- 日時: 2014/06/22 02:19
- 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: RhuRuM5P)
モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
終章 輪廻の唄
あれから、一年が経った。 シャガルマガラの討伐に成功してから、ミナーヴァは再びバルバレに戻った。 ユリとツバキは、今度こそギルドに保護されて、いるべき居場所に帰っていった。 ユリはこう言っていた。 「アストくんからたくさんの勇気を貰ったから、吹っ切れた。だから私はあるべき姿に戻ります」 そう言い残し、ツバキと共に旅立った。今度会うときは、どこかは分からないが、どこかで会えるだろう。何せ、彼女は大陸を股にかける歌姫なのだから。 ニーリンも、ミナーヴァとの長期契約の期限が過ぎたために、多額の報酬金を受け取ってミナーヴァを離れた。 「一度は勘当されたが、顔を見せるくらいはいいだろう」 彼女の実家はバルバレから遠く離れた大陸にあるらしい。 彼女にとって肉親は憎むべき存在だが、腐っても親。自分の子を心配しないはずがない。 マガレットも故郷に戻り、開業を始めたいらしい。 こうして、ミナーヴァは結成されたばかりのメンバーだけとなってしまった。 ただ、一人の少年と、一匹のオトモアイルーを除いて。 再び『暁の奏姫』を名乗り始めたユリは、今日もどこかで観衆を前にその歌声を響かせていた。
春風に揺られ舞う桜 とても愛しくて 夏の日差しに目を細め 招かれた星空へ 紅葉の秋に包まれて 静かな実りを拾う 粉雪舞い散るこの冬に 温もりを探して spring(春) summer(夏) autumn(秋) winter(冬) この季節は繰り返す 翼広げて舞おう この空を 一緒にいよう この時を 共に歩もう この道を 二人で奏でよう この唄を I feel so your love (私はあなたの愛を感じている)
歓声に包まれる会場の外で、ツバキは一人の少年と話し込んでいた。 「いいのか?顔くらい見せてやったらどうだ?」 フルフルSシリーズを装備しているツバキは、その蒼火竜リオレウス亜種の防具、リオソウルシリーズを纏う少年と、会場の舞台で歌うユリを見比べた。 「いいさ。今ここで会わなくても、また会えるさ」 「そうか……もう、行くのか?」 「悪いな、ツバキ。俺は、会いたい人に会いに行きたいんだ。じゃあな」 彼はツバキに背を向けると、その場を立ち去った。 彼のオトモアイルーもしかりだ。 「……『私』も恋人作ろっかな?」 ふと、ツバキは本当の自分に戻った。
船旅の途中、ニーリンはある一人の少年とオトモアイルーと出会っていた。 「いやはや……まさか君達とこんなところで会うとはなぁ。世の中、何が起こるか分からないな」 リオハートシリーズを纏うニーリンは、その少年とオトモアイルーを見て微笑んだ。 「さすがにあの時はヤバイと思ったなぁ。でも、会いたい人に会いたい一心で生き長らえたというか……」 「君は変わらないなぁ、いや全く……それは私もか?」 「たった一年少しじゃ、人は変わんないさ」 少年は分かったような口振りをする。 ふと、船が港に近付く。 「っと、俺達はここで降りるよ。じゃあな、ニーリン」 「うむ。道中お気を付けてなぁ」 ニーリンは船室へ向かう彼とオトモアイルーを見送った。 「末長く、お幸せにな」 ドアに隠れた彼の背中に、静かに呟くニーリン。
カトリアは、今日も自室で自分の業務をこなしていた。 シャガルマガラの討伐によって、ミナーヴァは大衆からは英雄のように見られていたが、その功績者のほとんどがもういない。 故に英雄呼ばわりもすぐに鎮静化し、元の様子に戻るのも時間はかからなかった。 「……よっし、完了っと」 長い長い月日の末に、カトリアは立ち直った。 きっと彼は生きているはずだと、いつか自分の前に現れてくれるはずだと、そう信じて生きるようになった。いや、そうでなくては生きられない。 大量の書類の片付けを終えて、カトリアは背伸びをする。 気晴らしに、外へ出ることにした。 エリスはハンター達に依頼を紹介してやり、ライラは様々な依頼の品を造り上げ、ルピナスは飯時の客を相手に奮闘し、シオンはせっせと接客をしている。 バルバレは相変わらず人が行き交う。 この人混みの中にいるのでは、と毎日期待しながらも見つからず、そんな一年が無為に過ぎていった。 今日も見つからない。 カトリアは落胆し、俯いた。 俯く内に、涙が流れてきた。 道行く人はどうしたのかとカトリアを一瞥するが、すぐに通り過ぎていく。 そんな中、一人の少年が話し掛けてきた。 「何をそんなに落ち込んでいるんですか?」 オトモアイルーも続く。 「大方、お前を探して見つからないから、だろうがニャ。どっちもどっちもバカだニャ」 「おいおいセージ、そこまでバカ呼ばわりしなくてもいいだろうが」 カトリアは、顔を上げた。 そこにいたのは、純白の毛並みのオトモアイルー、セージ。 そして、そのセージの隣にいる、リオソウルシリーズのハンターだ。 リオソウルヘルムで顔は分からない。 「あ、あなたは……?」 蒼い瞳を潤ませ、カトリアは問い掛ける。 それに答えるように、リオソウルシリーズの少年は、ヘルムを脱いでその顔を晒した。 短い黒髪。少しだけ鋭くなった、赤い瞳。まだ少年の面影が残るその輪郭。 「……!!」 カトリアは両手で口を隠しながら目を見開いた。 「ただいま、カトリアさん。遅くなりました」 そう……彼は帰ってきたのだ。 カトリアは涙を溢れさせ、彼の少しだけ逞しくなった身体に抱き付いた。 「おかえり……おかえりなさい……!!」 堪えることなど知らない赤子のように、カトリアは泣いた。 嬉しさと、嬉しさと、嬉しさにだ。 もう二度と離すものかと言わんばかりに、カトリアは彼を抱き締める。 彼も、優しくカトリアを抱き止めた。 一年ぶりに互いの温もりを感じられた。 今は、それが何よりも嬉しい。
季節は廻り、一つの物語がようやく、本当の始まりを迎えたーーーーー。
HAPPY END…… |