- 日時: 2014/05/29 15:11
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: vxxiPhGs)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
六十二章 風、吹き抜けて
ワルキューレUは比較的平らで広い岩盤に着陸する。 ここがシナト村だ。 村のあちらこちらに風車が回り、風の様子を伝えていた。 「ここがシナト村かぁ……」 アストはワルキューレUから降りて、早速風を浴びていた。 山の上故か、風は透き通って気持ちいい。 アストに続いて、他のミナーヴァのメンバーも降りてくる。 それと同時に、数人の子供と竜人がワルキューレUに近付いてくる。 「なぁなぁ、アレなんだー?」 「兵隊さんかな?」 子供達はワルキューレUを見て口々に感想を漏らす。 軍隊じゃないけどな、とアストは心中で呟く。 カトリアが代表として、竜人の青年に話し掛ける。 「初めまして。私達は、キャラバン『ミナーヴァ』です。よろしければ村長にお伺いしたいのですが、よろしいですか?」 さすがにこれまでに何度も外交を続けてきた賜物か、カトリアは特に緊張もせずに丁寧な言葉で話す。 青年は頷いた。 「キャラバンかい?こんな所まで珍しいね。あぁ、村長だね。僕が案内しようか」 「お願いします」 そんな短いやり取りの後、カトリアは青年に案内されていった。 これから少し話し込むとなると、時間は掛かるだろう。 アストはワルキューレUから馬車を降ろす作業を手伝うことにした。
カトリアは青年に案内され、シナト村の村長と対面していた。 「モンスターの様子がおかしい、ですか?」 対話を続けていくに連れて、カトリアは首を傾げるようになった。 高齢の竜人である村長は頷いた。 「さよう。この所、ギルドから頻繁に手紙が届くようになってな。そのほとんどが『普段と様子が違う大型モンスターが発見された』と言うものばかりじゃ。それも、この付近の狩り場である天空山からの」 普段と様子が違う大型モンスター、と聞いてカトリアはあらゆる可能性が思い付くが、訊いてみた。 「具体的に、どう普段と違うのですか?」 「ふむ。重要そうな手紙なら残しておる」 村長は一度家屋に引っ込んでから、数枚の手紙の束を持ってくる。 カトリアはそれを受け取り、目に通してみる。 『目が血走っているように見えた』『口から不気味な色をした煙を洩らしている』『やけに凶暴で攻撃的』 「これは……」 カトリアは目を細めた。 「最も、報告ばかりで実際にはどうだったのかは証人がおらん。……はっ、そうじゃった。おぬしらキャラバンには、ハンターがおるな?」 「はい」 「頼むようで悪いんじゃが、少しばかり天空山の様子を調べてきてはくれんかね?本当に様子が違うモンスターがいれば、こちらも手を考えなくてはならんしな」 「分かりました。私の方からこの件は伝えておきます」 村長からの依頼を承り、頷くカトリア。 だが、そこで話を終わらせず、カトリアは別の話を持ってくる。 「それと村長。もうひとつだけ、個人的なことを訊いてもよろしいですか?」 「なんぞ?依頼との等価交換と思えば、それくらいは聞こう」 カトリアは生唾を呑み込んでから、問い質した。 「「悪しき風が山を蝕んだ」……これをご存知ですか?」 カトリアのそれを聞いて、村長は驚きのあまり腰を抜かした。 「おぬし……なぜ、それを……!?」 それと同時に、カトリアは確信を得たようにもう一度生唾を呑み込んだ。
夕暮れに差し掛かる頃には、ミナーヴァの馬車が村の各所に配置される。 そんな中、アスト、ニーリン、ツバキ、セージはカトリアに呼び出されていた。 「狩り場の調査、ニャ?」 セージが確かめるように聞き返す。 それに対してカトリアは肯定を表す。 「先程村長から話を伺ったところ、ここ最近になって天空山から普段と様子が違うモンスターが何度も発見されている、とのことで、本当にそういったモンスターがいるのかを確かめて欲しいの」 そう言われて、ニーリンも頷く。 「了解しましたぞ、イレーネ殿。発見したとしても、そのまま狩っても構わんのでしょう?」 「それは状況に任せます。狩れるならそのまま狩猟しても構いません」 「よしきた」 カトリアはアストに向き直る。 「アストくんは、何か質問はない?」 「……ぜ、は……ぜ……」 不意に、アストはその場で膝を着いてしまう。 「アストくんっ、どうしたの!?」 「苦、し、ぃ……頭痛、も……」 「しっかりしろ、アスト!」 横からツバキがアストを支えてやる。 アストの顔色はますます悪くなり、膝で立つことすら出来なくなりつつあった。 早急にマガレットの診療所へ運ばれた。
アストの様子から、マガレットは瞬時に症状を割り出した。 「高山病、ですね」 高山病とは、平地から高所の山に移る時に起きることのある症状で、酸素の薄い環境に身体が慣れずに酸素を必要とする体内の循環に異常をきたすことだ。 マガレットは落ち着いてアストとカトリアを見比べる。 「今は、常備の酸素ボンベで酸素を供給させていますから、休ませていれば大丈夫ですよ」 「そ、そっかぁ……」 カトリアは心底から安心したように胸を撫で下ろす。 「でも、変ですね」 マガレットはアストを一瞥する。 「ハンターであるアストさんの呼吸器の機能は、常人よりも遥かに優れているはずです。それなのに、どうして……」 「………」 カトリアは何も答えなかった。 (ユリちゃんのことで、いっぱいいっぱいになっているのかな……) 精神が安定していなくては、それは肉体にも繋がる。 心の病は体の病、というのは満更でもなく、今のアストはユリのことで心に迷いや不安が生じているのだろう。 故に少なからず、身体にも影響が及び、高山病を引き起こしてしまったのだ。 (ユリちゃん、負い目を感じなければいいけど……) カトリアはアストを心配しつつも、ユリのことも心配するのだった。 |