- 日時: 2014/06/05 18:07
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 34yvpwNm)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
六十八章 迷い刻む心の中
セージは、崖へと落ちていった。 ここは天空山の山頂だ。 ここから飛び降りることは、死を意味する。 そして、セージはリオレウスの火球ブレスを直撃したのだ。 セージ本人も言っていたが、ラギアネコシリーズは雷や水には強くても、火には弱い。 まさか、死んだのか? あのいつも余裕を見せては軽口を吐いてくる、少し生意気でも実力は確かで、何度もアストを叱咤してくれた、セージが。 そのセージを殺ったのは誰だ? リオレウス。 アストは崖から目を切ると、リオレウスに向き直った。 その赤い瞳を、血眼にして、殺意をたぎらせ、ソードモードのシールドスクアーロを握る左手に怒りを込めて。 「て、め、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 アストは咆哮を上げながらリオレウスに突進する。
その後は何があったのかよく覚えていなかった。 気が付けばリオレウスは横たわり、絶命していた。 「ハーッ……ハーッ……ハーッ……」 アストは肩で呼吸しながら、死んだリオレウスを憎々しげに睨んでいた。 「お前を狩ったってっ、セージが戻ってこないことぐらい分かってるさっ!」 そんな憎悪を吐き出すアストに、ツバキは彼の肩に手を置いた。 「アスト。剥ぎ取りが済んだら、セージを探すぞ。あのセージのことだ……そう簡単にくたばるもんか」 ツバキは慰めるように声を掛けてやる。 「っ……!」 アストはシールドスクアーロを納めると、乱暴に剥ぎ取りを始める。 「セージ……」 剥ぎ取りを終えてから、三人は天空山中を駆け回った。 日が暮れるまで探したものの、セージの姿は見えなかった。
天空山から帰還し、リオレウス狩猟の成功と、セージの行方不明をエリスとカトリアに報告した。 それを聞いて、エリスは酷く動揺したが、カトリアは落ち着いていた。 カトリアが一番動揺しそうなものだが、何故か彼女はうんうんと頷いていた。 「大丈夫だよ、アストくん。セージならきっと無事だよ」 「でもカトリアさんっ、セージは俺を庇って、リオレウスのブレスを……」 「アストくん。責任を感じるのは分かるよ。でもね、きっと無事だって信じてあげないと、セージも気が気じゃないよ?」 カトリアは優しくアストを諭す。 そうだ。死んだと決めつけてしまうのは良くない。 きっと助かっているのだと、信じなければならない。 「そう、ですよね……」 アストは一息ついた。 「人に散々「命を大切にしろ」だの、「カトリアを悲しませる」だの言ってきたくせに、自分が死んでちゃ話になりませんもんね」 カトリアが動揺しないのは、セージに対して全幅の信頼を向けているからだ。 何があっても必ず帰ってくると、信じているからだ。 「さて、辛気臭い話はここまでにしないか?アルナイルくん」 ニーリンが話の流れを変えようとしている。 「オトモくんが抜けてしまった穴、埋めなくてはなりませんなぁ、イレーネ殿?」 彼女は意味深そうにカトリアに向き直る。 それに対してカトリアは、そう言われるのを待っていたかのように口を開いた。 「そうね、ニーリンさん。セージが抜けてしまった穴、私が入ります」 「カトリアさん!?」 アストはカトリアに向けて驚きを見せる。 カトリアは驚くアストに微笑みかける。 「言ったよね?シャガルマガラと戦うって。私が、私自身の手でシャガルマガラと決別を果たさないと、私の本当の旅は始まらないから」 「でもカトリアさん、武器が握れないんじゃ……」 「それに関しては心配無用ではないか?」 心配するアストを一蹴するのはニーリン。 「私は以前からナイアードくんの記録をこっそり見ていたんだが、ここ数日から私達が受けていない依頼が成功されていたんだ。アルナイルくん、セルジュくん、オトモくん、そして私……他にハンターがいるとすれば?」 ニーリンのそれを聞いて、カトリアは参ったと言うように溜め息をついた。 「さすがニーリンさん、何でもお見通しね?」 「深緑の流星を侮ってもらっては困りますなぁ、イレーネ殿、いや……『猛焔』かな?」 カトリアは状況が飲み込めていないアストとツバキにも説明する。 「実を言うとね、私はここ数日からちょっとずつ依頼を受けていたの。アストくん達が依頼を受けている間にね」 「そ、そうだったんですか?」 「と言っても、特産キノコの納品とか、ジャギィの討伐くらいだけどね。シャガルマガラといつか戦う時か近いと思って、ね」 カトリアは改めて三人に向き直る。 「ずっと一人で終わらせようとは思ってたけど、皆が皆優しいから、つい頼りたくなっちゃった。シャガルマガラの討伐……協力してくれるかな?」 彼女のその言葉に、まずはツバキが応えた。 「ユリにとっても俺にとっても、このミナーヴァは大切な居場所。その長であるカトリアさんを守るのは当然のことですよ」 次にニーリン。 「一度は破棄しようと思っていた契約……これはまだ有効ですからな、報酬は弾ませてもらいますぞ?」 冗談めかすように言うニーリンに続くのは、アスト。 「カトリアさんが背負っておるモノがどれだけ重いのかは分かりません。でも、少しでも助けられるなら、俺はカトリアさんを助けたい。それだけです」 三人とも、協力するようだ。 その返事を聞いて、カトリアは笑顔で頷いた。 「みんなありがとう。私は、出来る限りで全力を尽くします」 その笑顔を見て、アストの心臓が少し跳ねた。 (何だろうな、この、カトリアさんを見ていると胸が暖かくなるこの感覚……) ふとアストは気付いた。 (まさか、これが恋なのか……?) カトリアにだけ感じる感覚。 戸惑っているアストを横目で見ているのはニーリン。 「……アルナイルくん」 「ん、何だ?ニーリン」 「ちょっと来い」 そう言うと、ニーリンはアストの手を掴んでその場から立ち去った。
シナト村の外れに連れてこられたアスト。 「まぁ座れ座れ」 ニーリンに諭され、アストは地べたに座り込む。 「どうしたんだよ、ニーリン」 何だかニーリンらしくない、とアストは心の中で思った。 ニーリンもアストの隣に座り込む。 「前にも言ったろう?私については気が向いたら話すとな」 そう、その言葉は、ワルキューレが作られる以前の地底洞窟でネルスキュラを狩り終わった時だ。 「その、気が向いたのさ」
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