- 日時: 2014/05/27 12:24
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: TkLF1rAK)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
六十章 高鳴る感情、止まらない鼓動
ユリのその言葉で、アスト、カトリア、ニーリンの三人は一瞬凍り付いた。 しかし、ユリの瞳を見れば分かる。 これは冗談などではなく、ユリの本気の本音なのだと。 「正気か、アヤセくん。ただアルナイルくんの側にいたいがために、これまでの全てを捨てると言うのか?」 ニーリンはいち早く落ち着いて、もう一度ユリに問い掛ける。 「はい」 ユリはしっかりとした返事で答えた。 ニーリンに続いて、カトリアも今一度ユリに問い質した。 「本気、なんだね?」 「はい」 ユリに揺らぎはない。 カトリアは一思案してから、アストに向き直る。 「アストくん」 「は、はい……?」 当の本人であるアストは未だに動揺している。 アストとユリを見比べてから、カトリアはアストに言葉を聞いても与える。 「ユリちゃんの気持ち、ちゃんと答えてあげなさい」 「え、そ、その……」 アストは戸惑うばかりだ。 無理もない。別れたはずなのになぜか別れていなくて、その理由が側にいたいがため……つまりは、異性に向けた告白だ。 言葉に言葉を選んでから、アストは声を濁らせて答える。 「ん、と……ちょっと、いきなりすぎ、かな……」 アストの心は突然放たれた衝撃に耐えきれていない。 二つ返事で済ませられるようなことではないのだ。 「そう、だよね。いきなりだもんね」 カトリアもさすがに立場が同じだと戸惑うと思うのか、感情を落ち着かせる。 ユリはそのアストの反応を見て、どこか安心したように胸を撫でおろす。 「分かりました。ユリちゃんの同行を認めます」 カトリアはユリに向き直る。 「ただし、以前までのような保護扱いは出来ないからね?働かざる者食うべからず。何か一つでも貢献すること、これが条件だよ」 「分かっています。ただ、何をすれば良いかは分かりませんから、出来ることをやってみます」 カトリアの厚意に感謝しながらも、ユリはハッキリと答える。 それを聞いて、カトリアは「よろしい」と頷く。 「今は落ち着くことを考えて。ユリちゃんが同行すること、他の皆にも伝えなくちゃいけないし、これから忙しくなるから」 それだけを言い残すと、カトリアはアストの自室を後にした。 「では、私も見張りに戻るよ。アルナイルくん、間違いだけは犯すなよ」 ニーリンは然り気無くアストに釘を打ってから、最後尾の馬車に戻る。アストはその釘の意味が分かっていないのだが。 二人取り残されるアストとユリ。 何も言うことが出来ず、二人黙ってそこにいた。
一晩が経ってバルバレ近郊の港町に到着し、早速ワルキューレに馬車を入れていく。 それまでの間、ユリはルピナスの調理を手伝ったりして遅れを取らないように努力している。 一方のアストは座り込んで海を眺めていた。 (ユリが俺のこと好きだったなんて、実感ないなぁ……) 彼女に特別何かした覚えはない。 ツバキが言っていたような「おとぎ話の王子様」だが、ツバキ曰くはそれで男であるアストに心を許していると言っていた。 船の上でゴア・マガラと戦闘した時は、単なる救助対象としか見ていなかったが、ユリにとってはそうでもなかったらしい。 「……アストさん」 海を眺めるアストに、エリスが声をかける。 「あぁ、エリス。どうした?」 「……馬車の配置が終わりました。出港の準備をお願いします」 「もうか。早いな……」 アストは立ち上がって、停泊しているワルキューレへ向かおうとする。 が、アストのその手をエリスは掴んでいた。 「エリス?」 「…………」 エリスは黙ったままアストの手を掴んでいる。 どうしたらいいか分からず、アストはそのまま歩きだした。 さすがに皆の前では手を離したが、どうしても彼女の視線が背中に刺さり続けていた。
全員がワルキューレに乗り込み、さぁ出港だと錨をあげようとしていた時だった。 「ちょっと待ったぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」 港町中に怒号が響く。 その聞き覚えのある声に、ミナーヴァ全員が甲板からそれを見下ろす。 「ぜー、はー、ぜー、は、ま、間に合ったぁ……」 そこには、ユリの護衛役だったツバキが盛大に息を切らしていた。 「ツ、ツバキくんっ!?」 それを見て、カトリアは慌ててワルキューレを止めさせて甲板から降りる。 彼の経緯を聞くとこうだ。 昨日突然ユリがバルバレからいなくなった。 まさか別れを惜しんでワルキューレに密航するのではないか。 それを危惧して追いかけてきた。 何とも単純な経緯だ。 とは言えもう出港なので、カトリアはツバキもワルキューレに乗せて、ようやく出港する。 行き先はナグリ村。 ミナーヴァの旅路は、止まらない。 そして、アストの気持ちはーーーーー? |