Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!二代目!企画発表!( No.755 )
  • 日時: 2014/06/11 18:06
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: /52.udKw)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 七十一章 俺は『モンスターハンター』なんだ

 残すところ、決戦まで明日だ。
 今朝、ライラは無事に全ての装備を完璧に仕上げ、今日一日は爆睡して過ごしている。
 シオンのツテ、エリスの資料、マガレットの薬品調合なども揃えるだけが揃い、万全に万全を期していた。
 準備は出来た。あとは明日を待つばかり。

 その日の夜。
 やるべきこと全てを終えて、アストは自室でベッドの中で横になっている。
 しかし、眠れない。目を閉じて無心になろうとしても、どうしてもカトリアの姿が離れないのだ。
(…………)
 そして、明日の相手だ。
 相手は古龍、シャガルマガラだ。
 もしかすると、いや、もしかしなくても、生きて帰れないかもしれない。
 それでも、カトリアや皆のためにも生きて帰らなくてはならない。
 ふと、ドアがノックされる。
「アストくん、起きてる?」
 ドア越しから聞こえる声はユリだ。
「ユリ?起きてるけど……なんだ?」
「入っていい?」
「え?う、うん」
 アストはベッドから起き上がり、ドアの鍵を開けてやる。
 ドアの向こうから、寝間着のユリが現れる。
「なんか、私も眠れなくて……」
 頬を赤らめて、上目使いのユリ。服装も寝間着故に一瞬アストの心臓が跳ねたが、それも本当に一瞬だ。
「奇遇、か?俺も眠れない」
「ちょっと、お話ししていい?」
「あぁ、いいよ」
 アストとユリはベッドに腰掛け、隣り合う。
 何から話せばいいのか分からないのか、二人して黙っているだけだった。
 どれだけ沈黙が続いたのか、ユリが最初に動いた。
「アストくん。明日、だね」
 明日。
 そう、明日だ。
「明日、だな……」
 アストがそう呟くように答えると同時に、ユリがアストの肩に寄り添う。この間と違って、少しだけ恥ずかしそうに。
「こんなこと言うと、フラグだとか言われちゃうかも知れないけどさ、言ってもいい?」
 アストはまずフラグの意味も分かっていないが、頷く。
「絶対に、生きて帰ってきてね。帰ってこなかったら、告白した意味無くなっちゃうから」
「……」
 アストは途端に胃を絞られるような感覚に襲われた。
 ユリは、アストを本気で愛しく思っているのだ。
 この娘の期待にも答えてあげたい。
「カトリアさん」
 そう言ったのは、ユリだった。
「アストくん、好きなんでしょ?本気で」
「ユリ……?」
 なぜそれがユリに分かっていた?
 構わずユリは続ける。
「女の勘、かな。アストくんを見てたら、なんか分かっちゃったの」
 ユリは悪戯っぽい笑顔をアストに見せる。
 が、その瞳がうっすらと潤んでいるのをアストは見逃さなかった。
「っ……、私ってバカだね……。アストくんと、カトリアさんの繋がりの間に、入れるわけなかったのにっ……」
「ユリ、俺は……」
 ユリはアストに喋らせないように遮る。
「っく……っ、ご、めんね……ぅっ、変なっ、こと言って……んっ、アストくんが、っ、カトリアさんのこと好きって分かっててっ……、それにっ、明日、もしかして、アストくんが、っひ、死んじゃうかもって、思ったら……っ」
「…………」
 ユリは涙を堪えることをやめ、アストの胸に顔をうずくめた。
「嫌っ、そんなの嫌だよ!いかないでよっ、死ぬかもしれない所に行くなんてやめてよ!私はこんなにもアストくんのことが好きなのにっ、どうしてっ……、どうしてぇっ……!」
 感情をさらけ出し、ユリはアストに泣きわめく。
 アストはそんなユリを前に、ハッキリ言った。
 彼女にとって、残酷で、絶望に突き落とすような言葉でもだ。
「俺は『モンスターハンター』なんだ」
 アストは一言単語を繋げていく度に息が詰まることを自覚していた。
「モンスターで苦しんでいる人がいるなら、それを助けるためにモンスターを狩るんだ。カトリアさんは、過去からずっとシャガルマガラで苦しんでいるなら、俺はそれを助けたい。それ以前に……」
 アストは躊躇いを捨てた。
「俺はカトリアさんが好きなんだ。モンスターハンターなんかじゃなくても、助けたい。いや、助けるんだ」
「っ!」
 その言葉に、ユリは悲痛に息を吸った。
「だからごめん、俺は、ユリの気持ちには答えてあげられない」
 言い切った。もう、言い訳は出来ない。
「……ずるいよ」
 ユリはアストの胸から顔を離した。その彼女の端正な顔は涙と涙笑いによってぐしゃぐしゃに歪んでいる。
「どうして、アストくんとカトリアさんはハンターになったのかな……?私も、ハンターになってれば良かったのかな……?」
 半笑いのような表情をアストに見せるユリ。
「ごめんね……」
 ユリは涙を拭って、精一杯の作り笑顔を見せる。
「でも、アストくんの、本気が聞けて嬉しかったよ……」
 ユリはベッドから立ち上がり、ドアを開けてアストの自室から出ようとする。
「ユリッ……」
 アストはユリを引き留めようとする。
 ドアを開けてから、ユリはアストに振り向く。
「お休みなさい」
 それだけ言ってから、ユリは外に出て、ドアを閉めた。
 アストはそれを見て、右の拳を震わせながら握った。爪で皮膚が切れてしまいそうなほど。
「……っ、なんでお前が謝るんだよっ……、一発叩くくらいしてくれよっ……叩かれるより、痛いじゃないかっ……!」
 アストは激しい自責の念に駈られた。
 だが、後悔するつもりはない。
 ユリはもっと痛いのだから。

 ユリはそのまま、一人で村の外れまで向かった。
 胸をおさえ、その場で座り込む。
「ヒロインは、私じゃなかったんだね……」
 痛い。
 苦しい。
 だが構わない。これで正しかったのだ。
 自分は彼のヒロインに相応しくなかったのだ。
 ただ、それだけだ。
「っくっ……ひぅっ……ぇぇっ……!」
 また涙が溢れる。
 ユリは全てを吐き出した。
 声にならない、生の感情がシナト村に響くが、それを聞いているのは、アストだけだった。