- 日時: 2014/05/23 10:37
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: lNyPNNr5)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
五十八章 ナゾ フカマル セカイ
そう、そこには肉体のないゴア・マガラの脱け殻だけが放置されていたのだ。 ペイントは脱け殻に残っており、それ以外の方向からペイントの臭いは感じられない。 「脱皮か?しかし、なぜ……」 ニーリンは顎に手を置いて思案する。 脱け殻を凝視しながら、セージは口を開く。 「分かるとすればニャ。脱皮をするということは、あのゴア・マガラはまだ成熟した個体ではなかったと言うことはわかるニャ」 生物の中には、進化の過程で脱皮を繰り返すものもいる。これもその一つだろうか。 「これがなんであれ、依頼的にはどうなるんだ?失敗なのか?」 ツバキも脱け殻を凝視しながら誰と言わずに訊く。 ニーリンはその脱け殻に触れてみる。 まだ脱皮して間もないのか、生物的な感触が残っている。 「ふむ、このまま何もせずに帰れば失敗だろうな。だが……この脱け殻を持ち帰れば話も変わってくるだろうがな」 例え脱け殻でも、ゴア・マガラ関係のモノならギルドは高く引き取ってくれるだろう。 「でもやっぱり、これで終わりじゃなさそうだな……」 アストは一抹の不穏を感じながら呟いた。
未知の樹海から、バルバレに帰還したアスト達は早速ミナーヴァのメンバー達に迎えられ、事をギルドマスターに報告した。 「ふむ、脱皮か。これまでには見られなかった状況だね」 さすがのギルドマスターも、これにはお手上げのようだ。 ニーリンが話を持ち出してくる。 「ギルドマスター。ゴア・マガラの狩猟は出来なかったが、こうしてサンプルは持ち帰っているのだ。失敗です、はい終わりではなかろう?」 ニーリンは見返りと同時に、このギルドマスターの人としての器を測ろうとしていた。 ここで失敗だからと言って何もなければ、無能の烙印を押すつもりだ。 「そうだね、足掛かりは捕まえているんだ。ここは仮成功として扱い、本来の報酬額の半分を与えようか」 一応成功した事として扱い、全額ではないにしろある程度の報酬金を与えると言うのだ。 ニーリンは心中で「それでいい」と頷いた。どうやらこのギルドマスターはまだ良識があるようだ。 「……とは言えしかし、その脱皮を終えたゴア・マガラが気になるね。結局のところ、まだ生きてはいるのだから。無意味に近いかも知れないが、ギルドでは引き続き捜索を続けよう。何か分かれば君達にもすぐ伝えよう。それと、アヤセ孃の方もこちらで保護しよう。そうだったね?」 そう……ゴア・マガラはまだ生きている。 だとすれば、またどこかで狂竜ウイルスの被害が蔓延しかねないのだ。 拭いきれない謎は抱えたままだ。 だが、ツバキにとってはユリの保護が最優先だったのだ。 それを聞いて、ツバキは安堵する。 「ところで、君達ミナーヴァの次の目的は何かな?」 ギルドマスターは興味本意でミナーヴァの目的を訊いてくる。 セージが代表として答える。 「オレ達は現在、シナト村へ向かう途中だったニャ。海上でゴア・マガラと遭遇、そのまま流れてチコ村に漂着、そこでバルバレから手紙が届いた次第だニャ」 これまでの経緯を簡単に答えるセージ。 「シナト村かい?」 ギルドマスターはシナト村と聞いて興味を強くした。 「久しく聞く名前だね。確か、北方の山の上にある竜人の村だったかな?」 「山の上?」 アストは耳を傾けた。 「そうだよ。それがどうかしたのかな?」 「あ、いえ……」 ワルキューレは海は渡れても空は翔べない。 これもまた、カトリアに相談しなくてはならないだろう。 話終えると、アスト達は集会所を後にした。
アスト達はここまでの顛末をカトリアに報告した。 ゴア・マガラの脱け殻、シナト村のことだ。 「そうね……ゴア・マガラのことは気になるけど、シナト村って山の上にあったんだね」 ゴア・マガラのことは一旦置いておいて、今はこの旅のことを優先するようだ。 「山の上ってなると、ワルキューレじゃ無理ですよね、カトリアさん」 アストは遠回しにこの先の予定を聞いていた。 カトリアはアストに目を向けると、当然とばかり頷いた。 「それはもちろん、飛行手段を手に入れないとね」 「つまり、もう一度ナグリ村へ赴き、今度は飛行船を作る分けですな?イレーネ殿」 ニーリンも話に入ってくる。 「うん。と言うわけで、休息や物資の供給が済んでから、私たちはもう一度ナグリ村へ向かいます。ツバキくんは、ユリちゃんとバルバレに残るんだね?」 ギルドマスターとの約束で、ユリの保護を承っているのだ。必然、ユリの護衛に就いているツバキも残ることになる。 ツバキは頷いた。 「えぇ。短い間でしたけど、お世話になりました」 カトリアに一礼するツバキ。 どうやら、あくまで自分が女だと言うことは明かさないようだ。 それでもツバキは自分の生き方を曲げないのだ。 「なぁ、ツバキ」 アストはツバキに声を掛ける。 「ごめんな、一緒にユリを守るって言ったのに、それも出来なくなって」 ツバキはそんなアストの言葉に呆気を取られたが、すぐに調子を取り戻す。 「気にするなって。気持ちだけでも受けとるよ。ありがとうな、アスト」 そっと、右手を差し出すツバキ。 それを見て、アストも右手を向けてその手を握った。 「ちゃんとユリを守ってやれよ、ナイトさん」 「お前に言われなくても」 軽口をいいながら、『男同士の』握手を交わすアストとツバキ。 握手を終えると、ツバキはその場を後にしようとする。 「じゃあ、ユリにも伝えに行きますから、失礼します」 そう言って、ツバキは寝室用の馬車へ向かう。 残った者達も解散になり、それぞれの馬車へ戻っていった。
寝室用の馬車で、ツバキとユリは話し合っていた。 「そっか……もうミナーヴァの皆さんとお別れかぁ……」 ユリは少し寂しげな表情をする。 「そんな顔するなよ、ユリ。これまで通りの生活に戻るだけだし、いい思い出になっただろ?」 ツバキな努めて明るく振る舞うが、ユリの表情は晴れないままだ。 「でも、やっぱり……」 「ユリ」 躊躇うユリに、ツバキは声を強くした。 「ご両親だって心配してるんだ。それに、ミナーヴァの方もいつまでも保護出きるわけじゃないだろう。これまでと同じだよ。友達になれてもすぐ別れるような、ね」 「……そっか、そうだね……」 ユリは寂しげな表情のまま、ベッドに潜り込んだ。 「ごめんね、ちょっと疲れちゃった。お昼寝、するね」 そう言って、ユリは横になった。毛布で顔を隠した。 ユリは毛布で隠した顔を涙で濡らしていた。 (別れたくない……別れたくないよ……) |