Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!トリップ付けるの推奨( No.730 )
  • 日時: 2014/03/29 12:11
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 5CcCDnil)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜
 
 九章 おいしいごはん

 夕闇の中、アストとセージはバルバレに帰ってきた。
 依頼達成を報告するために、エリスの元へ向かう。
 カトリアもエリスの側にいた。
「あ、お帰りなさい。アスト、く……ん?」
 カトリアはあからさまに身体を引き摺っているアストを見て目を見開く。
 慌ててアストに駆け寄った。
「どうしたのっ!?まさかっ、どこか怪我したの!?」
 本気で心配しているカトリアの表情に、アストは作り笑顔で応えた。
「あはは、ちょっとドスジャギィに肋骨何本かやられました」
「ドスジャギィ!?それに、肋骨やられたって……」
 慌てるカトリアとは対照的に、セージは涼しい顔で続ける。
「目撃情報のなかったドスジャギィに襲われたのニャ。逃げようとは思ったんだがニャ、アストのバカが狩りたい狩りたいとうるさくてニャ。それで討伐には成功したが、このザマニャ」
「おいセージ、お前だって乗り気だったろ」
「おっと、マタタビが落ちたニャ」
 セージはアストから目を逸らすように足元を見やる。
「話逸らすなぁっ……って、叫んだら響く……」
 アストは激痛に顔を歪めて脇を押さえる。
 カトリアはアストの身体を支えてやる。
「もう、無理したらダメなんだから」
「すいません、調子乗りました」
 カトリアはアストをハンター用の馬車に連れていく。
 ふとアストは思った。
 何故カトリアのような女の子が、完全武装しているハンターたる自分を支えられるのか?
 華奢そうに見えて、意外と筋肉質なのかもしれない。
 しかし今それを訊けるような状態ではないため、アストは素直に支えられていた。
 馬車に入るなり、カトリアはアストをベッドに座らせて、彼のハンターシリーズをテキパキと外し始める。
 それも何故かと思うが、気がつけばインナーだけの姿になっていた。
「いい?もうこんな無茶したら駄目だからね?」
 カトリアは叱るようにアストに言い聞かせる。
「いやぁ、ハンターに無茶するなって方が無ち……」
「ダ・メ・だ・か・ら・ね!?」
「……はい」
 カトリアの本気の表情は、アストを従わせるには十分な威力を持っていた。
 それを見てカトリアは安堵したように息をついた。
「……ほんとに、……と……っくりなんだから……」
「カトリアさん?」
 アストがカトリアの顔を見上げていた。
「もうすぐルピナスさんが晩ごはん作り終わるから、着替えるなら早くね」
 それだけ言い残すと、カトリアは馬車から出ていった。
 まだカトリアと言う人物を把握しきれていない面もあるが、何となく様子が妙な気もする。
 アストはとりあえずインナーの代わりに普通の普段着を着用する。

 辺りはすっかり夜闇に包まれ、ほとんどの営業が閉じられている時だ。
「んーと、ルピナスさんの所かな」
 アストはカトリアに案内された所へゆっくりと向かう。
 既に、アスト以外のキャラバンのメンバーが席について待っていた。
「あらぁ、アストくんのぉ、ご登場ですねぇ」
 ルピナスは料理の盛られた皿を運んでいると、アストの存在に気付いた。
「いよっ、待ってました!我らミナーヴァのハンター殿!」
 ライラは茶化すように口笛を吹く。
「……遅いです」
 エリスは無表情のままアストに文句を言う。
「わはーっ、来ました来ましたーっ!」
 シオンは満面の笑顔で手を振る。
 歓迎するつもり満々だ。
「アストくん、こっちこっち」
 カトリアが手招きしてくる。
 円卓のテーブルの、ちょうどカトリアの隣だ。
「あ、はい」
 アストはカトリアの手招きに誘われて、その席に座る。
 右にカトリア、左にライラと言った形だ。
「はぁい。皆さんお待たせしましたぁ。今日はぁ、大雪米のごはんにぃ、特産キノコキムチ、七味ソーセージと砲丸キャベツの炒めものにぃ、デザートに北風みかんとクヨクヨーグルトですよぉ」
 ルピナスは最後の用意を持ってくると、彼女も席につく。
「ではぁ、皆さん手を合わせてぇ……」
 全員、両手の平を合わせる。
「命から命へ紡ぐぅ、その命の廻り(めぐり)をほんの少しを頂戴することにぃ、感謝を込めてぇ……」
「「「「いただきます」」」」」
「い、いただきます」
 ワンテンポ遅れたのはアストだ。
 いただきますを終えると、皆が皆ルピナスの料理にありつく。
「ん〜っ、やっぱルピナスの飯は美味い!」
「……(もぐもぐもぐもぐ)」
「感謝幸せですーっ」
 ライラ、エリス、シオンは本当に美味しそうに頬張る。
 アストも用意された箸を手に食べようとするが……
「な、何ですかこのおひつは……」
 アストのスペースのテーブルには、丸々一つおひつが佇んでいた。しかも、炊きたての大雪米たっぷりの。
「それはぁ、アストくんのごはんですよぉ。たぁくさん炊きましたからぁ、どうぞぉ」
 ルピナスは悪意などまるで感じられないほどの柔らかい微笑みでアストのそのおひつを指す。
 裕に三合は詰まっているこれを、食べろと言うのだ。
「あ、あは、いただきます……」
 まずは一口。
 固過ぎもせず、柔らか過ぎもしない、まさに理想の米はアストの歯にすりつぶされていく。
「す、すっげぇ美味いです……」
 アストは自分の心に正直に答えた。
「本当ですかぁ?それは良かったですぅ」
 ルピナスは満足そうに頷く。
 アストはおかずの特産キノコキムチや、炒めものにも箸を伸ばす。
 それらもまた美味であり、伴って見る内におひつの中の大雪米も無くなっていく。
 が……
「ちょい、キツイ、です……」
 おひつの中の大雪米が残り四分の一を切った時、おかずが無くなり、アストの箸は止まっていた。
 同時に、腹も限界を迎えていた。
「でしたらぁ、こんがり肉でも焼きましょうかぁ?」
「お、お願いします……」
 こんがり肉は狩りの合間に食べるのが基本なのだが、この正しく大雪のようなご飯を食べきるには、何か別の味も欲しい。
「はぁい。ちょっと待っていてくださいねぇ」
 ルピナスは厨房へ向かうと、保存していた生肉を取りだし、火にかける。
 上手に焼くための肉焼きの歌を口ずさみながら、ルピナスは骨に取り付けたハンドルを回す。
「上手にぃ、焼けましたぁ」

 その後、こんがり肉による増援によって、どうにかアストはおひつの中の大雪米を完食した。
「ご、ごちそうさまでした……」
「はぁい。お粗末様ですぅ」
 ルピナスはニコニコとアストの食器を片付けていく。
「つ、疲れた……」
 食事時に疲れる思いをしたのは初めてだ。
 後でルピナスに次からはもう少し少なくていいと言わなくては、アスト本人が大変なことになりそうだ。