- 日時: 2014/05/30 11:48
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: Bmba7KC0)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
六十四章 カトリアに隠されたこの旅の真実
妙な様子のババコンガを狩猟したセージ達は、シナト村に帰還するなり村長とカトリアにことを報告した。 「そう、やっぱり……」 カトリアはセージの報告を受けて頷いた。 「カトリア。オレからもうひとついいかニャ?」 セージはそのまま言葉を続ける。 「あのババコンガは、狂竜ウイルスに感染、発症した固体だったと見ていいニャ。奴の口から洩れていた紫色の吐息……あれは、ゴア・マガラと同じモノだったニャ。いつもより攻撃的で凶暴だったのは、ウイルスの影響を受けていたと取れるニャ」 セージは憶測であるものの、最終的な結論を導きだした。 「つまり、未知の樹海で脱皮を終えたあのゴア・マガラは、天空山のどこかに潜んでいるニャ。でなければ、あそこまでダイレクトに狂竜ウイルスの影響を受けるとは思えんニャ」 つまり要約をすると、アスト達が交戦したゴア・マガラが縄張りを追われて、天空山を住み処として落ち着けた……ゴア・マガラが滞在することで、狂竜ウイルスが蔓延、周辺のモンスターにも影響が現れる、と言うのがセージの意見だ。 だが、それを聞いたカトリアの表情は硬い。 「……そうね。これから私が話すことはとてつもなく大きな事だから、アストくんが動けるなら、彼にも聞いてほしいかな」 「呼びましたか?カトリアさん」 その声に振り向く全員。 そこには、マガレットとユリに支えられたアストだった。 「アストくん、もう大丈夫なの?」 カトリアは支えられたアストを見て思わず駆け寄る。 「まだちょっと良くないですけど、歩いて身体を慣らすくらいは。それで、とてつもなく大きな事ってなんですか?」 「あ、うん。マガレットさん、ユリちゃん、他のミナーヴァも呼んできてくれるかな?」 カトリアは、アストの左右にいる二人に声を向ける。 当然、ユリとマガレットは「なぜ?」という表情を見せた。 それを押し通すように、カトリアは言葉を重ねた。 「本当に大事なことだから、皆に聞いてほしいの」
マガレットとユリは、エリス、ライラ、ルピナス、シオンにも声を掛けてきた。 ここに、ミナーヴァ全員が揃う。 「皆集まってくれてありがとう。まずは、ちょっとついてきてくれるかな」 そう言うと、カトリアと村長を先頭に、村の奥の吊り橋を渡っていく。 その先には、巨大な塔がそびえ立っていた。
塔の中は、神殿になっていた。 やはりあちらこちらに風車が回り、ここが風の絶えない場所だと言うことを教えてくれている。 神殿の奥に、僧服に身を包む人の姿が見えた。 「大僧正様、ミナーヴァの方々をお連れしましたぞ」 村長が大僧正と呼ぶらしい人物に声をかけた。 「あぁ、ありがとう、村長」 大僧正は背を向けたまま立ち上がり、振り向いた。 その人物は、最初にミナーヴァを迎えてくれた青年だった。 その顔には優しそうな柔和なものはなく、まるで人が変わったような真剣な顔付きをしている。 ミナーヴァ全員に向き直ると、ゆっくりと口を開いた。 「伝説は、そこに確かに存在したから、伝説になる。ただの偶像は、決して残ったりしない」 最初の言葉に、ミナーヴァはメンバー達は首を傾げるばかりだ。 「各地で見られる、モンスターの異変。そして、脱皮を終えたゴア・マガラ。その原因は、全て一つのことが元凶になっている」 大僧正の言葉から見るに、ゴア・マガラが事の元凶ではないようだ。 しかし、その考えは正解ではない。 カトリアは前に出て、大僧正の隣に立つ。 「天を廻りて戻り来よ。廻り集いて回帰せん。その名は『天廻龍』。またの名は『シャガルマガラ』」 そう答えたのは、カトリア本人だった。 彼女がなぜそんなことを知っているのだろう。 皆の疑問に答えるかのように、カトリアは続けた。 「それが、黒蝕竜ゴア・マガラの真の姿。あの黒き竜は、まだ幼き子供も同然」 その言葉を聞いて、ハンター三人と一匹に戦慄が走った。 あの強さでいながら、幼体だったと言うのだ。 「幼き姿で世界を廻り、成体となったその時、天廻龍は天空へと回帰せん。悪しき風は山を蝕み、全てを災禍に包み込む」 カトリアは一度瞳を閉じた。閉じたままで続ける。 「そのシャガルマガラを討つことが、このミナーヴァの旅の、私の本当の目的。大陸を旅して、シャガルマガラのことを調べるために、このシナト村へ来たの。そして、調べるまでもなく、答えはここにあった……ゴア・マガラのことを最初から知ってたわけじゃないけどね」 アストは心の中で全てが結び付いたのを感じた。 カトリアの仲間、四大女神の内の三人を殺したモンスター……それがシャガルマガラだと言うのだ。 復讐の、仇討ちのために、カトリアは必死になっていたのだろう。 しかし、武器を握れなくなったカトリアはどうやってそこまで考えたのか。 「イレーネ殿」 挙手をしたのはニーリンだ。 「そのシャガルマガラとやらの討伐を私たちにやらせるためにここまでひた隠しにしていた、と言うのならば、私はここで契約を破棄させてもらう。貴女の個人的感傷に付き合うつもりはない」 「いいえ、ニーリンさん。どちらにしろ、ここで契約は終わります。そして……」 カトリアは閉じていた瞳を開いた。 その蒼い瞳に、光は無く、虚ろな色彩を放っていた。 「全員に告ぎます。今日を以て、ミナーヴァは解散とします」 その言葉に、ミナーヴァ全員に衝撃が走った。 「皆、今まで私の茶番に付き合ってくれてありがとう。私はここで自分自身を清算し、シャガルマガラと戦います。結果はどうかわかりません。勝つにしろ、負けるにしろ、私はこの地で自らの命を絶ちます」 カトリアは、脚本に書かれた台詞を読むように声を放つ。
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