Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!二代目!( No.316 )
  • 日時: 2014/05/07 14:27
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: uMblYCex)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 五十章 迫る刻

 バルバレ付近の港にワルキューレを停泊させ、ミナーヴァ一行は徒歩に切り換える。
 ここからバルバレは丸一日。
 その道中、アストはマガレットと話し込んでいた。
「マガレット?これは?」
「吉報というか、新しい情報です」
「新しい情報?」
 マガレットは紙の束をアストに見せる。
「さっき、エリスちゃんからゴア・マガラに関する資料を貸してもらいました。それで分かったことが増えました」
「本当か?」
 何せ、交戦経験があるとはいえまだまだ情報は少ないのだ。何かひとつでも知れるなら知った方がいい。
 マガレットは説明を始める。
「狂竜ウィルスなんですけど、感染してしまってもその対象に攻撃を与え続けることで、そのウィルスの抗体を急速に作り上げて克復することが出来るらしいです。詳しい理論は分かりませんが、これは有力だと思います」
「攻撃を与え続ける、か。えらい具体的な話だな。調査隊とか討伐隊の経験なのか?」
「はい。何人も似たような状態になったと記述されてるので、間違いはない、とは言い切れませんが九割方正解だと」
 間違いはないと言い切れないのは、医者としての限界だろう。どんな症状に対しても、似ていても実は違っている場合がある。そういった面を言っているのだ。
「それと、感染してから克復するまでですけど、ウチケシの実を摂取することで発症を遅延させることが出来るようです。完全に回復は出来ませんが、克復するまでの時間稼ぎくらいのものです」
「ウチケシの実で発症を遅らせる、か。そっちの方が分かりやすいっちゃ分かりやすいかな」
「ごめんなさい、どちらも確証がないので言い切ることが出来ません」
 マガレットは申し訳なく答える。
「いや、よくこれだけ調べられたな。これは貴重な情報だよ。これで少しは希望が見えてきた。ありがとう、マガレット」
 アストは大きく頷く。
 何もないに等しい状態だったさっきとは雲泥の差だ。
 純粋にマガレットに感謝するアスト。
 また少し、希望が見えてきた。

 その日の夜。
 馬車を停めて、皆眠っている。
 寝ずの番はニーリンが担当している。
「眠れないな……」
 緊張しているのか、神経が高ぶって眠れない。
 出発は明朝なので、後数時間もすれば起きなくてはならない。
 気晴らしに散歩にでも出るか、とアストは外に出た。
 外に出ると、夜風が涼しい。
 どこと言わず、アストは歩き出した。
 ふと、正面からツバキと目が合った。
「よ、ツバキも眠れないのか?」
「アスト。まぁそんなとこだな」
「暇だし、話ながら歩こうぜ」
「構わないよ」
 アストとツバキは並んで歩く。
 こうしてツバキと二人でいると言うのも初めてだ。
「なぁ、ツバキ。ツバキって、何でユリ護衛のハンターになったんだ?」
 アストは話を振ってくる。
 ツバキは一思案してから答えた。
「俺とユリは、幼馴染みなんだ。ユリは家族から、これまでにはなかった歌姫としての才能を見出だされて、幼い頃から各地を転々としていた。アヤセ家とセルジュ家は元々親密な関係でね。ユリとの遊び相手が俺だったのさ」
「幼馴染みかぁ、だから護衛だなんだ言っても上下がないんだな」
「まぁな。で、ユリは瞬く間に大陸中に注目される歌姫になっていった。そんなユリを政治のカードにするとか、身柄を悪用する連中も出てきて、モンスターだって無視できない中でゴタゴタに巻き込まれる毎日だったよ。だから俺は決めたんだよ。「ハンターになって、ユリを守る」って」
 ツバキは拳を握った。
「ユリに手を出す連中は皆俺がねじ伏せてやるつもりだったよ。でも、そんな甘い考えは通らなかった。ユリに手を出すのは政治家とか犯罪者だけじゃなかったよ。ユリを娼婦みたいに見てるゲスみたいな男全員だ。中にはハンターだっている。おかげで、ユリは何度も侵されかけたんだ。だから、ユリは本当は男を怖がっているんだ」
 ツバキの口から語れる、ユリの過去。
「え?じゃあ、ユリは何で俺に心を許したりしてるんだ?」
 ユリとアストは少し前まで顔も知らない仲だったのだ。そもそも、ユリの半裸を見てしまった時点でユリはアストを拒絶してもおかしくなかった。
 それに対して、ツバキは呆れたように答えた。
「ユリはな、おとぎ話みたいな王子様に憧れてんだよ。白馬に乗ったナイトみたいなのにな。あの船の上でミナーヴァに助けてもらった時だよ。それがどうも、理想の王子様とだぶったみたいでな」
「それが俺ってこと?」
 アストの言葉にツバキは頷く。
「正直言うとなアスト、俺は最初、お前を信じてなかったよ。男だからって理由でな。でも、ユリとかカトリアさんへの態度を見て分かったよ。お前なら信じてもいいかなって」
「ツバキ……」
「もし何かあったら、ユリのこと頼むな」
 それだけ言うと、ツバキは立ち去ろうとする。
 アストはその背中を見て引き留める。
「待てよツバキッ。その、ユリの理想の王子様が俺なら、お前はユリの何なんだ?」
 ツバキは足を止めて、アストを一瞥する。
「……俺は、『嘘つき』なんだ。『嘘つき』がユリを守るなんて、ちゃんちゃらおかしい話だったんだよ」
 ツバキは駆け出した。
 アストはただ黙ってその背中を見送るしか出来なかった。
「何だよ、『嘘つき』って……?」
 そのツバキの『嘘つき』を反芻するアスト。
 ツバキは、何が『嘘つき』なのだろうか?
 ユリを守りたいと言う気持ちは本物ではなかったと言うのだろうか?
 それとも、アストに何か嘘を言っているのだろうか?
 どれだけ考えても何も分からなかった。