- 日時: 2014/06/23 01:31
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: Jwf0Ez4O)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
七十六章 この胸に溢れ続ける熱い想いを
シャガルマガラに鷲掴みにされたツバキはそのまま持ち上げられ、その翼脚に握り潰されていく。彼女を守るショウグンギザミの頑強な甲殻でさえ、その握力に耐えきれず、バキバキと不愉快な音を立てながら壊れていく。 「うぐぅぅっ、ぁっがっ、うぅぁぁぁっ……!」 このままでは、彼女の身体が圧殺されてしまう。 「んの野郎っ、ツバキを放せぇぇぇぇぇっ!!」 アストはニーリンを守って消耗しているにも関わらず、シャガルマガラの顔面に突っ込み、ソードモードの炎斧アクセリオンを振り回す。 が、それは弾かれてしまう。 既に炎斧アクセリオンの剣にはエネルギーが最大まで溜まっており、オーバーヒートを起こしてセーフティーが掛かっているのだ。 「こんな時にっ……!」 アストは舌打ちをしながらチャージし、アックスモードに変形させながら攻撃する。 「ツバキくん持ちこたえてぇっ!」 カトリアは開闘の焔竜棍を背中に納めると、ポーチから白い袋を取りだし、その中にある粉塵を振り撒いた。 生命の源と崇められる生命の粉に竜の爪を調合し、振り撒くことで、粉塵に触れた者の体力を回復させる、生命の粉塵だ。この効果はヒトやアイルーにしか反応せず、他のモンスターには効果が発揮されない。 ツバキだけでなく、アストやニーリン、もちろんカトリアにもその生命の粉塵によって癒される。 ニーリンはその回復によって力強く立ち上がる。 「こ、のっ、ゲスがぁっ!!」 これまでに見なかった、怒りを露にしてニーリンはレックスハウルの銃口をシャガルマガラに向け、引き金を引いた。 ニーリンがブレ幅すらも計算したのかは分からないが、その徹甲榴弾はシャガルマガラの翼脚の関節に正確に突き刺さり、爆発を起こした。 「グギャァォゥッ!?」 関節をピンポイントに爆破されたシャガルマガラは驚いてツバキを手放してしまう。 手放されたツバキは力なく地面に投げ出される。 「カトリアさんっ、ツバキを頼みます!」 アストはそのままシャガルマガラの腹の下でアックスモードの炎斧アクセリオンを振るい、火属性と榴弾ビンの二重の爆発を巻き起こしていく。 ニーリンはもはや狙いなど付けずに乱れ撃つように引き金を引いてはリロードを繰り返す。しかしそれはどうブレてもアストを巻き込まない。 「私を怒らせた君は実に罪深いぞ、シャガルマガラくん」 ニーリンは実に爽やかな笑顔をしているが、その目は一切笑っていない。その切れ長の睚は、眼光だけで斬れるのではないかと思うほど鋭く尖っている。 アストとニーリンが攻め立てる側で、カトリアはツバキを抱き起こす。 「ツバキくんっ、しっかりして!」 ツバキのギザミシリーズは各所各所が砕け、装備している意味があるのか分からないほど損傷している。 「つっ……やったな……!」 ツバキはカトリアの手を払いのけると、自力で立ち上がって回復薬グレートを飲み干した。 「ツバキくん、大丈夫なの?」 カトリアはツバキに声をかけてやるが、ツバキは喋らずに、右手を上げてカトリアに問題ないを告げて、戦線へ復帰する。 アストは感じていた。 炎斧アクセリオンの斬れ味が落ちてきていることに。 砥石を使いたいが、ニーリンだけに任せるのはあまりに無茶だ。 しかし、このままではロクに攻撃も仕掛けられない。 どうする、と思った時、ツバキが再びシャガルマガラに果敢に挑んでいるのが見えた。 ギザミシリーズは半壊しているが、彼女の気迫は衰えていない。 (少しだけ、保ってくれよ) アストはシャガルマガラから離れて砥石を使用する。 炎斧アクセリオンに十分な斬れ味が戻り、アストも再度接近する。 カトリアは開闘の焔竜棍を振るいながら、アスト、ニーリン、ツバキを見回す。 傷付きながらも、皆善戦している。 もしかすると、このシャガルマガラはあの時のシャガルマガラとは違う個体なのかも知れない。 具体的にそれは分からないが、過去は過去。今は今だ。 あれから時は過ぎていってしまったが、かつての四大女神達と同じくらいかけがえの無い仲間達が、自分と共に、かつて自分を絶望に陥れたモンスターと戦ってくれている。 そして、何よりも、それよりも大切な存在も見つけられた。 たった一人の少年、アスト・アルナイル。 彼はあまりにも自分と似すぎていた。だが、彼は自分とは違った。 何事にも真っ正直に挑みかかり、その結果が見せてくれる眩しすぎるほどの笑顔が好きになっていた。 どんな困難でも諦めずに、その姿勢が仲間達を惹き付け、互いを磨きあい、足りないところを補いあって、そしてここまでやってきた。 そして、一人で背負いこんでいた自分に、彼は支えたいと、支えるのだと言ってくれた。 これまでに多くのヒトと出会っては別れを繰り返してきた。 そのなかでも、彼ほど素敵な男性(ヒト)はいなかった。 だからこそだろう。 好きに、愛しくなってしまったのも。 その彼が、シャガルマガラに攻撃されて、吹き飛ばされて地面に叩き付けられても、なお立ち上がる。 「俺は負けないっ。生きて……生きて明日へっ、歩き続けるんだ!」 そうだ。 生きるのだ。 生きて明日へ行くのだ。 彼と、一緒に。 胸の中が熱くなる。気持ちが昂る。心臓が高鳴る。心が躍る。 涙が、溢れる。 その涙を飲み込んで、カトリアは前へ踏み出した。 じきにオオシナトが送ってきた体液の効果が切れてくる。 「私もだよっ、アストくん……!」 開闘の焔竜棍を振るってオオシナトを放ち、瞬く間に赤、朱、白の体液を身体に送り込む。 もう、何も怖くない。 彼がいるなら、恐れることは何もない。 「みんな……私はもう、迷わない!!」 蒼い瞳は涙を堪えて潤んでいるが、悲しみではない。 嬉しさと、明日への希望に満ちた涙だ。 「っはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 カトリアはシャガルマガラに躍りかかる。 吹き荒れる焔は赤い旋風を巻き起こし、シャガルマガラの白い鱗を焼き焦がしていく。 「グゥガォゥッ!?」 シャガルマガラは怯みながらもカトリアに向き直る。 忌々しい焔をぶつけてくるこの愚者を踏み潰そうと翼脚を振り上げる……が、そこに既にカトリアの姿はなかった。 彼女は跳躍しながらシャガルマガラを攻撃し、シャガルマガラの側面に着地、それと同時にまたも焔の旋風を放つ。 |