- 日時: 2014/05/20 12:03
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 78NaSqiQ)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
五十六章 戦闘続行
幸い、ゴア・マガラはまだこの未知の樹海から離れていないのか、ペイントの臭いは感じられる。 「そうだったな」 アストはニーリンとセージに向き直る。 アストに問題はないだろう。 問題は、防具が半壊したツバキだ。 セージはツバキを見やる。 「お前はどうするニャ、ツバキ。アストが言うように、無理はせずにここで待っていても構わんニャ」 そう、ツバキの胸を締め付けているサラシが露になるほど破損しているのだ。身体の正面が無防備でモンスターと向き合うなど自殺行為だ。 だが、ツバキはそこでセージの厚意に甘えなかった。 「何言ってるんだよ、セージ」 そう言うとツバキは、自分の荷物から旅人用のマントを取り出して、それを首より下が覆われるように羽織る。 「この戦いで、ユリの無事が保証されるんだ。俺がやらないで誰がやるんだよ」 ツバキはあくまで戦うつもり満々だ。 「しかしセルジュくん、そのマントもなかなか様になっているが、もしヤツの攻撃を受けた場合、生きてはいられないぞ?」 そう、ブレスの一撃で防具が半壊するのだ。それをもし生身で受けたらどうなるかと思うとゾッとする。 「喰らわなきゃいいんだよ。喰らわなきゃ」 ツバキは斬破刀を背負い直す。 「分かったニャ。やるならやってみろニャ」 セージは溜め息をつくと、それ以上は何も言わなかった。 「よぉし、ツバキも復活したし続行といくか!」 アストは気合いを入れて声を張り上げる。
準備を整え、最初のエリアを通りすぎた次のエリア。 ゴア・マガラはアスト達の気配に気付くとすぐにでも戦闘体制に入る。 「グルウゥゥゥッ」 威嚇を聞いて、アスト、ツバキ、セージは散開する。 ツバキは走りながら斬破刀を抜き放つ。 「悪いが、ユリのためにもお前を狩らせてもらう!」 マントを翻しながら、一気に側面に回り込む。 ゴア・マガラはツバキの方を向いた。 「ガルゥッ」 ゴア・マガラは再びブレスを吐き出した。 が、一発に限らず、左右斜めにも放ってきた。 それでもツバキを捕らえるには至らず、ツバキはその隙に地面を蹴ってゴア・マガラの後ろ足に取り付いて斬破刀を振り抜く。 無論、その隙をつくのはツバキだけではない。 アストは前足にソードモードのディア=ルテミスを降り下ろし、セージはツバキとは反対側の後ろ足に取り付いていく。
一方のニーリン。 「ハー……、ハー……、ハー…」 口で呼吸を繰り返し、雑木林の中で俯せになっている。 ただ倒れているのではない。 その証拠に、ニーリンの目はスコープに釘付けられ、妃竜砲【遠撃】の銃口はしっかりとそいつを狙っている。 そいつ、ゴア・マガラはまだこちらに気付いていない。 「よーし……いい子だ。いい子にはご褒美を与えんとな……」 接近戦を行うハンターが二人と一匹。誤射の可能性も孕んでいる状況だ。 だが、ニーリンは躊躇いもせずに引き金を引き絞る。 その弾道は、ゴア・マガラの他に誰もいない。 弾そのものは、ゴア・マガラの鱗に阻まれて弾かれる。 しかし、本命は別にある。 弾かれた瞬間、ゴア・マガラの足元で爆発が巻き起こる。 ニーリンお得意の、拡散弾による狙撃だ。 「グオォォッ?」 ゴア・マガラは突然の爆発に驚いて足を止めてしまう。 空薬莢を排出すると、ニーリンはすかさず次の拡散弾をリロードする。 まだこちらに気付いた様子はない。 ニーリンは一心不乱にスコープに目をつけて、ゴア・マガラを狙い続ける。
また一方のバルバレ。 カトリアは自室で書類の整理を進めていた。 「よし、これで終わりっと……」 ギルド関係の大量の書類整理を終えて、カトリアは一息つく。 アスト達が未知の樹海へ出発してから半日。もうバルバレが夕暮れのオレンジ色に染められている。 この後は特にするべきこともない。 「…………」 無事だろうか。 狩れなくてもいい。ただ帰ってきてほしい。 それが分からないなんて、もどかしい。 もしも自分も彼らについていければ、その目で無事も状況もわかる。 それが出来なくなってしまったのが、今の自分だ。 あの恐怖はどうしても忘れられない。 あの、神々しくも、禍々しい白い龍が突如現れ、仲間達を捻り潰していく、あの瞬間を。 それももう、一年前の話だ。だが、自分は未だにそれを引き摺って生きている。 もしも、あの龍が再び現れたら、今の自分達では何も出来ないだろう。もし、現れたら、他の皆を守るのは誰だ? 「守るのは、私……」 もしもまさかの仮定の話だ。 だが、カトリアは新たにやるべきことを見出だした。 「やれる、ことから」 その足は、ライラの工房へ向かっていた。
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