Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!二代目!企画考案中!( No.846 )
  • 日時: 2014/06/18 18:05
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: lR4zVv9J)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 七十八章 アスト

「っ!?」
 シナト村でハンター達の生還を待っているミナーヴァ達と村人達。
 その中で、突然ユリは胸をおさえた。
「どうしたのさ、ユリ?」
 ライラは神妙な顔で胸をおさえているユリの顔を覗きこむ。
 そのユリの表情は、焦燥と不安に満ちていた。
「分からないんです……でも、何か……胸騒ぎが、するんです……」
 ユリは遠くの空を見通す。
 その方向は、禁足地だ。
「アストくん…………」

 シャガルマガラが放った、特大の狂竜ブレスの爆発はまだ晴れない。
「「「…………」」」
 カトリア、ニーリン、ツバキは黙ってそれが晴れるのを待っていた。
 徐々にそれが晴れてきて、輪郭が見えてくる。
 最初に見えたのは、シャガルマガラの頭部だった。
 最もそれは、アストが放った炎斧アクセリオンの剣が頸に刺さっており、既に息の根は絶たれていた。
 次に見えたのはその爆発が放たれた後の地形周りだ。
 巨大なハンマーで殴ったかのように、地盤に亀裂が入っており、どれだけの力があったのか想像も出来ない。
 そして、次に見えたモノ。
 それは、シャガルマガラの腹の下から這い出てきた、レウスシリーズのハンターだ。防具は大破し、レウスヘルムは吹き飛んだのか着いていなかった。
 そう、その彼は、アスト・アルナイルだ。
「ア……ア、アス……ッ……!」
 カトリアは涙を堪えながら、その彼へゆっくり駆け寄る。
 生きていた。
 あれだけの爆発に巻き込まれていながら、彼は生きていた。
 アストはシャガルマガラから這い出ると、立ち上がった。
 カトリアは、何も言わずに彼に飛び付いた。
 泣きじゃくりながら嗚咽を漏らし、愛する彼の胸に抱き付く。
「もうっ、どうしてこんなっ、無茶するのぉっ……!」
 それを聞いて、アストは小さく笑った。
「だから言ったじゃないですか……モンスターハンターに無茶するなって言う方が無茶だって」
 アストは初めての依頼を達成して帰ってきて、カトリアに介抱された時と同じ言い回しを使った。
「っくっ、死んじゃったかもっ、て、思っちゃったじゃないぃっ……!」
 カトリアはぎゅぅぅぅっ、とアストを抱きしめる。
「カ、カトリアさん痛い、痛いです。嬉しいですけど痛いですってば」
「ダメ、こうしてされなさいっ」
 カトリアはアストを黙らせてさらに強く抱く。
 ニーリンとツバキも二人の元へ向かおうとする。
「これにて一件落着。ハッピーエンドだな」
 ニーリンはふっ、と一息ついた。
「全員無事で、何よりかな」
 ツバキも小さく一息つく。
 死ぬかも知れないこの戦いで、全員生き残れたのだ。
 そして、シャガルマガラの討伐にも成功している。
 ベストな結果だ。
 ……そう、ハッピーエンドの、そのはずだった。
 突如、アストとカトリアの周りの地面にピシピシと亀裂が増え始めた。
「!!」
 それにいち早く気付いたアストは、抱き付いているカトリアを無理矢理引き剥がし、自分の前へ突き飛ばした。
「きゃっ……!?」
 カトリアは何が起きたのか分からないままアストに突き飛ばされた。
 その一瞬だった。
 地盤が、砕けた。
 その亀裂は、アストとカトリアを挟んでいる。
 地盤は崩落し、アストとシャガルマガラを連れて絶壁の下へ落ちていった。
 見えなくなった。
 カトリアは、その瞬間を直視してしまっていた。
 アストが、目の前から消えていった。
「……、アスト、くん……?」
 カトリアは彼の名を口にした。
 答えるべき彼は、もう目の前にはいない。
 カトリアの膝が折れ、シルバーソルグリーヴが地面に着いた。
「アスト……く、ん……?」
 彼女の蒼い瞳から、また涙が流れ始めた。
 それは、嬉しさなどではない。
 絶望と、悲しみだ。
「こんな……こんなのってっ……」
 カトリアは涙を堪えられなくなり、感情をぶちまけた。
「だから無茶しちゃダメだって言ったじゃない!!」
 何も残っていない絶壁の崖に叫び続けるカトリア。
 ツバキはそんなカトリアに近付こうとするが、それはニーリンが留めた。
 ニーリンの碧眼は「今はいい」と言っていた。
 ツバキが何か言ったところで、今のカトリアに聞く耳は持たないと分かっているからだ。
「シャガルマガラの討伐なんてどうでもいいよぉっ!どうして私は同じ過ちを繰り返したのぉっ!?それもっ、一番大切にしなきゃいけないものをぉっ!」
 声色など壊れ、カトリアはただただ、虚空に、沈もうとしている夕陽に感情を吐き出す。
 さっきまで、彼に触れていたシルバーソルシリーズを見下ろす。
「こんなもの着けたってっ、守りたいものが守れなきゃ一緒じゃないのぉっ!私が一番欲しかったのはっ、こんな鉄屑じゃないよぉっ!」
 両手のシルバーソルアームで何度も地面を殴った。
 手の痛みなどどうにも感じられない。
 そんな痛みより、心の痛みの方が、ずっと痛い。
「アストくんのいない私なんて要らないよっ、モンスターハンターとしての力だって要らないっ、何も欲しくないよっ!」
 カトリアは嫌々をする子どものように首を左右に振る。
「どうしてっ、どうしてこんなぁっ……」
 カトリアは天に向かって吼えた。
「私からどれだけ大切な人を奪えばっ、気が済むのぉ!!」
 それから、カトリアは泣き続けた。
 何十分も、何時間も、涙が渇れても泣き続けた。

 疲れ果てて眠るまで泣いたカトリアを連れてシナト村へ帰還したのは、丸一日が経ってからだった。
 村に生還出来たのは、カトリア、ニーリン、ツバキの三人だけだった。
 この戦いで、彼だけが帰ってこなかった。
 エリスは泣き崩れ、ライラはばつの悪そうに唇を噛み、ルピナスは静かに涙を流し、シオンは号泣し、マガレットは膝を折った。
 ユリはカトリアにやつ当たった。
 どうしてアストくんをまもってくれなかったの、と。
 カトリアはただ、ごめんね、としか言えなかった。

 輪廻の唄は、そこで止まったーーーーー。