Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!二代目!( No.468 )
  • 日時: 2014/05/25 11:23
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: vsgokmmP)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 五十九章 別れたくなかったからです

 翌日、ミナーヴァは出発準備を整えていた。
 まずはワルキューレを停泊させている港町まで戻り、海路を渡ってナグリ村へ向かうのだ。
 出発準備を整え後は歩くだけと言う中、ツバキは見送りに来ていた。
「お世話になりました、カトリアさん」
 ツバキは律儀にカトリアに頭を下げる。
「うぅん、お世話ってほど手間もなかったし、ツバキくんもアストくんやニーリンさんを助けてくれてありがとうね」
「いや、俺もあの二人やセージから色々と学ばせてもらいました」
 カトリアとツバキは固く握手を交わす。
「そう言えば、ユリちゃんは?」
 カトリアはユリの姿が見えないことに首を傾げる。
 ユリならば真っ先に見送りに来そうなものだが、なぜかその彼女がいない。
「……、ユリなら多分どこかで一人になってます。「一人にして」って言われたんで。きっと、別れを惜しんでいるんだと思います」
 ツバキは悲痛そうな顔を浮かべる。
「そっか……私も、ユリちゃんやツバキくんとはわかれたくなかったけど、それぞれの生き方があるし、無理に引き留めるほど私は強情にはなれないから」
 カトリアは一瞬落ち込むような顔をした。
「カトリアさーん、そろそろ出発ですよー」
 馬車からマガレットが呼んでくる。
「あ、すぐ行くから!」
 カトリアはマガレットを一瞥してから、ツバキに向き直る。
「じゃあ、ツバキくん。ユリちゃんのこと、お願いね」
「えぇ、任せてください。ミナーヴァの武運長久をお祈りします」
「それ軍隊とかに使う言葉だよ、ツバキくん」
 軽く笑いながら、カトリアはツバキに背を向けて馬車に乗り込む。
 互いに手を振り合いながら、ツバキはミナーヴァの馬車を見送っていく。
「別れを惜しむのは分かるけど、せめて見送りくらいはしろよな」
 ツバキは今ここにいないユリに対して言葉を口にした。
 
 バルバレを出て、旅路を歩むミナーヴァ一行。
 今日はニーリンが後ろの見張りをやっている。
 と言うわけで、アストは自室でのんびりしようとしていた。
「さってと、何からしようかな」
 武具の整備、道具の調合、昼寝……やりたいことはたくさんある。
「あ、そうだった……っと」
 アストは引き出し棚から、一冊の真新しい雑誌を取り出した。
『月刊 狩りに生きる』。
 狩りに関する情報が詰まっており、狩り場やモンスター、人気の武器や防具、占いまで記載されているハンター用の雑誌だ。
 午前中はベッドの上を転がりながらこれを読むつもりだ。
 たまの堕落、万歳。
 そう思いながらアストは『狩りに生きる』を手に取り、ベッドに入ろうと毛布をどける。
「………………」
「…………」
「……」
 ベッドの中にいたその人とパッチリ目が合ってしまう。
 長く伸びた艶やかな黒髪、少しだけ日に焼けた色白の肌、深い青色の瞳。
「え、えへ……?」
「……なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 アストは驚きのあまり思わず大声を上げながら後ずさる。
 それを聞きつけて前からはカトリア、後ろから妃竜砲【遠撃】を構えたニーリンが駆け付けてくる。
「どうしたのアストくんっ!?」
「無事なら返事をしろアルナイルくんっ!」
 だが、アストの部屋にいたその人を見て、二人とも驚いた。
 アストのベッドの中にいたのは、別れたはずのユリ・アヤセだったからだ。

 一方のバルバレ。
「ユリィーーーーーッ!!どこにいったんだぁーーーーーっ!?」
 ツバキは叫びながらバルバレの町中を走り回る。端から見るその姿は実に痛々しいが、今のツバキに恥も外聞もへったくれもない。
 ユリがなかなか戻ってこないため、まさか誘拐されたのではないかと、バルバレのギルドナイツを総動員させて捜索に当たっている。
「いたか!?」
「こっちもダメだ!」
「周辺のギルドにも連絡を回せっ、誘拐されたとしてもまだ遠くにはいないはずだ!」
「見付からなかったら大惨事だぞ……!」
 ギルドナイツは大慌てで手段を探っていく。
 そんな中、ツバキはまさかの可能性に行き着く。
 別れを惜しむがあまり、ミナーヴァのワルキューレに密航するのではないか?
 昨日のユリの様子を見ても、一度そう考えればそうだとしか思えなくなった。
 そう思い込んだツバキは、自分の荷物をひっつかむと全速力でバルバレを飛び出した。
「さすがにまだ出航はしないだろっ、間に合え間に合え間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ……!」
 そんな必死のツバキの形相に、道行く人は道を空けて、野良のモンスターは怯えて物陰に隠れていく。

 とりあえず寝室用の馬車に移動し、姿勢を正すユリ。
 対面するはカトリアとアスト。
「えー、ではユリちゃん。どうしてアストくんのベッドの中にいたのかな?」
 カトリアは問い質す。
 それに対して、ユリは面と向かって答える。
「別れたくなかったからです」
「別れたくなかったからって……」
 アストは唖然とする。
 ツバキやギルドマスターを無視してこんなことをしているのだ。
「私だって、もう十六歳の一人の女です。自分のことは自分で決めていいはずです」
 ユリはさらに言葉を強くする。
 そんな強気のユリを諭すように、カトリアは言葉を選んだ。
「あのねユリちゃん。自分のことは自分で決めるって言うその意志の強さはいいの。でもね、自我の強さと自分勝手を間違えないで欲しいの。あなたを必要としている人はたくさんいる。ただ才能を示せば良いとは言わないけど、あなたを心配している人達のことも考えて」
 カトリアのその確かな言葉を聞いてもなお、ユリの瞳は強い意志を宿している。
 どうやら、本気のようだ。
 カトリアは確かめる意味で、もう一度問い掛ける。
「その全てを踏みにじってまで大切な何かが、私達にあるんだね?」
「はい」
 ユリはそう頷くと、今度はアストに向き直る。
 そして、こう言った。
「私は、アストくんの側にいたいんです」
 その瞬間、アストの心臓が跳ねた。