- 日時: 2014/05/31 10:39
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: IeB2OHbV)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
六十五章 虚無の笑顔と溢れる涙
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよっ!」 思わずアストは叫んだ。 「いきなりすぎますよっ!ゴア・マガラの正体がその、シャガルマガラって言うのは分かりますよ……でもっ、なんでそれでカトリアさんが死ななくちゃいけないんですかっ!?そんなこと誰も望んでいないでしょう!?」 カトリアは虚ろな瞳をアストに向けた。 「ごめんね、アストくん……。私はね、ずっと皆を騙して、利用してたの……。だから、分かってたの。この瞬間が、いつか来るんだって……。それに、死ぬのは私独りでいいの……。勝てるなんて保証もない相手に、アストくん達まで戦わせる分けにはいかないから……」 カトリアは全く感情のない笑顔を浮かべた。 「だから、ミナーヴァの旅はここでおしまい……。たった半年だけの、私の、私だけの自分勝手で自己中心なシナリオ……。付き合ってくれてありがとうね……」 「ふっざけんじゃないよっ!!」 カトリアを前に、怒りと言う怒りを露にして怒鳴るのは、ライラだった。 ライラは大股で足早にカトリアに歩み寄ると、その彼女の胸ぐらを掴み上げた。 「何が自分勝手で自己中心なシナリオさっ!?何が皆を騙して利用してただっ!?寝言言うんじゃないよこのバカトリアッ!!」 ここまで激情を剥き出しにするライラを見るのは初めてだ。 ライラはカトリアの胸ぐらを掴んだまま怒鳴り続けた。 「アンタが本当に騙すつもりでアタシ達を利用してたってんならっ、アンタがアタシ達に見せてきた笑顔は何だったのさっ!?あんな優しい笑顔、作り笑顔なんかで真似出来るもんかよっ!」 「ライラ……?」 「だったら、何であの時アストとセージを助けに行ったのさ!?アストの代わりぐらいのハンターぐらいいくらでもいるさっ!アンタがこのバカを助けに行こうとしたのは、アスト・アルナイルって『ハンター』じゃなくて、存在そのものが大切だったからだろっ!?何年アンタのこと見てると思ってんだいっ、舐めんじゃないよっ!!」 そう、ナグリ村のあの時、カトリアは自分がモンスターの前で武器を握れないと分かっていながら、助けに来たのだ。 カトリアの心が本当に暗い感情しかなかったのなら、助けに行こうとはしなかっただろう。 「……カトリア」 すると、今まで黙っていたセージが動いた。 彼もカトリアの目の前まで歩み寄った。 「バカならバカらしく、考えるのをやめて、感情で生きろニャ」 セージも怒りを露にするのかと思いきや、彼は逆に呆れを見せていた。 「本当は怖くて仕方ニャいくせに、見栄だけ張って、自分の背負うモノを勝手に増やして、それに押しつぶれているのに強がって、アホかニャ。何でお前はそんなに頭が悪いんだニャ」 アストも初めて聞く、セージの罵倒と言う罵倒。 「まぁっ、団長はお姉さんぶってますけどっ、心はお子様ですからねっ。強がりたいお年頃なんですよっ」 それに続くかのように、シオンも駆け寄ってくる。 「……強がりたいお年頃、なんでしょうか?どちらにせよ、カトリアさんらしくないです」 エリスもシオンの背中に続いて、彼女の隣につく。 「カトリアさん?ご乱心ならぁ、マガレットさんにぃ、診てもらってはどぉですかぁ?」 然り気無く酷いことを言い放つのはルピナス。それは頭のイタイ人に向けて言う軽蔑の言葉だ。 「え?あの、私は医者の志望ですけど、精神科は受け付けてないですよ?」 ルピナスの言葉を真に受けて、真面目に返すマガレット。そう言うことでは無いのは気付いていないだろう。 「何だ、ただの自作自演か。全く、契約を破棄させてもらうとか言った私がバカみたいじゃないか。イレーネ殿も人が悪いなぁ、はっはっはっ」 ニーリンは既にいつもの余裕の表情で笑っている。 「そうですよ、カトリアさんはお茶目なんです。だから、これくらいは見逃してあげましょうよ」 ニーリンの笑いに便乗するのはユリ。彼女も小さく笑っている。 「何か違う気もするが……まぁいいか」 ツバキだけ、一人冷静に事を考えていたがその思考もすぐに捨てた。 気が付けば、ミナーヴァのメンバー達は笑っていた。 カトリアは唖然としたように見下ろしていた。 ライラはカトリアの胸ぐらを離した。 「ね?分かるでしょう、カトリアさん」 皆の笑顔を見て、アストはカトリアに諭すように話し掛ける。 「カトリアさんがいなきゃ、皆こんな風に笑えないんです。だから、何でもかんでも一人でやろうとしないでください」 アストは優しくカトリアの肩に手を乗せる。 「それにですよ、俺達は今までどんなモンスターだって倒して来たんです。何でか分かります?」 「……?」 カトリアの肩は小さく震えていた。 「カトリアさんが、皆が笑顔で待ってくれているからですよ。だから俺達も、絶対生きて帰らないとって思うんです。だから、勝って帰ってこれるんです」 「アス、ト、くん……」 カトリアの瞳が光が宿り、僅かに潤む。 そして、彼本人の自覚はないが、とどめを刺すかのように、アストは飛びきりの微笑みと言葉をカトリアに送った。 「カトリアさんが笑顔を見せてくれるなら、俺はそれを裏切ったりしませんよ……絶対にね」 その瞬間、カトリアの心の仮面が砕けた。 蒼い瞳はキラキラと輝き、仮面の砕けた心は抑えていた想いを一気に解放し、決壊したダムのように涙が溢れ返った。 「ア、アストくぅんっ……!!」 カトリアはアストに飛び付くように抱き付いた。 「ちょっ、カトリアさん!何も抱き付かなくても……」 「っく、ごめんねっ……ぅっ、ありがとうっ……!」 カトリアはアストの胸に顔をうずくめて泣きじゃくる。 本当に、子供のように泣くカトリア。 元のカトリアさんに戻ってくれた、とアストは抱き付かれながらも、彼女の柔らかな温もりを感じて安心していた。
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