Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!二代目!( No.394 )
  • 日時: 2014/05/17 19:09
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: nwWlg9c3)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 五十五章 苦悩、葛藤、決意

 ツバキは腕で胸を隠して再びアストに背中を向ける。
「あ、あんまり見るなっ……!」
 アストも慌てて彼、いや、彼女に背中を向けた。
「ご、ごめんっ」
 ツバキは白い包帯のようなもの、サラシを掴んで胸に巻き直す。
 ニーリンはそのツバキの様子を見て、溜め息をつく。
「まさかとは思ったが、こういうことだったとはな。……セルジュくん、なぜ女を捨ててまでこんな真似をしていたのだ?」
 サラシを巻き終えたのか、ツバキは向き直る。
 その前にセージが止めに入る。
「仮にもここは狩り場ニャ。積もる話ならベースキャンプまで戻るニャ」
 セージの全うな意見で、狩人達はベースキャンプへ帰還していく。

「こうなった以上、今更隠さないよ。全部話す」
 ベースキャンプに帰還し、一息ついてからツバキはアスト、ニーリン、セージと向き合う。
「まず最初にアスト。悪かったな、男じゃなくて女でさ」
「いや、悪いとは言ってないけど……」
 アストは戸惑いがちに答える。無理もないだろう。ついさっきまで男だと思っていた者が実は女だったと言うのだ。
「俺はユリの護衛のために、ハンターになった。そこまではアストも知ってるよな。で、なんで女を捨てて男らしく振る舞うようになったか、だ」
 ツバキはうつむきがちに話し始める。
「ニーリンさんとかは別かも知れないけどさ、女って男と比べられたら、どうしても下に見られるんだよ。特に、ハンターなんて肉体的な差が出てくる職業なら尚更さ」
 一昔前の世の中には男尊女卑という暗黙のしきたりがあった。
 男が尊いとされ、女は虐げられるというものであり、男女平等の今となっては考えにくい話だ。
 たとえ大衆がそうでなくとも、一部の村や街ではそういった風習が今なお続いている所もある。
 ツバキそんな風当たりの中で、ユリを守ってきたのだ。
「女でいたら、侮られる。そう思った俺は、一人称を「私」から「俺」に変えた。今となっては、こっちの方が自然になったけどさ。それと……」
 ツバキはサラシで無理矢理押さえ付けている自分の女としての胸を手でさらに押さえ付ける。
「胸だって邪魔だった。だからサラシなんかで押さえ付けてる。苦痛でしかないけど、ユリのためなら俺の身体なんてどうでもいいと思った。幼馴染みのために本来の自分を捨てるなんて馬鹿げてる、とでも思ってくれ」
 ツバキは自嘲した。
 彼女がどんな過酷な過去を味わってきたかなど、アスト達では想像もつかない。
 だが、それを聞いてアストの中で沸々と憤りがたぎっていた。
「何でだよ!?」
 アストはツバキに向かって声を張り上げた。
「何でそこまでして、自分を殺し続けるんだよっ!?そんなの、辛いだけじゃないかっ!」
 我慢出来なくなってアストは感情をぶちまける。
「まだ出会ってからそんなに経ってないけどっ、俺達は仲間だろっ!?辛いなんて言っても、誰もバカにしたりしないだろっ!?何で、何で……!?」
「それしかまともな道が無かったのさ」
 ツバキは冷たく答えた。
「何かを守るためには、何かを犠牲にしなくちゃいけない。ちょっと我慢するだけで、色んなモノが守れたし、手に入った。譲り合いの精神だよ」
「違うっ、ツバキのそれは間違ってるっ!犠牲をしなきゃ守れないモノなんてあるもんかっ!何でお前だけが傷付かないといけないんだよっ!」
 アストはツバキに詰め寄った。
「男だの女だのに拘って、バカじゃねぇのかっ!?そんなこと続けて、ユリは本当に喜んでるのかよっ!」
 ユリは本当に喜んでるのか。
 彼女のことを話に入れられてか、ツバキはカッとなった。
 アストのスキュラメイルの胸ぐらに掴みかかり、喧嘩腰に相対する。
「男のお前に何が分かる!?「私」だって、男に生まれてればこんなことしなくて済んだんだ!何も知らないくせに、気安くユリに触れるな!」
 ツバキは唾を撒き散らしながらアストに激情を露にする。こんな彼女は初めて見る。
「……」
 だが、アストはそんなことは気にしていない。
「何だよ、何か言えよ!「私」の何が間違っているんだ!?答えろ!」
「分かったんだよ」
 アストはツバキの腕を優しく掴んで胸ぐらから離す。
「ツバキ。今お前、「私」って自分で言ったじゃないか。じゃあやっぱり、お前まだ自分が女であること捨てれてないじゃないか」
「そうだよ!「私」は腐っても女だ!どうしようもないんだよ!」
 アストの表情は、怒りから優しい微笑みに変わっていた。
「言ったろ?無理するなよって。一人でユリを守るのが辛いならさ、俺も一緒にユリを守るよ。そしたら、ツバキの負担も減るし、ユリだって守れるだろ?」
「なっ……!?」
 ツバキはアストの優しい言葉に激しく動揺した。
「俺か?俺はユリもツバキも守りたいからこんなこと言ってるんだよ。何も無理なんかしてないぞ?」
「!?」
 そんなことを臆面もなく言い放つアストを前に、ツバキは顔を真っ赤にして慌てるが、すぐに言い返す。
「……そ、そこまで言うならっ、勝手にしろっ。「俺」は「俺」のやり方でユリを守るっ」
 ツバキはアストの手を払うと、そっぽを向いた。
「あぁ。一緒にユリを守っていこうな、ツバキ」
「うるっさいっ、ユリユリユリユリ言うなっ。心配したくなるだろっ」
 そんな様子を見守っている、ニーリンとセージ。
「痴話喧嘩、か?」
「知らんニャ。あと、アストは素晴らしいくらいバカニャ」
 セージは溜め息をつく。
 その辺りで、ニーリンはわざとらしく咳き込む。
「ゲフンゲフン。で、お二人さん。そろそろ本題に戻らないか?」
 その声に「ハンター」として反応する二人。
 ゴア・マガラはまだ、仕留めていないのだ。