- 日時: 2014/08/22 14:44
- 名前: デルタゼータ (ID: b.ocwrFk)
モンスターハンター 覇を宿す者
第一部 〜お転婆姫と破壊の王子〜
1章 二人の日常【前編】
そこは灼熱の世界だ。 一般的に砂漠と呼ばれるその地は、熱砂にまみれて訪れる者を暑く迎えてくれる。 レイはその通常の暑さを遥かに越えた砂の海を歩いていた。
「暑いぃ……」
クーラードリンクは飲んでいるので、体温が高くなりすぎることはないが、体感温度は変わらない。 今回のターゲットはドスゲネポス。 本来、レイのHRでは取るに足らない相手だ。 しかし、これにはわけがあった。 少し前に遡る。
いつものように、ポッケ村で狩りに出る準備を整えていた。 桜色のリオハートシリーズを装備し、背中にはホーリーセーバーではなく、ランポスクロウズ改を背負う。これは、ドスゲネポスには水属性がたいして有効でないからだ。
「レイー、今日は何を狩りにいくの?」
借家の外から、シルエの声が聞こえてくる。 レイはドアを開けてセルエと顔を合わせる。
「今日はドスゲネポスを狩りにいく、けど!」
レイは突然声を強くした。
「今日はお前ついてくるなよッ、今日は私だけでやるんだからな!」
一人だけで行くことを強く主張するレイ。 シルエは「何で?」とでも言いたげな表情をする。
「どうしたの?急にさ」
「私だってハンターなんだ、いつまでもお前の世話にはなれん!」
そう、実のところレイの実力はイャンクックと必死に戦ってギリギリ勝てるかどうかのレベルなのだ。しかしながら、彼女がそれだけの装備を持てているのはシルエのおかげである。
「いいじゃん別にさ。レイだって頑張ってるし」
シルエは軽くモノを言うが、レイからすればそうもいかない。
「と、とにかく今日は私は一人でやるんだッ、ついてくるなよ!」
そう言って、レイは借家を飛び出した。
そして今に至る。
「見てろよ、絶対一人でやってやるんだからな……!」
レイは力強く意気込む。
「ドスゲネポスくらいなら、ドスランポスと大差はないんだ。落ち着けば、勝てる」
ドスランポスとドスゲネポスの違いは、牙に強力な神経毒が仕込まれていることだが、それも当たらなければ効果はない。 携帯食料を水で腹に流し込みながら、レイは洞窟へ入っていく。
砂漠の洞窟は、冷え込んだ地下水が流れており、先程の灼熱の気温とはうってかわる。
「うっ、寒いぃッ……!」
ここはかなり冷える。ホットドリンクが無ければ身体が耐えられず、体温を維持するためにいつも以上にカロリーを消費する。その上、ここは広いとは言えない地形だ。ドスゲネポスはここにも現れるが出来ればここでの戦闘は避けたい。 さっさとここを通りすぎて、寒くない涼しい場所に移動をしようとするレイ。 だが、運は時として凶となって人に襲いかかる。
「ギャォアァッ、ギャォアァッ」
ちょうどその進行方向に、ターゲットのドスゲネポスが現れた。
「よ、よりにもよって!?」
レイは動揺する。 しかし、シルエともっと恐ろしいモンスターと対峙してきたのだ。ドスゲネポスを見た程度で足がすくむことはない。 まずは後ろの入ってきた所へ逃げる。当然暑いが、狭い地形の中で戦うよりは遥かにマシだ。 とにかくまずは、とレイはドスゲネポスに背を向けて走ろうとする。 しかし、振り向いたその先にはいつの間にか数引きのゲネポスが逃げ道を塞いでいた。
「くそっ」
舌打ちしながら、レイは威嚇するドスゲネポスに振り向く。 身体が芯から冷えるように寒い。それでもここで仕掛けて退路を切り開かなくてはならない。 ランポスクロウズ改を抜き放ち、対峙する。 地面を蹴って、距離を詰めてくるドスゲネポスの側面に回り込む。
「でやあぁっ!」
踏み込みながらランポスクロウズ改の切っ先を正面へ向け、その赤く大きな爪をドスゲネポスの横腹に斬り込ませる。 ランポスクロウズ改に属性はないが、そのぶん武器そのものの性能は高い。 ドスゲネポスは横腹に取りつくレイを睨み付けると、素早く振り向いてレイを噛み付こうとその発達した二本の牙を振り上げる。
「来るッ」
レイは本能的に危機を察知し、反射的にドスゲネポスの牙をかわす。 若干かすめたがダメージはない。 牙を降り下ろして隙の出来たドスゲネポスにさらに攻め込むレイ。ランポスクロウズ改がドスゲネポスの強固な鱗を突き破り、皮を引き裂いていく。何度かドスゲネポスの攻撃をかすめたような感触を覚えはしたが、問題はない。
「やれる、やれるじゃないか!」
レイは気持ちを昂らせる。シルエに頼らなくとも戦えるのだと言う実感が戦意を高揚させる。 その一瞬の油断が、レイの本能を鈍らせた。
「ギャアァッ」
ドスゲネポスに集中ていたせいで、背後にいたゲネポスの存在がおざなりになっていた。ゲネポスは全く後ろを気にしていないレイの背中に飛びかかった。 背後からの攻撃に不意を突かれて、レイは体勢を崩してしまう。
「うっ!?しまっ……」
ゲネポスに背中からのし掛かれ、無防備になっしまったレイ。 ゲネポスがその神経毒の詰まった牙をレイに突き刺そうと振り抜く。
「邪魔だ、どけーッ!!」
レイは身体をバネのように跳ねらせて、ゲネポスを蹴り飛ばす。 起き上がって体勢を整えた時には、ドスゲネポスが目の前に迫っていた。
「ガァァァァッ!」
ドスゲネポスは唾液を垂らしながらレイに襲いかかる。 反応の遅れたレイはそれを回避しきれず、肩に直撃を受けてしまう。 その瞬間、レイの全身に神経毒が回る。
「ッ、あぁぁぁっ……!?」
一瞬で身体が言うことを聞かなくなる。 瞬きすらも許されずに、レイはドスゲネポスに押し倒された。 危険だと分かっていても、どうにもならない。 レイは後悔した。こんなことになるなら、素直にシルエと一緒に行けば良かった。余計な意地など張らずに、彼に頼れば良かったのかもしれない。 ドスゲネポスはエサを仕留めたと言わんばかりに狂喜し、早速ありつこうと牙を剥き出す。 死ぬ。こんなにも簡単にだ。 それもいいかもしれない。母の元に逝けるのなら。
「何してんのお前」
突然、ドスゲネポスは吹き飛んだ。 そこに見えたのは、漆黒の鎧と、見馴れた黒髪と黒い瞳。
「ッ、シルッ、ェ……!?」
「助けに来たよー、レイ」 |