- 日時: 2014/04/23 11:39
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: VAMIx/ex)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
三十九章 フィーネ
ニーリンの拡散弾による援護狙撃が加わってからは、一気呵成だった。 アストとセージが足元に張り付き、ネルスキュラの注意を一心に集める。 その隙に、ニーリンの拡散弾の長距離射撃がネルスキュラを捕らえ、ネルスキュラに爆発を浴びせる。 その爆撃でネルスキュラの体勢が崩れれば、即座にアストとセージが畳み掛ける。 おかげでネルスキュラは、外套にしていたゲリョスの皮を焼き払われ、毒棘を破壊され、獲物を狩ってきた爪まで折られる始末だ。 「ギッギシャッ……」 ネルスキュラな不利を悟ってか、途端に明後日の方向、エリア4の方へ向くとさっさと逃げ出す。 そんなネルスキュラの前に立ちはだかるは、ニーリン。 「やぁやぁネルスキュラくん、ごきげんよう」 ニーリンは呑気にネルスキュラに挨拶をしながら、妃竜砲【遠撃】を展開すると、その場で片膝立ちの姿勢に入った。 しゃがみ撃ちと言う、ヘビィボウガンの技能の一つだ。 弾倉にカートリッジを複数同時に挿入することで、通常のリロードとは比べ物にならない数の弾丸を放てるようになる。 しかし、ひどく重量が増えるため、立ったまま制御することが不可能になってしまう。故にしゃがむことで安定を保つのだ。 それは逆に言えば、咄嗟に動けないためにモンスターの前では無防備な姿を晒すことになる。 ネルスキュラはニーリンを無視して、自身が作り出した足場から地底洞窟元々の地盤に上がってくる。 それは全て、ニーリンの計算の内だった。 地盤に足を踏み入れた瞬間、ネルスキュラは突如全身を痙攣させた。 ネルスキュラの足元でバチバチと光を放っている円盤状の金属管が、ネルスキュラを縛り付けていた。 それは、シビレ罠だ。 「これは私からの君へのほんの気持ちだ、受け取ってくれ」 ニーリンは不敵に笑うと、妃竜砲【遠撃】の引き金を何度も引き絞る。その度に、改造されたパワーバレルから弾丸が放たれ、ネルスキュラの顔面を捕らえると同時に火炎を噴く。 弾頭に火薬草を仕込むことで火属性攻撃を可能とする、火炎弾だ。 「ニーリン、いつのまにシビレ罠とか仕掛けたんだ?」 「無駄口叩くなら攻撃しろニャ」 そう言いながらも、アストとセージは無防備なネルスキュラに攻撃を仕掛けている。 ネルスキュラは抵抗も出来ずに、前と後ろから攻め立てられる。 不意にニーリンがしゃがみ撃ちの体勢から元の体勢に戻し、妃竜砲【遠撃】の弾倉から火炎弾のカートリッジを切り離すと、調合によって補給された拡散弾をそこに仕込む。 ニーリンはネルスキュラに肉迫すると、妃竜砲【遠撃】のパワーバレルの銃口をネルスキュラの口の中に押し込んだ。 「これで、フィーネ(終わり)だ」 なんの躊躇いもなしに、引き金を引いた。 引くと同時に、ニーリンは離れた。 ネルスキュラの口の中で拡散弾の爆薬が炸裂し、ネルスキュラの頭が絶命したはじけイワシのように弾けとんだ。先程に火炎弾によって顔面がボロボロにされた、その上からだ。 ビチャビチャとネルスキュラの体液がニーリンに飛び散るが、それを涼しい顔で受けるニーリン。 「君が弱いんじゃあない……私が強すぎるのさ」 ネルスキュラはその場で倒れた。 手足を僅かに痙攣させることもせず、完全に息絶えていた。 シビレ罠は小さく爆ぜた。 「こっ、こっえぇぇぇぇ……」 アストは弾けとんだネルスキュラの頭を、怖いもの見たさに見てしまう。 口の中に拡散弾を撃ち込まれたのだ。それはこうもなる。 「なかなかやるニャ」 セージはニーリンとネルスキュラを見比べる。 ニーリンはと言うと、既に妃竜砲【遠撃】を納め、剥ぎ取りにかかっていた。 「おい、どうした?剥ぎ取らんのか?」 「いや、剥ぎ取るけどさ……」 アストは複雑そうな表情を浮かべながら、コマンドダガーを納めて剥ぎ取り専用ナイフを抜いた。 甲殻や棘、鋏角などが手に入る。戦闘中に破壊したゲリョスの皮や爪もだ。 「……」 あらかた剥ぎ取りを終えると、アストはニーリンに向き直った。 「あのさ。ニーリンってほんとに十七歳か?」 その問い掛けにニーリンはアストに振り向いた。 「何かな、それは私がお婆に見えるということかな?肌の艶や胸の張りにはそこそこ自信があるんだが……見たいのか?」 ニーリンはそう言ってレイアレジストを外そうとしている。 「ちっがうっ!見た目の話じゃないからっ!装備は外さなくていーぃっ!」 アストは一瞬でもニーリンの裸体を想像してしまったことに顔を真っ赤しにて、慌てて否定する。 「ははっ、冗談に決まってるだろう?君は面白いくらい純情だな、アルナイルくん」 「かっ、からかうなってのっ……!って、そうじゃない」 真っ赤な顔を消して、アストは複雑そうな表情をニーリンに向けた。 「何て言うかさ、モンスターの前でも余裕って感じだし、モンスターの口の中に直接弾丸撃つとか、突拍子もないことするし、その、年相応って感じじゃないんだよな。あ、これ褒めてるつもりなんだけど……」 「つまり、私が十七歳のうら若き乙女とは思えないくらい、モンスターに対して慣れすぎている、と言いたいのか?」 ニーリンはアストの言いたいことを即座にまとめてやる。 「そ、そんなとこ」 アストはニーリンの要約に納得した。 それを見て、ニーリンは小さく溜め息をついた。 「ナンセンスだな……」 「な、なんせ……?」 「馬鹿げている、ということだよ。「モンスターハンターに「モンスターが怖くないのか」と聞くとは、君はバカか?」と、私は言いたいのさ」 「バカ呼ばわりは慣れてるから怒らないけど……」 アストはセージだけでなく、ニーリンにもバカ呼ばわりされたことに少しだけ呆れを感じた。ここで怒りを感じないのは彼の日頃の習慣だ。 「モンスターが怖くないのか?そんなもの、怖いに決まってるじゃないか。それを表に出さないのがハンターだ」 ニーリンは皮肉げに続ける。 「私達モンスターハンターは、命懸けで自分の何十倍も大きなモンスターと対峙しなくてはならない。それは何故か?一般人を守り、営ませるのが目的だ。だから一般人はハンターにすがるしかない。ハンターの力がなければ、何も出来ないからだ。そんな人達を前に「私はモンスターが怖いです」なんて言ってみろ?失望を買うどころか、疎遠にされるぞ?」 「……それは、そうだけど……」 ニーリンの言うことは間違いではない。むしろ正解だ。 「無駄が過ぎたな。まぁ、私について気が向いたら話すよ」 ニーリンはそう言うと、踵を返してベースキャンプへの帰路に足を踏み入れた。 アストはそれ以上何も言えず、彼女の後を追った。 |