- 日時: 2014/04/22 11:43
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: eYev4odC)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
三十七章 地底洞窟の死闘【前編】
ネルスキュラが潜み続けるこの地底洞窟に、アスト、ニーリン、セージは来ていた。 今はベースキャンプで、ベッドを中心に作戦の見直しを行っている。 「さて、先も話したように、この作戦は君がどれだけネルスキュラを引き付け、どれだけ私が気付かれないかで狩りの勝敗が変わってくる。アルナイルくんとオトモくんには少々重荷になるかもしれないが、私より先に奴のテリトリーに侵入、ネルスキュラに君達しかいないと思わせてくれ」 つまり、アストとセージがニーリンよりも先にネルスキュラと戦闘を開始し、ネルスキュラに「敵はこいつらだけ」と思い込ませるのだ。そうすることでネルスキュラの意識がアストとセージだけに向くようになり、自然とニーリンが狙撃を行っても気付かれにくくなる。 ネルスキュラの怒りを誘発しながら戦うため、アストとセージには少々どころか、かなり負担の掛かる作戦である。 「つまり、俺とセージが先にネルスキュラを発見するまではニーリンはここで待機……発見の報せはペイントボールで分かるよな?」 アストはやるべきことを簡単にまとめ、ニーリンに答えを出す。 「察しが早いな、アルナイルくん。そうとも、ペイントボールで報せてくれるのはありがたい。打ち上げタル爆弾で発見を報せてくれても構わないんだよ?」 「発光信号かよ。そんなもん持ってきてないっての」 「ふむ、残念」 と言ってもそれほど残念そうな顔もせずに、ニーリンはそのヘビィボウガン、妃竜砲【遠撃】の弾倉に拡散弾を仕込む。 「さぁて、始めようか」 「おっし!」 「ウンニャ」 ニーリンはひとまずベースキャンプで待機、アストとセージは崖を降りていった。
事前に集めた情報だと、ネルスキュラの主なテリトリーは蜘蛛の巣、つまりは自身が張り詰めた糸で作られた足場があるエリア、つまりは4、5、6がそれに当たる。エリア8でも蜘蛛の巣の梯子のようなものが見当たるが、ネルスキュラはそこにはあまり向かわないらしい。 目星を前者に見立て、アストとセージはエリア4に足を踏み入れる。 そこにネルスキュラはおらず、蜘蛛の巣で出来た足場の下にゲネポス達が棲息しているだけだ。 ここから、5と6にエリアは分かれている。 ネルスキュラが寝床としているのは、エリア5の方だ。 「気配が近いニャ。気を付けろニャ」 セージは背中のラギアネコアンカーの柄に手を掛けながらアストに呼び掛ける。 アストは無言で頷き、目配せでエリア5の方を指した。 それを了解し、セージも頷く。
エリア5。 「ギョォワァエェェェッ、ギィョォォォォォッ!」 「ギッギッギッ、ギギギッシャァッ」 そこには、惨状が広がっていた。 ネルスキュラが、ゲリョスに糸を絡み付かせて拘束しているのだ。 糸で身動きを取れなくしてから、ネルスキュラはその鋭い爪で動けないゲリョスの体表のゴム質の皮を剥ぎ取っていく。その姿、人間が業とするモンスターハンターそのものだ。 見る内にゲリョスは霰もない姿にされ、無防備な肉をネルスキュラに喰われていく。 「ギギッギョ」 ネルスキュラは食事に満足したのか、ゲリョスから剥ぎ取った皮を、器用に作り替え、自身の体表に纏わせる。剥ぎ取ったモノを作り替えて身に纏うその習性は、やはりモンスターハンターそのものだ。 そして、ゲリョスの屍を糸で簀巻き仕上げると、そのまま連れていき、天井に吊り下げた。 見上げると、同じような姿がいくつも釣り下がっていた。 「おっかねぇ……」 アストはその惨状を直視し、思わずに呟いた。 「おっかねぇとか言ってる場合じゃニャいニャ。あのゲリョスと同じようにされたいのニャ?」 「あんな晒しにされるくらいなら、ギルドに捕まった方がマシだっつーの」 どんなに緊迫した状況でも、アストとセージは軽口の叩き合いを止めたりしない。 アストは唇を軽く嘗めて、唾と一緒に恐怖心を呑み込む。 ポーチに手を突っ込み、ペイントボールを持ってくる。 それと同時にネルスキュラが侵入者の気配に気付く。 「ギギギョォォォォォッ」 上体を起こし、爪を上に上げての威嚇行動だ。 アストはその威嚇に怯むこともなくネルスキュラに接近すると、ペイントボールをネルスキュラの顔面に投げ付けた。 投げ付けられたペイントボールはネルスキュラの顔面にぶつかると同時に弾け、ネルスキュラの顔面をどぎついピンク色に染める。 狩りの火蓋が切って落とされた。
一方のベースキャンプ。 遠くかどこかから、嗅ぎ馴れた刺激臭が漂ってくる。 「……」 方向や臭いの濃度から、エリア5か6の辺りだろう。 妃竜砲【遠撃】を手に取り、それを背中に納める。 準備は万端だ。 崖の上に足を掛けると、そのまま飛び降りた。 いつ飛び降りても、この高所から落下する感覚は快感だ。これも一種の楽しみ。 そろそろ地面が近くなってきた。 その辺で生え放題になっている蔦に手を伸ばし、しっかり掴むと落下の勢いを逆利用し、蔦から蔦へ移動するケチャワチャのように次の蔦へ、次の蔦へと、勢いをゆっくり殺しつつ地面に降りていく。 ある程度地面に近くなってから、再び飛び降りる。 足に負担を掛けないように、柔らかく着地する。 「さて、と……」 既に戦闘が始まっているはずだ。 彼女、ニーリン・ガーネットは、臭いの漂ってくるエリアに向かって軽く小走りで向かう。 |