- 日時: 2014/06/19 16:18
- 名前: 片手拳 ◆EBwplS/Cbs (ID: awRhgtfW)
〜第二十三話「新たな戦友」〜
私は蛇口を捻った。
「み、水!?」 蛇口からはキンキンに冷えた水が流れ出た。 (てっきり浴場にあるからお湯が出るかと思った……) しょうがないので水で髪を洗う。冷たいせいか、石鹸がまるで泡立たない。
宿の浴室はかなり広い。 ……が、ここには私以外誰も居ない。
「水風呂かよ、おい!」 壁の向こう側からは少年たちがドタバタと大騒ぎしているのが聞こえる。 男湯は大盛況らしい。
……向こう側も水しか出ないらしい。
泡立たない石鹸で無理やり身体を洗う。 削れた石鹸のカスが身体に付き、かえって逆効果のような気がしてきた。 (……しょうがないなあ) 私は浴槽の水を桶で汲み上げ、頭から被った。 「ひゃっ!」 氷でも入れたかのような冷たさだ。多分、顔を洗うにはちょうどいい。
私は冷たすぎて浴槽に浸かる気になれなかったので、すぐに浴室を出て、持参の寝間着に着替えると、部屋に入った。
部屋には、安物のベッドが二つ並べられている。 片方のベッドのシーツは大きく盛り上がっており、わずかに膨らんだり縮んだりを繰り返している。 (何かいる……?) まさか変態だろうか、いや、そんなハズはない。鍵はしっかりと掛けて出た。
私はシーツを鷲掴みにすると、思い切り力をこめてめくりあげた。 「……ニャ!?」 「……えっ!?」 そこには黒毛の獣人、メラルーが丸くなっていた。 頭には、先程浴室で私が脱いだインナーの上半身部を被っている。
「この変態猫! 覚悟しろぉぉぉ!」 私はメラルーの首筋を掴み、激しく振り回した。 「二ギャアアアアアッ!止めてくださいニャア!」 メラルーは悲痛な叫び声をあげながら抵抗する。 「そのインナーを浴室の入り口に落としてたから、拾ってきただけなのですニャ〜!」 「……え?そうだったの?」 私は真面目に問い返した。
「そうですニャ。わたくし、女物の下着を盗むような変な趣味してませんニャ」 表情を見る限り、どうやら本当みたいだ。目の奥には恐怖さえ浮かんでいる。
「……勘違いして振り回したりしてごめんなさい。お詫びにマタタビでも」 私はアイテムポーチを取りに行こうとした。
「……マタタビも欲しいけど、わたくし、それよりも、仕事が欲しいのですニャ。どうか、あなた様のオトモにしてくださいませんかニャ?」 オトモを雇う場合、給料、食事代などはハンターの負担になる。 「はぁ……。給料払えるほどお金に余裕ないから、給料無しの三食だけでもいい?」 メラルーは頷く。 「喜んで!わたくし、一度でいいから、オトモとして狩りに出てみたかったのですニャ!!」
こういう場合は自己紹介から。 「わたくし、サクラと申しますニャ。トレンドは見た目通り、ぶんどりですニャ」 「ナナミです、宜しくお願いします」
「それじゃ、サクラ。今日はもう寝ようか、明日出発だから」 「お休みニャア」
一人と一匹は静かに眠りについた。
〜第二十四話につづく〜
p.s.二十二話のタイトルを変更しました。 旧「上位昇格試験編・地図に載らない街・前編」→新「上位昇格試験編・地図に載らない街」 |