってやってきた。 「昼食ですか?ルピナスさん」 アストはその皿に並んだおにぎりを見ながらルピナスに訊く。 「はいぃ。一緒に食べようと思ってたんですよぉ。さぁ、座ってくださぁい」 ルピナスにそう言われて、アストとツバキとセージもルピナスからウェットペーパーを受けとり、手を拭く。 五人と一匹が円状に座ると、ルピナスは手を合わせる。 「ではぁ、今日も農村の方々の頑張りを感謝しながらぁ……」 「「「「「「「いただきます」」」」ニャ」 皆一斉におにぎりを手に取り、頬張っていく。 美味しいかどうかなど、言うまでもない。皆の美味しそうな頬を見ればわかる。 時折お茶を淹れながらも、おにぎりはあっという間になくなった。 「ふー、ごちそうさんでした」 アストは満腹そうに一息つく。 「ルピナスさんのご飯って、本当に美味しいですよね」 ユリは丁寧に口の回りを拭く。 「あらぁ、ありがとうございますぅ」 ルピナスは変わらずにニコニコと答える。 セージは立ち上がるとアストに向き直る。 「続きはまた夕方からニャ。それまでに休んでおけニャ」 「あぁ。頼むぜ、教官」 「お前の教官になった覚えはニャいがニャ」 いつもの軽口のやり取りを終えると、セージは船室へ入っていく。 その後ろ姿を見送ると、ツバキもアストに向き直った。 「お前も大変だな、アスト」 「まぁな。でも、少しでも皆のために頑張らないといけないからな」 アストはウェットペーパーをもう一枚もらい、顔の汗を拭き取る。 「さって、ちょっと昼寝でもするかな」 アストは立ち去るために立ち上がろうとする。 「あらぁ、お昼寝ですかぁ?」 ルピナスに引き留められる。 「でしたらぁ、ここで皆一緒にお昼寝しませんかぁ?」 「えっ……?」 それはつまり互いに無防備な姿を晒すわけで。 「いいですね。今日は暖かいですし、私はいいですよ?」 ユリはそれは名案だとばかり頷く。正気か? 「……私も賛成です」 エリスまで。 ツバキは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに元の表情になる。 「ユリがいいなら……その前にアスト」 アストに目を向けるツバキ。何を言いたいかは露骨に目が言っている。 「ユリに手を出したらぶっ殺す」と。 アストはその殺意の混じった薄紫色の瞳に一瞬すくむ。 「大丈夫ですよぉ、ツバキくん。アストくんならぁ……」 ルピナスは微笑むと、アストを手招きする。 それに近づくと、不意に肩を掴み、アストの背中を自分の前に持ってくると、頭を下ろしてくる。 この形は、『膝枕』だ。 「私がぁ、こうして押さえておきますからぁ」 「あの、ルピナスさん……?」 アストは頭をルピナスの膝に乗せられて戸惑っている。 これはこれで嬉しいが、恥ずかしい。 「あ、いいなぁ。ルピナスさんのお膝。私も入っていい?」 「「なっ!?」」 ユリの爆弾発言。 「……羨ましいです……わ、私も……」 エリスもどこかモジモジしながら近寄ってくる。 この状況は美味……ではなく、危険だと感じたアストは逃げようとする。 が、ルピナスにしっかり止められてしまう。 「どこに行くんですかぁ、アストくぅん?」 ルピナスはニコニコしながらアストの頭を元の位置に戻す。 理性に困難な戦いを強いるしかなさそうだ。 「ユッ、ユリッ!」 ツバキはあくまでユリを止めようとするが、もうユリはアストの右隣、ルピナスの右膝の半分に頭を置いている。 エリスも負けじと(?)アストの左隣、ルピナスの左膝の半分に頭を置く。 多少の上下はあるが、一人の膝に三人横になっている。 「ツバキくんもどうぞぉ?」 「おっ、俺もですかっ?」 「もちろんですよぉ。あと一人くらいなら大丈夫ですよぉ」 「いやっ、でも……」 ツバキは一瞬思考をフル活動させ、すぐに止めた。 「わ、分かりました……」 そう言うと、ツバキはそっと入ってくる。 「お前もかよッ!?」 アストは酷く驚く。 「仕方ないだろ、ルピナスさんが入ってって言うし……」 そっと、ツバキはアストとユリの間に入ってくる。 「それではぁ、おや…すぅ……」 ルピナスは即行で眠ってしまった。 アストは諦めてこの状態で昼寝することにした。 ふと、いい匂いが鼻をくすぐる。 (ユリ、じゃないな。エリスも違う……) では、ルピナスかと思うが、もっと近くからだ。 (ツバキ、か?でも、なんで女の子が使うような香水を……?) アストが悩む内に、ふと眠りに落ちてしまう。
そこは、とても可愛らしく、羨ましい光景が広がっていた。 |